ストーリー7 和解からの衝撃的事実
第24話
――ジリリリリリリッ!!
頭の中に響く目覚まし時計の音で、目が覚める。ゆっくり
あぁ……いつもの朝だ。どこか、ホッと胸をなでおろす私がいた。
私はゆっくり体を起こして、両手を組んで伸びをする。
「ん〜。ちゃんと起きれて良かったよ」
伸びをした後、ベッドから降りて、素早く立ち上がる。机の方まで歩いて、机の上に置いてある目覚まし時計のアラームを止めた。
うん、時間は五時半。ベッドの近くに置いたら二度寝しそうだったから、不安で机の上に置いたけど正解だったみたいだね。
私はあくびをした後、急いでパジャマを脱いだ。慌てて学校の制服に着替えていく。今日の朝の担当は私だからね。遅れたら大変!
数分もしないうちに着替え終わった。
……よし、頑張るぞ!
私は気合を入れようと、両頬を両手で叩いた。これで少しは眠気が吹っ飛んだかな。
さてと。机の上にある、前もって用意していたエプロンとカバンを両手で持って、部屋を出た。
*
廊下を歩き、階段を軽やかに駆け下りて、リビングに向かった。お父さんと秋夜はまだ眠っているみたいだし、二人が起きてくる前に終わらせないとね。
私はリビングの扉を開けて、台所まで早足で進んだ。その理由はもちろん、私とお父さんと秋夜、三人分のお弁当と朝食を作ること。なぜこうなったかって? それは入院している母親が関係していた。
遡ること。昨日の午後。病院にて。
春也達が学校に戻った後、担当医から母親が倒れた原因について説明をうけたんだけど、その原因というのが『過労』だった。おそらくは息子さんの教育に熱が入りすぎて自分の健康状態まで気が回らなかったでは、と、三河家の内情を父から知った担当医の先生が推測した。症状が軽かったこともあって、一週間もあれば回復して退院できるだろうと話していた。
その担当医の説明を受ける前、お母さんが話があるとお父さんから呼び出された私と秋夜……。
病室でお母さんが泣きながら言った。
「麻奈、秋夜。今まで嫌な思いさせてごめんなさい。あなた達には迷惑をかけてしまって……謝っても謝りきれないほど後悔しているわ…………本当に、ごめんなさいね」
お母さんの言葉を聞いたとき、ようやく家族に戻れる、そう思った。
「母ちゃん、母ちゃぁぁぁぁん!」
秋夜がお母さんのベッドまで駆け寄って、思い切り泣いた。
「秋夜、ごめんね。私の気持ちばっかり押し付けて秋夜の苦しみに気づけなかった」
「ほんとだよ! 俺、いっぱい悩んだんだ」
「ごめんね、本当にごめんね」
秋夜、良かったね。秋夜の気持ちわかってもらえて……。秋夜がお母さんと和解できたことにうるっときちゃった。
お母さんは視線を私に向けたと思ったら……。
「それと……麻奈もごめんね」
「……!! お母さん」
「身勝手な行動で麻奈の思いを踏みにじって、無視し続けて……ごめんなさい。あなたは何も悪くない。勉強できないと勝手に決めつけ、無視した私が悪かったわ。そのせいでどれほど麻奈の心を傷つけたか……」
「お母さん」
「許してとは言わないけど、本当の家族になりたいの」
心から申し訳ないという思いが、お母さんの言葉に溢れていた。その瞬間、私の目に涙が溢れていた。
「お母さん!!」
私も秋夜と同じようにベッドまで駆け寄っていた。
「ごめんね、本当にごめんね」
その後、担当医から説明を受けて、お母さんが一週間ほど入院したら退院できるとわかったので、お母さんがいない間は私とお父さんと秋夜で家事を分担することになった。朝食と弁当は私とお父さんが交代で作り、夕飯は三人で一緒に作ることに決まった。そのほかの掃除や洗濯も交代で行うなど、お母さんが帰ってくるまで三人で頑張ることになった。
弁当と朝食を作り始めてから一時間半。
「さてと。もうそろそろお弁当が出来上がるね。朝食もそろそろかな」
三人分の弁当箱にご飯やおかずをバランス良く飾っていく。もちろん彩りも忘れない。
「できたー! 弁当完成!!」
数分かけて弁当が完成。ふぃー、と片手で汗を拭った時。リビングにお父さんと秋夜が入ってきた。
「おはよう、麻奈。お弁当と朝食は出来そうかい?」
「お父さんおはよう! 弁当は出来上がったよ。朝食ももうすぐ完成するからちょっと待ってて」
私が朝食を完成させるためラストスパートをかけていると、秋夜が近寄ってくる。
「おはよう、姉ちゃん。てか、姉ちゃんって料理作れたんだね」
「おはよう、秋夜。ってそれどういう意味よ!」
くっ……この弟は一言余計だな。腹が立ってきたぞ。秋夜は私の横でニヤニヤしているし。
でも、表情はいつもの秋夜だ、良かった。
「美味しそうだね、麻奈。麻奈が一生懸命愛情込めて作っているってわかるよ。これはお弁当食べるのが楽しみだよ」
私の苛立ちを沈めてくれたのは、お父さんの優しい言葉だった。
「お父さん、ありがとう」
私は嬉しくなって自然と笑みがこぼれていた。料理で褒められるって初めてかも。
いや、まだ味が問題だ。さっき味見したし、大丈夫だよね……。
「できた! 朝食も完成したよ! 冷めないうちに食べよう!」
テーブルに並べられた、私お手製の朝食、三人分。
三人同時に「いただきます」と言うと、黙々と食べ始める。
「うん、美味しいよ、麻奈」
「姉ちゃんにしては美味いよ!」
お父さんはともかく、あんたは一言余計だ、秋夜!
相変わらずムカつく弟だなー!
私も一口パクリと食べる。……あ、意外と美味しい。私にしては上手くできたんじゃない?
誇らしげに食べていると、時計を確認したら家を出る時間が迫っていた。
――しまった! 今日は日直があるから早く出なきゃいけないんだった!
私は慌ててご飯を口に放り込む。一度むせたりしながらも、十分で食べ終わることできた。
「ごちそうさまでした!」
私はすぐに立ち上がり、食器をシンクに持っていく。
「姉ちゃん、食べ終わるのはやっ」
「今日は日直なのよ!」
置いておいたカバンとセカンドバッグを手に取った。
「食器は洗っておくよ」
「お父さん、ありがとう!」
私は扉まで進んだ後、振り返った。
「いってきます!」
二人は笑顔で「いってらっしゃい」と言ってくれた。
私は慌ててリビングを出たら、靴を履くため、玄関へ駆けていった。
*
家を出てから十分後。七時十五分頃。いつも通る通学路を歩いていた。いつもなら七時半とかにいつもの道を歩くんだけど、今日の日直担当が私と梨子だから、早めに出なきゃいけなかったんだよね。
私はふと空を見上げた。昨日と同じで快晴だった。今日も晴れて良かったよ。
昨日といえばバレンタイン。さすが昨日はバレンタインだったというだけあって、通り過ぎる女子や男子の会話がバレンタインの話で盛り上がっていた。
昨日の私と言ったら……告白はできたけど、お母さんが倒れたりしてドタバタしていたんだよね。一応、お父さんがお母さんのその後を学校に伝えてくれたみたいだけど……一応、自分の口からきちんと担任の先生に話した方がいいよね。先生のおかげで病院にいくことができたし。うん、そうしよう。
――ただなぁ…………。
告白の時に早退したから、もうすでに学校にはお母さんが倒れたこととか広まっているんだろうなぁ。教室、入りづらいなぁ。
私がため息を吐いたところで、学校の校門前に到着した。あ、もう着いてしまった。
うぅ、仕方がない。よし、行こう!
しばらく敷地内を歩いたところで、あることに気がつく。そう。いつもなら聞こえるはずの『ひそひそ話』が聞こえてこない。
……あれ? おかしいな。いつもなら絶対ひそひそ話されるのになぁ。
昨日はあれだけひそひそ話されたのに。一日経っただけでこんなに差があるものなのかなぁ?
私はなぜなんだろうって考えたけど全く答えが見つからなかった。答えが見つからないということは、気のせいってことなのかも。
まぁ、いいや。とりあえず教室に行って、日直の仕事やらなきゃ。
私はいつものように二年生校舎へと足を踏み入れて行った。
*
校舎に入ってから、五分くらい経っただろうか。
自分の教室がある三階へと着いていた。今は教室目指して歩いている最中だ。
クラスメイトの反応はどうなんだろうという不安が渦巻きながら、さっき疑問に思っていたことが確信に変わったことがある。
そう、今日は昨日よりもひそひそ話されていない。
なんでこうなったかなんて全くわからないし、検討もつかない。でも、少しは歩きやすくなって助かったといえば助かってる。
もしかして昨日、あの後……何かあったのかな。なーんて……な訳ないか。
教室前で色々考えても埒が明かない。ここは勢いで入ったほうがいいでしょ!
頑張れ、三河麻奈!!
私はゆっくりと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。
――よし。入りますか、教室の中へ。
勢いをつけて入り口を開けると、一歩教室へ足を踏み入れていった。
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