第129話 兄弟

 案内役の人に、俺とティオが使う部屋へ連れて行ってもらった。

 応接間から歩いて五分程度。

 廊下にズラーッと並んだ部屋のうちの、隣り合った二室。


 一室二〇畳くらいだろうか。俺基準で見れば、かなり大きい。

 とりあえずキングサイズと思しきベッドへダイブしてみる。ふかふかで気持ち良い! 


 ベッドでごろごろしたり飛び跳ねたりすること一〇分。飽きた。

 部屋には本など暇を潰せるものは何もないので、ティオと城内を散策しようと、隣の部屋のドアをノックする。

 返事がない。ただの屍のようd、おっと、ここで止めておこう。


「おーいティオ〜。城内散歩しようぜ〜」


 やはり返事がない。ドアに耳を押し当ててみると、中から僅かに声が聞こえてきた。


「おやすみ〜」


 気の抜けた声。半分寝ぼけて言ってるなありゃ。

 今日は朝早くて睡眠時間は五時間程度。そりゃ眠くなるか。 仕方ない。一人で探索するか。ユキトも仕事忙しいだろうし。

 っと、その前に。

【竜の爪痕】を通し、脳内でシルバに話しかける。


『シルバ、起きてるか』

『うむ。何用だ、主』

『や、しっかり隠れてるかどうかの確認だ。毎度毎度すまないな。今大体どのあたりにいるんだ?』


 野宿した谷底からグレン王国城に到着するまで、ずっとステルス魔法をかけていて、到着してすぐシルバだけ離脱してもらったため、王城にはいない。


『城門からほど近い森に潜伏している』

『そっか。近いところにいるのは助かる。明日以降、グレン王国兵たちと戦闘訓練やるらしいから、こっちまで出張ってもらうことになるだろうから、よろしく』

『む。我の存在を知られてもいいのか』


 そういえばそうだな。その辺、ユキトはどう考えてるんだろう。


『一般人はともかく、兵たちにだけは俺たちのこと話すのかもしれない。もしかしたらお前専用の寝床も用意してもらえるかも。ま、詳しいことは明日話すよ。今日はとりあえず待機で』

『了解した』


 シルバとの確認作業終了。

 ユキトから国賓だと誰もが分かる専用の徽章をもらっているため、どこへでも行ける。城の探索もいいけど、外にも出てみたい。


 昼食まで時間あるし、刀、振るか。

 そういえばさっき、ユキトがアルバートに、訓練場での待機を命じてたな。そこなら思う存分刀ふれるだろうし、行ってみるか。

 城内を掃除していた使用人に道を聞く。



 歩くこと一〇分。

 城からほど近い場所に、砦と見まがうほどの、高い壁が出現した。左右見渡しても、途切れ目が見えない。ドーム状になっているのか? だとしたら相当巨大な囲いということになる。


「はあ、すごい。こんなに立派な訓練場があるのか」


 門番さんに国賓証を見せて、中に入れてもらう。

 広大な更地。

 左方向に、いくつか施設が集まっている。

 軍用と思われる竜舎。

 ところどころ明かりが灯っている建物は、寮か何かだろうか。窓の数から察するに。


 屋根付きのレンガ建ての建物がブロック状に並んでいる区画がある。遠目で判別は難しいが、剣を携えた集団、弓を携えた集団が、それぞれ別々の建物へ入っていくのを見るに、おそらく屋内訓練場か何かだろう。


 視線を正面に戻す。

 そこでは、広大な土地を最大限利用した、大規模な竜魔法訓練が行われていた。


 空中。編隊を組みながら連携して攻撃魔法を放っている。隊の攻撃が一点に集約していて、一つ一つの威力はそこそこなのに、集めることで巨大な力へ。


 地上では身体強化魔法を用いた接近戦。竜魔法によって出現させたのか、そこらじゅうにぼこぼこ立っている岩の柱を使いながら戦っている。


 俺はその光景に圧倒された。俺がこっちの世界に来てからの戦いは、個人戦が多かった。こういう集団戦を目にすることはそうそうなかった。


「貴様。我らが神聖なる訓練場へ何用だ」


 背後から声がかけられる。つい先ほど聞いた声だ。


「ちょいと素振りをしたくなってな」

「ふん。あっちの屋内訓練場、一番手前の、剣が描かれているところだな、そこを使え。戦闘狂どもが飢えているから、相手してくれるだろう」

「教えてくれるなんて、優しいな」

「不本意ながら、貴様とはこれから共に兵の訓練をしてゆかねばならなくなったからな」


 不機嫌そうな仏頂面をひっさげて現れたのは、アルバート。 やっぱり、誰かに似てる。

 艶のある漆黒の髪。燃えるような紅い瞳。精悍な顔立ち。


「ユキト、とも似てるのか。でもそれより、ギル、ギルバート・グレンに、よく似ている」


 そうだ。ギルに、そっくりなんだ。口に出してはじめて自覚した。


「ギルバート、だと? 貴様、やつを知っているのか!」


 アルバートの表情が、途端に厳しくなる。剣の柄に手をかけていて、今にも引き抜きそうになっている。

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