19.

開演のブザーが鳴り響く。いよいよだ。暗転している会場に、アナウンスが開催の挨拶と演奏中の注意を述べる。アナウンス役には職場の受付の女の子の一人がかってくれた。

 舞台が照らされる。

「行きましょう」

 鮮やかな青いドレスに身を包む栞さんと共に舞台へ歩み出る。無数の拍手が僕たちを迎えてくれた。舞台の中央とピアノの前で僕たちはそれぞれ深くお辞儀をした。客席の暗さにはまだ目が慣れていない。真黒な壁に向かって頭を下げているようで不思議な感覚だ。

 舞台中央のピアノ椅子に座り、配置されていたチェロを構える。演奏前の束の間の張りつめた静寂。

 栞さんと目を合わせる。この膠着を突き破るのは僕たちしかいない。

大きく息を吸い込んで。

始めよう。

 

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