第7話 理由はそれぞれ
闇オークションの会場から何とか離れられた後、私達はとある場所に向かっていた。どうやら、セキはシフトという銀髪の少年を助けたことで、「フェニックス」というお店に招かれたらしい。
言霊があるのかもしれない…
そう私は考えていた。かがされた薬の影響がかすかに残っていたのもあったが、彼の言葉には暖かさと強い意思を感じた。本当は求めてはいけない暖かさだが、悪くないかもしれない。そう思って、一緒に旅することを同意したのである。
「いらっしゃい!!」
扉を開くと、店員の声が響く。
「えっと、シフト君に招待されたんですけど…」
「ああ、シフトの
セキの
どうやらこの“フェニックス”というお店は、夕方から夜間営業のカフェらしい。席につきしばらくすると、先程とは違うと思われる服装をしたあの少年が入ってきた。
「待たせてごめんなさい!なかなかすぐには片付かなくて…」
「全然大丈夫さ。それより、このパスタとスイーツ…本当に
「いいのいいの!昼間のお礼なんだから!」
私とセキは4人くらい座れる席に座っていたが、テーブルいっぱいのパスタとスイーツを運んできて、無料で食べて良いという。
「それに、お姉さんもひどい目に遭って疲れているだろうし…どんどん食べてね♪」
相変わらず表情は読み取れないが、身長から見るにまだ15~16歳くらいの少年は得意げにそう答える。
ナイフを持った相手を一発でねじ伏せた所を見ると、格闘家のようだ。
しかし、亡失都市トウケウを脱出して以来何も食べていなかったので、私は無我夢中で食べ始めた。
「お姉さん、よく食うね…」
「ミヤ……君ってもしかして、やせの大食い?」
気が付くと、私は二人の視線を感じていた。
大食いといえば、そうかも…
一般的な女性と比べると食べる方だったので、私はその場で頷いた。
「では、改めて自己紹介を。僕は、シフト・クレオ・アシュベル。歳は16歳です。このたびは、…えっと…」
「セキ・ハズミ」
「ミヤといいます」
シフトが目を泳がすようなジェスチャーをしていたため、セキや私は自身の名を名乗る。
それを確認した少年は、咳払いをするような手つきをした後、話を続ける。
「セキさんには仕事前にてお世話になり、ミヤさんには被害者だけどこちらの仕事にご協力して戴き、本当にありがとうございました。僕個人と、そしてギルド・“アズ”を代表して、二人にお礼申し上げます」
「セキでいいよ」
「私も、呼び捨てで大丈夫です」
「じゃあ、セキにミヤ!!」
シフトは、私達を見つめてから口を開く。
「2人は、恋人同士なの?」
「ゲホッ!!!」
その拍子に、私は食べ物を喉につまらせる。
一方でセキが―――――――――
「いやいやいや、まだ知り合って間もないから!」
私も、何を言い出すのかと思ったくらいだ。
セキも当然、思いっきり否定していた。
「でもね、セキはミヤを助けるのに必死だったよ?後先考えずに、「ミヤ~!」って叫びながらつっこんでいきそうな勢いしていたし!」
私の耳元で、シフトが囁く。
そうだったんだ・・・
それを聞いた私は、何故か胸が暖かくなったような、不思議な気分だった。
「そういえば、身分証明証を見るからに、シフトは旅人だよな?この国での滞在可能期間って、最大何日間だっけ?」
「あー・・・」
「最大で7日間だぜ」
黙り始めたシフトに対し、最初にセキが声をかけた店長らしき人物がやって来た。
「おい、シフト!少しの間、片付け作業代われ」
「・・・うん、わかった!」
頼みに応じたシフトが、厨房の方へ歩いていった。
「あいつの友達…ねぇ。バルデン族の嬢ちゃんと、コ族の坊ちゃんが」
「あなたは・・・?」
「ああ、失礼。仕事柄、人間観察をついしちまうもので。俺は、アロンド・ヴァン・ココリエ。2足のわらじで生活している、シフトの育ての親みたいなものだ」
「実の親子ではないって事ですか?」
気になった私は、アロンドさんに問う。
「まぁ・・・な。あいつはちょっと訳ありで、路頭に迷っていた所を俺が見つけて、ギルドとこのカフェにて住み込みで働かせているんだ」
わけあり・・・か
シフトを初めて見たとき、何か人間とは思えないような“気”を感じた。彼自身は普通の少年に見えるが、何かあるのかもしれない。
「・・・もしかして、彼は滞在可能期間を超えて滞在しているんですか?」
不思議に思っていたセキが、アロンドさんに問う。
私も、それが自然なのではと思えてきた。
「・・・ここだけの話なんだが・・・。知り合いで政府の国民管理部に勤めている奴がいるんだ。そいつに頼んで、実際は旅人のままで戸籍登録をした“フリ”をしている。・・・他言無用だからな」
「わかってます」
私とセキは、そろってうなずいた。
「片付け、終わったよ!」
片付けをしていたシフトが、そう口にしながら厨房から戻ってくる。
その夜は4人で語ることで、朝まで過ごした。シフトは旅人だけどケステル共和国を出たことがないらしいので、旅の話で盛り上がる。アロンドさんと私は、楽しそうに話すシフトとセキの話を聴いていた。
まだ互いが知り合って間もないのに、こんなに打ち解けて話せたのは何年ぶりだろう…セキの存在が、皆を安心させているのかな?
話を聞きながら、私はそんな事を考えていた。
朝方、話し疲れたセキとシフトはうつ伏せになって眠っていた。眠れなかった私は、厨房に戻ったアロンドさんの元へ向かう。
「やぁ、嬢ちゃん。起きていたのか」
「はい・・・」
私は、その場で頷く。
アロンドさんは手を動かしながら私に話しかけてきた。
「・・会って間もないのに、あいつがこんなにも打ち解けられたのは…坊ちゃんや嬢ちゃんのおかげかねぇ・・・」
その
「はは、嬢ちゃんはおとなしい奴だね。実は、さっきまで考えていたんだが・・・。あいつ・・・シフトを、あんたらとの旅に連れて行ってやってくれないかな?」
「え・・・?」
「・・・こんな事を頼むのは、かなりずうずうしいのはわかっている。ただ、記憶喪失を治すには世界を旅して、いろんなモノに触れることが大事だと思うんだ」
アロンドさんの
「・・・彼がいなくなってしまい、それでいいのですか?・・・血は繋がっていないとはいえ、貴方の息子でしょう?」
私も父しかいない身なので、何故自ら離れるような真似をしようとするのかが気になった。
「いいんだ、俺は。もう歳だから、カフェとギルド経営という2足のわらじで生活していくのはきつくなってきた。・・・どちらか1つを残すとしたら、俺の・・・死んだ妻が遺したこの店を残すのが一番良いと考えるようになった」
旅人が旅する理由がいろいろあるように、親がどのように子供の事を考えているかも人それぞれなのだ。
私の父は、私のことをどのように考えてるのかな・・・
私はその場で考え込んだ後に、口を開く。
「セキにも話してみます」
そう告げると、自分には表情が見えなくても、アロンドさんの表情が少し和らいだのであった。
※
目を覚ますと、すっかり朝になっていた。昨夜は4人でずっと語りながら過ごした。最も、しゃべっているのはほとんど俺とシフトで、ミヤとアロンドさんは俺達の話を聴いているかんじだったが―――――――――――
「あれ?父さ~ん??」
自分と同じように目が覚めたシフトは、そう言いながら厨房の方へと歩いていった。
「おはよう、セキ」
「ああ、おはよう」
自分の目の前には、ミヤがいた。
「よく眠れた?」
「ああ。でも、うつ伏せで寝ていたから、首筋が痛いや」
俺の
「突然こんな相談をするのもあれなんだけど・・・シフトを、私達と一緒に連れて行くことってできないかな?」
「俺はいいけど・・・どうして?」
俺は、一瞬だけ間をおいてから問いかける。
自分としては、一緒に旅する仲間が増えるのはとても喜ばしい。しかし、シフトにはアロンドさんがいるので、何故それを言い出したかが気になったのである。それに対して彼女は、アロンドさんと2人で話していた内容を語ってくれた。
「俺が寝ている間に、そんなことがあったんだ・・・」
「なんでこんな気持ちになったのかわからないんだけど、なんか・・・シフトの記憶が戻って本当の両親や家族の事を思い出せれば、彼も不安な気持ちにはならないかなって思ったの」
ミヤは、少したどたどしい口調で俺に言う。
出会った頃のミヤは、自分の気持ちや感情を表に出そうとしなかった。
そんな彼女が、俺やシフトに対して感情を表に出していることに不思議な心地はしたが、ミヤも女の子だなと思うと少し安心した。
「ミヤ!セキ!」
シフトが、厨房から戻ってくる。
「格闘技の師匠でもある父さんが、修行の一環として君達と一緒に旅をしろ・・・って言ってきた」
アロンドさんがシフトをどのように行かせると思ったが――――確かに、それが最も自然な理由かもしれない。
「やっぱり、アロンドさんが格闘技の師匠だったのね」
「やっぱり・・・?」
「彼は数年前、ギルド所属者の間で有名な凄腕の格闘家だったのよ」
全然知らなかった・・・
ミヤの
俺たちが外に出たとき、ゼーリッシュにある多くの店が営業を開始しようとしていた。その中で、アロンドさんがシフトに言う。
「・・・身体に気をつけろよ」
「うん!・・・いってきます、父さん!」
そう言ったシフトは、俺達の元へやってくる。
俺とミヤはアロンドさんにお辞儀をして、ゼーリッシュの街を歩き出した。
シフトは「旅に出ろ」と、言われてどんなことを考えているのだろう・・・
俺は足を動かしながら、そんな事を不意に考えていた。
「そういえば、”マカボルン”の手がかり、次はどこに探しに行くの?」
俺が考え事をしていると、シフトは変わらず無邪気な
「じゃあ、歩きながら話すよ」
3人で話しながら、ゼーリッシュの街を後にする。
仲間が増えたことで、旅の楽しみが増えたのがすごく嬉しかった。しかし今後、かつて経験した事のない出来事に遭遇する事になろうとは、この時は微塵も思っていなかったのである。
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