第11話
な、なんですとーー!?
私は心の中で大絶叫していた。鈴蘭が個人的に話がある? それも私に?
状況が理解できないまま、鈴蘭がさらに衝撃的な発言をする。
「もちろん、麻奈さんもご存知の日高春也君について……ですわ」
ナヌー!?
は、春也について話があるとか……どういう風の吹き回しですか!?
「ですので放課後、ホームルームが終わった後、外廊下に来ていただけませんこと?」
鈴蘭の挑戦的な笑み。私を試すかのような表情に、私は耐えきれなかった。
「い、いいわよ! 会おうじゃないの!」
「ありがとうございます。では放課後、外廊下でお待ちしておりますわ」
鈴蘭は満足げな表情で言った。
「私は生徒会室に御用がございますので、失礼致します」
私に会釈すると、生徒会室の扉を開けて、中へと入っていった。
鈴蘭が生徒会室に入ったことを確認した直後、身体の力が抜け、その場にへたり込む。
「ああああっ! しまったー! 私、なんてことを……!」
私は激しく後悔しながら、頭を抱える。なんで会う約束なんかしてしまったんだろう。
鈴蘭と会う約束を交わした以上、会うほかない。
私はまた「トホホ」と肩を落とした。その状態で教室に戻ることとなった。
*
チャイムが鳴って、ホームルームが終わった放課後。
先生が教室から出ていった直後、一日の授業が終わった開放感が走る。けど疲れる暇はない。部活が残っている。その前に、鈴蘭に会うことになっている。
「うぅ、どうしよう……どうしてこんなことに……」
私はそう言わずにはいられなかった。周りのクラスメイト達はきっと、またなんかブツブツ悩んでいるよ、と思っているはず。
「悩みたくもなりますよ、そりゃあ」
中庭に春也ファンから呼び出されたと思ったら悪口や嫌がらせを受けるし、それを制裁してくれた鈴蘭にお礼を言いたくて追いかけたら放課後会う約束をしてしまった。
「やっぱり……あのまま教室に戻れば良かったのかなぁ…………」
ため息ばかりついてしまう。早く行かなきゃいけないのはわかっているけど、身体が「動きたくない」と拒否していた。
今でもあの選択が正しかったのかは、分からない。でも後悔はしていない。
「……麻奈?」
声をかけられたので顔を上げると、梨子が目の前に立っていた。心配そうに私を見つめていた。
「梨子……」
「どうかしましたか? 部活、行かなくてよろしいのですか?」
多分、いつもはすぐ教室を出るのに、なかなか教室を出ないから不思議に思ったんだろう。
「そうなんだけど……ちょっと考え事してたの」
梨子の質問に、私はそう答えた。
「考え事、ですか……」
梨子は納得いかない顔でポツリと呟いた。何かに気づいたのかもしれない。梨子は察しがいいからなぁ。
昼休みとかだったらゆっくり話せたんだけど、今は……。
「お、遅れると悪いから、先に行くね!」
私は一方的に話を切り上げると、梨子から逃げ出すように椅子から立ち上がった。
本当は梨子に全部話したい。言って吐き出してしまいたい。けど、時間が限られている。部活が始まる前に鈴蘭と会って話さないといけないし。部活も遅れると怒られてしまうし。
「麻奈……!? 話はまだ……!」
梨子は何度も瞬きを繰り返していた。口を少し半開きににしたまま、呆然と立っている。
「ごめんね、梨子! 明日、全部話すから!」
そんな梨子をチラ見しながら、私は急いで教室を出ると、渡り廊下を目指した。
*
私は待ち合わせ場所である渡り廊下に到着した。二度目の訪問なのに、心持ちが前と違っていた。
前回は春也だったからここまで憂鬱な気分にはならなかった。今は違う。鈴蘭と二人きりで話なんて、何を言えばいいんだろう。そればかりが頭の中によぎっていく。
考えても仕方がないか、まずは用事を済ませないと。部活に遅れると部長にこっぴどく怒られちゃう。
鈴蘭が近くにいないか、周りを見回してみる。近くにいるはず。
「あ、いた」
木の近くで佇む鈴蘭を発見。後ろ姿は、中学生とは思えないくらい、燐として大人びた雰囲気を醸し出していた。私の存在に気がついていないのか、じっと木を見上げている。
これ、私が声をかけたほうがいいんだよね……?
鈴蘭のお嬢様オーラもあってか、声がかけづらい。でも声をかけないと部活に遅れてしまう。
私が声をかけようとした時、鈴蘭がゆっくりと振り返った。揺れる長い髪が色っぽく、目が離せない。
「あら、麻奈さん。来てくださったんですね」
鈴蘭はにこやかに微笑む。なぜか嬉しそうな顔で私を見つめてくる。
私は口を尖らせて言った。
「そりゃあ、来るわよ……約束したから」
そもそも『来てほしい』って言ったの、貴方じゃないの!
「……お話ってなんですか? 部活があるので手短にお願いしたいんですけど」
私の言葉に、鈴蘭は笑みを崩さず質問を投げかける。
「お尋ねしますが、麻奈さんは春也君のことがお好きですの?」
「はぁ……!? 急に、な、な、なんで!? なんでそんなことになるのよ!?」
「その反応……イエスとみてよろしいのでしょうか」
鈴蘭はニヤリと怪しげな笑みをこぼした。企んでいるというより、確信したって感じの笑みだった。
「有名ですから。三河麻奈が日高春也に想いを寄せながらも、ツンツンしながら声をかけて失敗しているという話は。知らない生徒はいないはずですよ」
ええええぇぇぇぇっ!? そんな……バレているの!?
……いや、あれだけ派手に大声で言っているから、注目されるのは当然っちゃあ当然かもしれない。私が春也を好きという事実がみんなに知れ渡っていることだって、何度も春也にアピールしていれば気づく人は気づくよね……。
でも鈴蘭はどうして春也について話がしたいなんて言ったんだろう。そこが腑に落ちないというか、納得がいかない。
そうだ、今なら聞けるかもしれない。噂の真実が――――。
「じゃあ、こっちも聞きたいことがあるから聞くけど、春也と恋人という噂は真実なの? それとも……」
さぁ。なんて答える、紫籐鈴蘭。
「違いますわ。断じて恋人ではございませんわ」
鈴蘭の答えは即答だった。嘘を言っている目には見えない。噂は噂だった、ということなのね。
私が安心してため息を吐いた時、鈴蘭が言った。
「噂が真実になればいいのに――――と思ったことは何度もありまずわ」
「えっ……今、なんて…………?」
噂が真実になればいいのに? それってどういうこと?
「話が逸れてしまいましたわね。ここから本題なのですが……」
なんですと!? ここから本題ですと!?
鈴蘭は真顔で宣言した。右手の人差し指で私を指差しながら。
「私、春也君のことが好きですの。ですから、貴方と私は恋のライバル……ということですわ」
「ええええぇぇぇぇ!?」
思わず叫んでいた。血の気が引いていくのがわかる。
鈴蘭も春也のことが好きだなんて!
うぅ、そんな……私が鈴蘭に勝てるわけがないじゃない。
「それと、春也君を賭けて勝負致しませんこと? バレンタインに貴方と私でそれぞれチョコを作り、二人同時に告白をする。貴方のチョコを受け取ったら、麻奈さんの勝ち。私のチョコを受け取ったら、私の勝ち。いかがかしら?」
でた……二度目の挑戦的な笑み。それにやられて一度目は約束を交わしてしまった。二度目は受けるわけにはいかない!
「私はそんな賭け…………」
断ろうと声を出した、その時。
「自信がない、とはおっしゃいませんわよね?」
「なっ!? そんな訳ないでしょ!?」
「もし断った場合、麻奈さんの負けとなりますが……それでもよろしいのでしょうか?」
鈴蘭の言葉が決定的となり、私は再び挑戦的な笑みにやられた。
「良くない! わかったわよ! やってやろうじゃないの! 私だってやる時はやるんだから!!」
しまった。また、乗せられた…………。
鈴蘭は納得したのか、挑戦的な笑みは消えていた。そして、両手を添えてお辞儀する。
「ありがとうございます。ではバレンタイン当日、楽しみにしておりますわ」
そう言うと、微笑みながら続けて話した。
「お時間を取らせてしまって、申し訳ありませんでした。お話は以上ですわ」
「あ、あの……」
「私も風紀委員会がありますので、失礼致します」
鈴蘭は一方的に話を切り上げると、早々に立ち去っていく。
声をかける暇もなく、僅か数秒で鈴蘭の姿が見えなくなっていた。
「またやってしまった……今度はとんでもないことに」
鈴蘭と勝負だなんて、勝てっこないじゃない。相手は学校一の美少女で資産家のお嬢様。しかもバレンタイン当日、春也に告白だなんて。
今まで面と向かって素直に言えたことなんてないのに。
「どうしよう……どうしたらいいの!?」
この時は気が付かなかったけど、誰かかその様子を見ていた事実を、後になって知ることになる……。
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