第25話
私は教室の入り口を開けて中に進むと、大声で「おはようございます!」と叫んだ。
その瞬間、教室にいるクラスメイトたちが私に視線を移したことに、私は冷や汗が流れる。
うぅ、視線が私に集中されるのはやっぱり無理。急いで自分の席について日直の仕事始めよう。
私は早足で自分の席に向かった。大声で挨拶するのは恥ずかしいな……はぁ。
大声で挨拶するんじゃなかったと思いながら、自分の席に着いた時だった。
「三河……さん?」
と、クラスメイトの一人から話しかけられ、私の緊張は最大限まで上がっていた。またクレームとか悪口とか言われるんじゃなかろうか。
私が冷や汗流しながら、その続きを待っていると……予想外の答えが待っていた。
「三河さん、お母さんの具合は大丈夫?」
「…………へっ? お母さん?」
まさかの答えに、私は驚きのあまり素っ頓狂な声を出していた。
「それは…………」
私が答えようとした時、さらに何人かが私の席に集まってくる。え、何事ですか!?
「三河さん!」
「お母さんが倒れたっていうけど、大丈夫!?」
「急に帰ったからびっくりしたんだよ」
みんな口々に私のお母さんの心配してくれるけど、急に何があったの!? お父さんが学校にお母さんの現状伝えたはずだけど……。
もしかするとプライベートなことだから先生はあえて伝えなかったのかも……。
「お母さんは大丈夫だよ。過労で倒れたけど症状が軽かったから一週間くらいで退院できるって主治医の先生が言ってたし」
私がみんなにそう伝えると、クラスメイトのみんなは安心した顔で「良かったー」と
みんなに質問攻めに遭う中、梨子の姿を発見。良かった。梨子が昨日言っていた言葉の意味を知りたかったし……よし!
「梨子!」
私が話しかけると、梨子は私に視線を移した瞬間、何か複雑そうな表情で見つめていた。
昨日とはまた表情が違う……どうしたんだろう。
「梨子、おはよう! 今日の日直、頑張ろうね!」
「そ、そうです……ね」
端切れが悪そうな梨子。やっぱり梨子の様子がおかしい。
「梨子、昨日のことなんだけど――――」
私が話を切り出したと同時に、梨子が喋る。
「麻奈。日直の仕事……やりますよ…………」
梨子に話を遮られ、私は呆然としていた。今までの梨子ならありえない行動だった。
――何か隠してる。そう感じた。
梨子が何を隠しているのか訊けないまま、日直の仕事を始めることになった。
*
「ごちそうさまでした」
昼休みに突入し、私はいつものように給食を食べ終わった。椅子から立ち上がって、トレーを両手で持つ。今日の昼休みをどう過ごそうか考えながら食器を片付け始めた。
昨日のことについて改めて先生に話そうかな。教室にいてもやることないし、なんと言うかここにいても気まずいし。先生にお礼もかねて職員室に行こう。うん、そうしよう。
片付けた後、自分の席に戻って午後の授業に使う教科書の整理をしておくことにした。また間に合わなかったとか嫌だし。
よし、整理終わった! これで職員室に行ける!
私は再び椅子から立ち上がり、職員室に行こうとした時だった。
「三河さん」
と、また今朝のように話しかけられた。今度は何!?
視線を向けたら、教室に入って最初に話しかけてくれた子だった。
「ど、どうしたの?」
「あの……今までのことを謝りたくて」
「えっ……それって」
急に何を言っているんだろう。一番最初に思ったことがそれだった。
「私、勘違いしてた……三河さんがわざと日高君に嫌がるようなことをやっているんだって……でも違ったんだね」
「わ、私はそんなつもりでやってた訳じゃなくてただ……」
――素直になりたいのにいつも本音と裏腹なことを言っていただけ……そう春也は悪くない。クラスメイトを紛れもなく思わせていた私のせいだ。
「でも急にどうしたの? いきなり謝りたいだなんて……」
勇気を振り絞って訊いてみた。クラスメイトの子はこう言った。
「三河さんが早退した後、紫藤鈴蘭さんが全校放送をテレビに映して放送したの」
えっ、全校放送!? あの後学校に戻ってから行ったってこと?
「三河麻奈さんに流れる噂はすべて嘘だと言って、もし悪質に噂を広げるようなら風紀委員で徹底的に処罰しますって」
そんなことがあったんだ……。鈴蘭、ありがとう。改めてお礼を言いにいかないとね。
「あ、あの……私の方こそ、色々みんなに迷惑をかけてごめんなさい。それと、気にかけてくれてありがとう」
やっと言えた謝罪の言葉……。でもおかげでクラスメイトの一人と和解できたから一歩前進かな。
私は不安な気持ちが少し和らいだような気がした。
「麻奈……ちょっと、いいですか?」
突如、後ろの方から聞こえてくる声。ん? この声は……。
振り返ったら、私の背後に梨子が無表情で立っていた。
「わあぁ! 梨子!? ど、どうしたの!?」
ま、まさか後ろにいるとは思ってなかったからびっくりした〜。
「麻奈にどうしても話しておきたいことがあるんです……一緒に来てもらえませんか?」
「それはいいけど……ここじゃ駄目なの?」
私の質問に、梨子はうつむきがちに答えた。
「場所を変えて、静かに話したいので……」
お話ってなんだろう。他の人に聞かれちゃまずい話なのかな。
「うん、いいよ! 場所を変えてお話しよう」
久しぶりだなー、梨子と二人だけでおしゃべりって。
私は教室を後にして、梨子の後を追いかけながら、ひとまず教室を出た。
教室を出てから数分。
廊下を歩いているけど行き先を告げられていないからか、梨子がどこに向かおうとしているのか全く検討がつかない。
梨子はどこに行こうとしてるんだろう……。
私が考えていると、花梨と遭遇した。
「あれ〜? 二人ともどこに行くの?」
「……花梨、何でもないですよ。ただの話し合いです」
花梨の質問に、梨子は淡々と答えていた。
「うん、そうなの。梨子とお話しなきゃいけないからまたあとでね、花梨」
私がそう言ったら、花梨は不思議そうな顔で頷く。
「うん、わかった。二人とも、また後でね〜」
バイバイ、と手を振ってくれる花梨。あっ、そうだ。後で花梨にも昨日のこと伝えておかなきゃ。知っているかもだけど念の為言っておこう。
花梨と別れてから、さらに数分。廊下を歩いていたと思ったら、梨子は階段を上り始めた。
あれ? 階段に上るの?
「梨子、今どこに向かっているの? お話って?」
もう一回聞いてみたけど、答えは同じ。
「着いてから話します」
とだけしか言わなかった。
梨子のことだから何か考えていることがあるのかも。今は黙ってついていこう。
そんなこんなで、とある扉の前までやってくる。この扉は見覚えがある。
――屋上だ。間違いない。
「麻奈、到着しましたよ」
梨子は私に一言呟いて、屋上の扉を開けた。私は梨子の後をついていきながら、屋上へと足を踏み入れていく。
「屋上……? 屋上でお話……?」
私が呟いた時、梨子の足が止まった。そして、一言。
「麻奈……あなたに言わなければいけないことがあるんです」
私の方を向いたと思ったら、頭を下げる。
「麻奈……ごめんなさい」
「えっ、梨子……??」
ど、どういうこと? なんで梨子が謝るの?
梨子は深呼吸してから、言った。
「嫌がらせの犯人…………実は、私なんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます