第4話
一時限目がとりあえず出席だけしておけばなんとかなる、という稀有な講義であったのは救いだった。まずは今日起こったことをきちんと整理しよう。不思議なことではあるが起こってしまったのだからそれは仕方ない。しかもそれが可愛い女の子、割と嫌われてはいない雰囲気で自分の近くに登場したんだから、いいことか悪い事かで言えばいいことの部類に入るだろう。さすがに俺だってそこまでひねくれてない。しかし容姿と性格はあざといというか眼鏡黒髪ストレートロングの清楚で強気な女の子とは。しかもあの時の服は上下赤色のジャージだからな。処女っぽくてなおかつ外に見せる気のない服は無頓着という設定付きか。つくづく自分の好みがあんなので設定されているとか嫌になるな……。
「それではここで今日は終了にします」
タイミングよく講義終了の合図。
さてお昼まで適当に学食あたりで駄弁りましょうか。
別に友達がいないということではない。もちろん主流派ではないしこいつとは絶対合わない、と思う人も多いけどまあ上手くやっているとは思う。ただこう異性関係が何もないというかなんというか。それを上手くやれてないと言うのかもしれないけどそれはそれ。まあ無理だよなぁ、と勝手に経験則という言葉を駆使しながら思い込めるようにたくさん努力してきたわけだ。今回のことだってあんな不思議な出来事が起こったわけだけど今のところ何かモーションを起こそうとかそういう気持ちは特に何も起きてない。失敗するのが怖いだけなのは分かってる。けどみんなそんなものなんじゃないか? 自分の得意なことはやりたいし得意じゃないことはやらなくても死なないのであればやろうとは中々思いにくいだろう。
そんなことを考えながらぼーっとしていると横にいる友達から声をかけられる。
「なんか講義中からぼーっとしてるな。寝てる訳じゃないみたいだけどなんかあったん?」
「んー、まあなー」
ここで思ったこと一つ。今日の出来事はあまりに現実離れしているから意外とこいつらに言ってみてもいいんじゃないか、ということ。
正直こんな妄想まがいのこと言うのは恥ずかしいけどネタで済むでしょう。思い立ったら吉日という言葉もあるくらいだし。
「もしいきなり夢で神様みたいなのに君好みの女の子と出会わせてあげようとか言われて本当にその日の朝に自分の部屋に自分好みの女の子がいたらどうする?」
場が静寂につつまれる。くそ、周りのクソリア充どもの声がやけに耳に入ってくるじゃないか。おい、そこ。可哀想な目で見るな。
「えっと……押し倒す?」
右隣にいる眼鏡君(便宜上こう呼ぼう。ちなみに俺も眼鏡だったりするんだけども)が性欲を持て余したというか非常に欲求に忠実な捻くれてない童貞のような答えをこの公共の場で答えてくれた。まあ公共の場でこんな話題を持ちかける俺はなにも人のことは言えないのだが。
それはさておき、押し倒す。うん、悪くない答えだ。ただあの娘を押し倒してもかるーくいなされて終わりな気がする。なんというかどちらにしても最後までいけないというか上手くスルーされるというか。そりゃあ俺の好みがそういう娘なんだから仕方ないんだけど。というかよく考えるとこういう展開でその娘が俺のこと好きということが確定してないというのも珍しい話ではあるよな。こういうのは普通ねぇ。
「一応設定としてはそういうことしてもかるーく流されてこっちもそれ以上何も出来ず終わりなサバサバというかさっぱりとした感じでお願いします」
「注文多いな……だとしたら普通に話して事情聞いてその後に仲良くなるしかないだろ。もともとそっちはこっちのこと好きな設定なのかもしれないけど」
向かいに座る唯一の彼女持ち(俺と合わせてここには三人しかいないのだが)がどうでもいいという顔をしながら律儀に答えてくれる。
こういうところで律儀に答えてくれるのが彼女がいるという状況の差となって現れるのかなー、などと思ってみたり。だって俺だったらネタに走るか心底どうでもいいというのが分かるような対応取るもんな、きっと。
「現実的じゃないことに現実的な答えありがとう。まあそんな状況でも仲良くなれるのか全く自信ないから何もしない、ってのも僕らだと思うんだけどな」
「あのなぁ……もう少し頑張れよ……なんとかなるって絶対」
上手く言ってるやつはそういうよな。それもそれで忌憚のない意見だから仕方ないのだけれど自信ってのは上手くいかなきゃ付かないし、ってところ。そこら辺の同意を求めるために眼鏡男子に話しかける。
「そんな自信持てって言っても難しいよな?」
「んー、分からん」
こいつはいつもこうだから答えは分かっていたんだけど。まあ何かしら女子との接点はあるみたいだしなぁ。何もないのは自分だけ、ってね。
さて、そろそろ飯の時間だ。あの娘と話すのは夕飯食べてからにはなるだろうけど、午後もそれなりに講義はあるからきちんと食べておかないとな。
なんだかめんどうなことに巻き込まれた気もするけど多少わくわくもしてるわけで。
長い一日になりそうですね、全く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます