第9話 お昼ご飯
昨日はメイルの足につかまれての移動だったが、今日はちゃんと背中に乗っている。
不安定な姿勢からではない、空からの景色。
俺はきっと何回空を飛んでも、感動することをやめられないだろう。
この感動が、空を飛んでいることか、はたまた竜に乗っていることか、どちらからくるものなのかはわからない。
元の世界に戻ったら、うっかり飛行機乗りを目指してしまいそうだ。そのためには帰る方法を見つけないといけないんだけど。
ほどなくして見覚えのある草原に降り立つ。また来たいとは思っていたが、まさか1日もたたずに来ることになろうとは。
「さて、ソーマを見つけたのはこのあたりなんだけど」
ティオと一緒に付近を捜索するが、それらしいものは何一つ見あたらない。
「何もないな。遺跡も、装置も、転移した痕跡も」
「そうね。異世界との移動方法なんて見当もつかないわ。そういう学問の専門家なり専門書なりを当てにした方がよさそうかも」
「確かにそっちのが効率的か。でも、もう少しだけ探してもいいか?」
「いいわよ。ただ前にも言ったとおりここは国境付近だから長居はできないわ」
「そういえばそうだった。こんなきれいな場所で戦いなんて悲しいな」
一度来ただけでもう一度来たいと思わせる、自然豊かな草原。こんなのどかな場所で戦いが起こるなんて信じられない。
「ソーマは戦争を知らないのね。そこがどんなに美しい場所でも、どんなに穢れた場所でも戦場になりうるの。守りたいと心から願った場所でも、二度と来たくないような呪われた場所でも、戦場は等しくやってくる。だから、今いるこの場所、この時間を大切にしなきゃいけない。私はそう思う」
そう語るティオは息をのむほど真剣で、切なげな表情をしていた。
「…ごめん」
「あやまる必要なんてないわよ。そう思う気持ちは大切にしなさい」
「うん」
「でも、ソーマの住んでる国はあんたにそう思わせるほど平和なのね。少し、うらやましい」
「そうだな。俺は、ただ与えられた平和を享受していただけだった。今の平和な世の中のつくってくれたご先祖様に感謝しないとな」
「素直でよろしい。私も長々とごめんね」
「いや、認識を改めさせられたよ。俺が来たこの世界は、そういう世界なんだな」
「残念ながら、ね。いつかこの場所でのんびりできるような、そんな世の中になったらいいわね」
「俺も、もしもう一度この世界に来れたら、きれいなままのこの場所でのんびりしたいな」
「その時は一緒にピクニックでもしましょうか」
「いいね。その時は手作りサンドイッチを持ってくるよ」
小さいときから両親が家を空けることが多かったため、家事はひととおりできる。さらに味にうるさい妹のおかげで料理にはかなり自信があるのだ。
「あんた料理できたのね」
「おう。味の方も自信ありだ」
「それは楽しみね。さて、しんみりした話はここまで。あと少しだけ探すんだっけ? ならあそこの森を探索しましょ」
パン、と手を打ってティオは立ち上がる。
「そうしようか。だけどその前に昼飯にしよう。出る前に宿のキッチンを借りておにぎりを作ったんだ」
「あ、聞いたことある! 確か東の方の地域の料理ね!」
「料理ってほどのもんでもないけどな。メイルの分もあるし、見晴らしのいいところで食べよう」
「うん!」
食べ物の話になったとたん犬みたいになったティオさん。
俺もいつまでも平和ボケしてないで、気を引き締めていかないとな。さもないといつか痛い目をみそうだ。
でも、せめて今だけは、ティオとメイルとお昼ご飯を食べさせてくれよ、時の運とやら。
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