第128話 王の威厳
銀色の閃光? 俺そんな風に呼ばれてるの? なんだそのカッコいい二つ名。テンション上がってきた。
「いかにも。わたしが銀色の閃光こと楓ソーマです」
ふざけてそんなことを言ってみる。するとアルバートは急に立ち上がり、俺に深々と頭を下げた。
「数々の無礼な言葉、失礼いたしました。心から謝罪いたします」
「ちょ、そういうのいいって。俺のこと銀竜の契約者だって知らなかったんだし」
「いえ! 貴方様は、ユキト様と同じく我が国の救世主。おいそれとわたくしごときが口をきいてよい存在ではありません。ましてや、先のような、無礼な言動、行為。どうお詫びしていいものか」
アルバートは沈んだ声で、頭を下げ続けている。
「だから、もういいって。最初に会った時のことだけど、ユキトのことを慕っているがためにああいうこと言ったってのは伝わってきたし。ユキトにはには良い部下がいるなって、むしろ嬉しかったくらいだ。年も俺と近そうだし、もっとフランクにいこうぜ」
「しかし……」
尚も頭を下げ続けるアルバートを見かねてか、ユキトが口を開いた。
「本人がそう言っているんだ。彼に謝意があるなら、素直に従ってみてはどうだ」
「いいのですか?」
「いいのだろう、ソーマ?」
「何回もそう言ってるって。俺、あんたとは仲良くなれる気がするんだよな。腹割って話そうぜ」
何となくそう思った。直感みたいなもんだ。
俺の言葉を受け、ようやくアルバートは顔を上げた。
「では言わせていただく。俺は貴様が気に食わん。いくら我が君と親しかろうが、もっと敬意を払うべきだ。それに、いくら英雄だからと言って、年上たる俺にもっと丁寧な物言いをしたらどうなんだ」
「それは、俺の悪癖というか、仲良くなれそうなやつなら年上でも年下でもついタメ口になっちゃうというか。つーわけで俺はアルバートに対してはタメ口でいっちゃってオーケー?」
「国賓たる貴様の要求を、断ることなどできるものか」
苦々しくそう吐き捨てるアルバート。
んーこの手の平返し、態度の豹変、いいな。面白い。意地でも仲良くなってやる。
「ゴホン。そろそろ話を戻してもいいだろうか?」
ユキトの圧のある物言いに、俺もアルバートもコクコクと頷く他ない。部下の前だからだろうか、威厳マシマシだ。
「アルバート。正式に辞令が出てから、この二人の存在のような、機密事項を共有していく。決して他言するなよ。君を信用して共有するんだ。裏切ってくれるなよ?」
「滅相もありません。粉骨砕身、全身全霊をもって、ユキト様にお仕えいたします」
「その言葉に嘘がないことを信じているぞ。では早速なんだが、兵たちの訓練メニューに二項目追加したいのだが」
「二項目、とは」
「ソーマの剣術講座と、対伝説竜演習だ」
「はい?」
アルバートがポカンと口を開く。それは俺も同じだった。
「ソーマは卓越した剣の使い手だ。グレン王国一の剣の使い手の私を遙かに越えるほどのな。人に教えるのも上手い。ソーマがスムーズに教えられるようサポートしてやってくれ。で、二つ目の、対伝説竜演習。これは、簡単に言えば、ソーマに多人数で攻撃を仕掛ける、というものだ。実戦形式で行う。ソーマは知っての通り、邪竜グレイヴを破るほどの規格外の竜契約者だ。圧倒的な竜、契約者を前にどう戦うか。ソーマ相手なら兵たちも遠慮なく竜魔法を使うことができる。君の指揮訓練にもなろう。これもソーマのよく話し合いを重ね、臨むこと。以上だ」
「は、はぁ」
ユキトが突拍子のないことを言うものだから、アルバートは固まっちまった。
「なあユキト。俺、そんなこと、一言も聞いてないんだけど」
「今さっき思いついたところだからな」
何か? と言わんばかりの澄まし顔。
「剣術訓練はいいとして、対伝説竜演習って。それって、体良く言ってるだけで、実際はグレン王国兵の皆さんで俺をボコボコにするってことですよね?」
「君はボコボコにはされないだろう。かずり傷くらいは負うかもしれないがな」
「…………」
「なんだその顔は? まさか、タダで匿ってもらおうと思っていたわけではあるまいな? すまないが、我が国は、タダ飯食わせられるほど潤ってはいなくてな。もちろん、ティオにも仕事を用意している。また、ティオの記憶を取り戻すために色々やることがあるだろうから、休暇は好きなようにとるといい。ただしあらかじめ私に報告すること。その予定を踏まえて訓練日を設定する」
有無を言わせぬ物言い。なんてしたたかなんだ。さすが王。利用できるものは全て利用する、と。こりゃグレン王国は安泰だな。
「まあ、仕事の話は明日にしようか。ではアルバート、私は細々とした書類を片づけるから、君は先に兵たちの訓練場で待っていてくれたまえ。事務所の片づけをしておいてもらえるとありがたい」
「はっ! では、失礼いたします」
アルバートは俺に一瞥くれてから、ユキトに礼をし、応接間を出て行った。
「ソーマ。ティオ。夜の歓迎会まで、城やその周辺を見て回るといい。ティオは顔が割れているからフードで隠しながらな。今後使ってもらう部屋は、私の秘書に今から案内させる。彼女についていくといい」
ユキトがパチンと指を鳴らすと、どこからともなく黒衣の女性が姿を現した。音波と同じような隠密系の竜契約者か。
その女性についていきながら、今後の訓練のことを考える。どう教えよう。演習ではどう立ち回ろう。
さあ、これから忙しくなるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます