第6話 瞬時の対応

闇オークションも、終盤に近づいてきた。落札された後に沈んだ表情かおをして売られていく人達を見ていて、俺は複雑な気分になる。

他のバイト達が噂していた最後の「モノ」の順番になろうとした時、俺に対して客の一人が声を掛けてくる。

「君…飲み物を戴けないかね?」

「あ、はい!」

促されたので飲み物を渡すと、何も言わずに席へ戻っていく。

その男は黒い帽子をかぶり、髪が腰近くまで伸びていた。

 …どれだけ髪が長いんだよ…

男なのにかなり髪が長かったので一瞬そう思ったが、 声をかけてきた男が金持ちなのはすぐに気がついた。

全体が純金で所々に宝石がはまり、一番大きいサファイアの中に紋章が刻まれている――――そんな腕輪をしていたからだ。

 でも、あの腕輪…どこかで…?

初めて見たはずの腕輪に対し、俺は何処かでも見たような所謂デジャヴを感じていた。

『それでは、最後の商品をご紹介します!民族としては、魔法大国ミスエファジーナ原始の民・バルデン族の娘!!』

腕を組んで考え込んでいたが、司会の言葉を聞いた途端、俺の心臓が強く脈打つ。

ミヤもあの漆黒の瞳を除くと、白い肌と赤みがかった茶色い髪――――――バルデン族の特徴を持っているからだ。

『歳は18と若く、鑑賞用でも中身を売り飛ばすも、なんでも有りです!…それでは、ご覧戴きましょう…!!』

司会者による紹介の直後、近くに運ばれた鳥籠の形をした檻のベールが取られようとしていたのである。

不気味な仮面を被ったステージガールがベールとなっている布を外すと、人間一人入れそうな檻が出現する。そこに入れられていたのは、青いドレスを着て腕を縛られている女性―――――ミヤだった。

一瞬目を見張ったが、あの周りが見えているようで見えていない漆黒の瞳は、間違いなく彼女である事を物語っていた。

「ミ……!!!!」

彼女の名前を叫ぼうとした途端、俺は背後から口を塞がれた。

『それでは、4000ナノから始めましょう!』

司会者の合図の後、競り合いが始まった。

口を塞がれて後ろの柱に引きずり込まれようとした際、俺は反射的に相手の手を振りほどき、そいつの首筋に掌を寄せる。

「君は…!!」

「しっ!」

俺の口を塞いでいたのは、この空き家の地下に入る時に旅人用の身分証明証を渡してあげた少年―――――シフトだった。

彼は、小声で囁くように話しだす。

「大丈夫。あのお姉さんはちゃんと助かる。だから、ここで待ってて…!」

「っ…!?」

どういう事か訊きたかったが、シフトは身軽な足取りでその場を離れていってしまい、訊けずに黙り込むしかなかったのである。


硬いレバーが落ちたような音と共に、薄暗かった会場の照明が急に明るくなった。何が起きたのかと、参加者達がざわめく。

「静かにしてください!!!!」

シフトが突然、客席の後ろから叫ぶ。

「我々は、ケステル共和国直属のギルド“アズ”の者です!!この会場はすでに、包囲されています!」

周りを見渡すと、アルバイトに扮していた男達が皆、銃や剣を持って会場内を取り囲んでいた。

「窃盗容疑及び違法な物品の売買!そして人民権の侵害により、城までご同行願います!!!!」

「ふざけるなぁ…っ!!」

それに反応した1人の用心棒らしき男が、シフトに向かって襲いかかってくる。

ナイフを振りかざす男に対し、彼は瞬時に対応した。腕を押さえつけ、自分より大柄な男の腹に一発の当て身が入る。

「がはっ…!!」

うめき声と共に、男は地面に倒れこんだ。

「尚…反抗する場合はこちらも正当防衛として少し痛い目にあってもらいますので、ご了承ください!」

シフトは、右手で硬いこぶしを作りながら、周囲にいる人間達に告げる。

 …丁寧な口調で怖いよ、少年

笑顔で今みたいな台詞を銀髪の少年が言い放ったものだから、俺は内心で冷や汗をかいていた。


 

その後はあっという間に事が進み、オークションの参加者及び関係者が連行されていく。知らない間に、空き家の周りには政府の兵隊がたくさん集まっていたのである。

「ミヤ…!!」

檻の鍵を手に入れた俺は、中に閉じ込められていた彼女を解放し、縄をほどく。

「よかった…!」

そこで俺は彼女の刀を手渡した訳だが、ミヤは自分の身の安全よりも、刀が戻ってきた事に安堵しているようで、柔らかい笑顔になっていた。

先陣切って叫んでいたシフトが、自分はケステル共和国直属のギルドに所属していて、今回大規模な闇オークションを取り締まってほしいという依頼を受けていた。

そして、アルバイトに紛してオークションに潜入することで取引が行われている所を現行犯逮捕しようとしていた事。しかし、ただ一つ―――――部外者である俺が会場に入ってきたことだけが予想外だと後で話してくれた。

「とりあえず、あの少年が言っていた”フェニックス”という店に向かおう」

ミヤの荷物を取り戻し、元の服装に戻った俺達は歩き出す。

「…どうして、私なんかを助けたの?」

「特に理由はないよ。ただ…」

疑心暗鬼な表情で問いかける彼女に対し、俺は間をあけながら答える。

「ただ、一つだけ言えるのは、放っておけない…君の力になりたいって思っただけかな」

俺の台詞ことばを聞いたミヤは、予想外だと言わんばかりの表情かおをしていた。

「俺からも一つ聞きたいんだけど」

「…何?」

「君はどのような目的で、旅をしているの?」

その言葉を聞いたミヤは、一瞬黙る。

「人を……捜してるの」

「それって、大事な人?」

「ええ。その旅の途中で、マカボルンの存在を知って…。”願い事を叶える魔石”…これさえあれば、父の居所もわかるんじゃないかって思ったの」

「そうだったんだ…」

旅人が旅を続ける理由は、それぞれある。

でも、このように具体的に話を聞けたのは初めてだった。

「俺も、自分や…周りの人々のためにマカボルンを探しているんだ。それと、旅は一人より二人の方が楽しいしね!ほら、”二人寄れば文殊の知恵”って言うじゃない?」

「”3人”…でしょ?」

わざとボケた訳ではないが、間違えた俺に対してクスクス笑いながらミヤは言った。

「それも…いいかもしれないわね」

その言葉を聞いた俺は、叫びたいくらい嬉しかった。

「よろしくね…セキ」

「…ああ…!」

照れくさそうに言うミヤに対し、満面の笑みで答えた俺は、そのままゼーリッシュの街へと駆け出していくのであった。

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