第5話
午後二つ目の講義の時間も半分を過ぎようとした頃。
ただ黙々と黒板を写すのにも飽きてきて睡魔が軽快に僕を襲いはじめた。
寝るのもアレだなー、と机の下で携帯を見ようとした瞬間、とても大事なことを思い出した。
そういえばメルアド教えてもらってるじゃん。
今の今まで完全に忘れてたわ。なんかすっげえ適当に渡されたような気もするし朝にあんな状況だからいろんなことが吹っ飛んでいたんだな、とか自分の中で忘れていた言い訳をしながらとりあえずはメールしてみよう、と思いたってメール。
なんだかあの雰囲気だとメールは返ってこないでそのまま夜によく分かる解説編になるような気もしたが、もう心はそちらに行ってしまって後は適当に合間にノート取ろう、くらいのテンションになってしまっているから仕方ない。
メール送信完了の画面を見てから二十分、そろそろ講義も終わるんじゃないかという時間に返信が返ってきた。
女子ってもっと返信早いものなんじゃないのか、と思ったがそこに関しては一度も女子とメールなんてしたことないから定かじゃないしそれに返信が来たことに少し舞い上がってるというか、予想外にわくわくしてるな、俺。
とりあえずそのワクワク気分のまま机の下の携帯を覗く。
うん、思った以上に素っ気ない文面。登録ありがとう、というのとまた夜に、という二行だけだ。
そりゃあ夜にとは言ってもうちの大学に通う大学生なのか、とか素性の設定に関して聞きたいじゃないですか。
ということで速攻で返信。
「あんたはうちの大学の学生なのか?」
案の定、返信は講義が終わるまでには来なかった。
これだと次の講義も真面目に受ける気がしないですな。
と、そうは思っても受けには行くのが自分の真面目な一面だったりするんじゃないか、と自画自賛してみるけど、黒板を写すだけで話はほとんど聞いてないから真面目でも何でもないな。
結局返信が来たのは次の講義が始まって二十分後。
題名は「これで満足?」である。いやに挑戦的ですね。
本文にはうちの法学部で同じ学年であること(ちなみに俺は三年生である。特に留年はしてない。えっへん)が書かれていた。
満足といえば満足なんだけど……幾分拍子抜けだな。
確かにこれ以上聞くこともないからな。ここらへんでとりあえずは、ってことにしておきましょう。
とはいえこんな対応取られてちょっとだけ何かをやり返してやりたいと思うのも事実。
ところがこういう時に気の利いた嫌がらせが出来無い辺りが割とコミュ障自覚するような理由なんだが。
ほんの少しだけ悩んで当たり障りのない返信。
「俺の情報も知りたくはないかい?」
はい送信、っと。なんだよこれ。
当然のことながら返ってきた答えは
「別に知りたくもないしそれに知ってるから」
明らかに情報戦で負けてるよなぁ……ま、勝ち負けあるものじゃないからいいんですけど。
と、こんな風に素っ気ない返事が返ってきてたのに怒りが沸くわけでもなく、ただどうにも落ち着かない、ああこの言い方は適切じゃないな、高揚感とよく分からない不安が俺の心を支配していた。これが何なのかは自分でもきっと分かってる。ただその経緯と時間と感情がただただ胡散臭く信じられなくて言葉にしなかっただけだ。
だってこんなのでそんな風になってしまうなんて如何にもすぎるじゃないか。選択肢を与えられてその選択肢しか見えなくなってしまっている。それは惨めじゃないか。
能動的に受動的な行動を選ぶといってもこれはあんまりだ。そんな思いを自分の中で 唱えることは出来るのに少なくとも俺は今から何時間後に控えているイベントに対して心を踊らせることしか出来無いのだ。
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