第127話 銀色の閃光

 やや手狭な応接室に入り、ユキト、アルバートの対面に、俺とティオが座る。

 と、閉めたばかりの応接室の扉が開いた。


「ユキト様。戻られたのですね」


 ぞろぞろと四人ほど、徽章をいくつもつけた、いかにも位の高い人間たちが入ってくる。グランが着陸したのを確認して駆けつけてきたのだろう。


 俺はこの四人を知っている。ユキトが最も信頼を置いている四人で、俺が邪竜グレイヴを倒したことを知っている人たちだ。ユキトと機密事項を共有している、グレン王国の心臓。


 四人はすぐに俺とティオの存在に気づいたが、眉をぴくりと動かすだけに留まった。きっと、アルバートがいるから。


「ああ。私の留守中、変わったことはなかったか?」

「はっ。特にはございません」

「よし。今日もマテリア王国の動向を伺いつつ、軍備強化と復興活動に励むように。判断に迷った時は順次私の元へ。後で各々へ細かい指示を飛ばす。それと、アルバートを統括グループに加えることになった。今まで兵たちの管理、指揮は私が取っていたが、これからはアルバートに任せることにする。異存はないな?」


 威厳ある力強い口調。まるで決定事項と言わんばかりの迫力だ。


「「「「ユキト様の決めたことならば」」」」


 四人同時にそう言い、頭を垂れる。


「うむ。まあお前たちには前々からそれとなく伝えていたからそこまで驚きはないか。では、これからアルバートと情報共有するゆえ、君たちは持ち場に戻れ」

「ユキト様。ソーマ様、ティオ・マテリア姫殿下がいらっしゃるようですが」


 四人の筆頭、壮年の男性がそう聞く。


「詳しいことは後で指示と一緒に伝えるが、簡単に事情を説明しておく。ティオ・マテリア姫殿下は現在、記憶喪失。そして、なぜか祖国、マテリア王国に追われているらしい。ソーマ殿はティオ、マテリア姫殿下の付き添いだ。記憶を取り戻す手伝いをしている。このお二人方はしばらく我が国へ滞在される。丁重にもてなすように」

「ユキト様。現在、マテリア王国は我が国へ宣戦布告をしたのです。そんな中、ティオ姫殿下を我が国へ置くことは危険では?」


 四人の中で最年少の、二〇代女性が進言する。

 確かに、俺はまだしも、ティオの扱いは困るだろうな。


「マテリア王国がなぜティオ姫殿下を襲ったのか。理由が分からない以上、危険だと思う気持ちも分かる。だが、ティオ姫殿下は人質として機能する。また、戦力としても。彼女は私に匹敵する戦闘力を持っている。また、戦力で言えば、ソーマ殿がこちら側につくことで莫大なアドバンテージを得られる。向こうが難癖つけてきたとしても問題はない。なぜならティオ姫殿下と私は友人なのだから。ティオ姫殿下は、単に友人である私の元を訪ねてきた、ということにすればいい」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。そこまで考えていたのか。


「ということで、今夜はソーマ殿とティオ姫殿下の歓迎会を行う。準備を命じておくように。話は以上だ。下がりたまえ」

「「「「はっ!」」」」


 四人は粛々と部屋を出て行く。

 ユキト、王様やってんなぁ。これが国のトップか。ストレスで胃に穴が開きそう。


「そういうわけだ。アルバート。頼んだぞ。君ならグレン兵たちをまとめられるはずだ。正式な辞令は一週間後あたりに出る。そこで任命式を行うつもりだ。それまで諸々の引き継ぎを本日より行う。覚悟しておけ」

「はっ!」


 二〇歳そこそこに見えるアルバートが、兵たちをまとめるのか。大出世じゃないか。相当有能なんだろうな。グレン王国は年功序列ではなく、実力主義だということが分かった。


「さて、君を統括グループに迎えるにあたり、知っておいてもらいたいことがある。まず、ティオ姫殿下のことだ。先ほども言ったが、彼女と私は友人関係にある。彼女が王位を継げばマテリア王国とグレン王国の国交は盤石のものとなる、はずなんだったのだがな。そして、ソーマ殿。あの四人の反応から察せられたと思うが、彼は国賓クラスの人間だ。国賓というより、我が国の恩人、かな。邪竜グレイヴを倒し、この国に平和をもたらした」


 ギルバートは絶句し、俺の顔をまじまじと見つめてきた。


「伝説の銀竜の契約者。すさまじき力で邪竜を退けた、銀色の閃光」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る