第10話 呼び声
お昼ご飯を食べた俺たちは、早速森の中へ進んだ。
森の中は道無き道といった風で、メイルの巨体では進むことができないため、入り口で待ってもらうことになった。
あ、ちなみにおにぎりは好評でした。ティオは梅干し、メイルはシャケがお気に召したようだ。覚えておこう。
「ここの森はなぜか魔獣がほとんどいなくてそっちの心配はないんだけど、そのせいで盗賊やグレン王国軍の隠れ場所になっている可能性があるわ。私から離れないように」
「ちょっと待て。色々聞きたいんだが、まず魔獣ってなんだ?」
「魔獣っていうのは人間にあだなす危険な動物よ。何がやっかいかって、人間を積極的に襲う習性もそうなんだけど、魔法を使うのよ」
「そういえば最初にこっちに来たときに俺を襲ってきたし、魔法も使ってたな……竜以外でも使えるのか」
「ちょっと違うわね。つまり、私みたいな竜契約者と同じなのよ」
「竜は動物とも契約を結べるってことか」
「そう。竜は人間と契約を結ぶ場合、1人としかできないんだけど、動物の格によっては複数と契約を結ぶことが可能になるの。例えばライオンなら2頭、ハイエナなら10頭くらいね」
これは驚いた。まさか知能が低い動物とも契約を結べるなんて。ということは、魔獣の頂点は竜ってことになるのか。
科学は戦争のたびに飛躍的に発達する。それがこの世界にないということは、最大の軍事力はおそらく、竜。
良くも悪くもこの世界は竜を中心に回っているようだ。
「へー。で、この森にはそいつらが少ないから、その点は安心なんだな。で、前から気になってたんだが、グレン王国ってティオの国と戦争してるとこか?」
その名前を出したとたん、ティオの雰囲気が険しくなった。
「そうよ。私たちの国、マテリア王国と敵対している国。隣合ってるからタチが悪いわ。歴史の話をすると長くなるから割愛するけど、小さな小競り合いを含めるとかれこれ100年になるわね」
「そんなに長い間戦争してるのか」
「両国の戦力が拮抗してるから。どちらも戦力バランスを崩そうと必死になってるけどね」
膠着状態か。厄介だな。戦争が長引くと民も兵も疲弊する一方だ。
「ただ最近、グレン王国に不穏な動きがあるらしいんだけど……っと、ひらけた場所にでたわね。一応調べておきましょうか」
話しながら道無き道を進んでいた俺たちだったが、ようやくちゃんとした場所に着いたようだ。
「っ!」
そこは、どこか神聖な雰囲気をたたえた場所だった。
緑と陽の光にあふれ、燦然と輝いている。
森の中にぽっかりと空いたスペースは決して大きくはなく、特に目を引く巨木の根本など人2人座れるほどだ。
そして根本の近くの地面に、1本の錆びた剣が突き刺さっていた。
「ここは何かしら? 人工的なような、そうでないような、不思議なところね」
ティオはぐるぐる歩きながらそこかしこを観察している。だが、それもあっというまに終わってしまった。
「ああ。俺も何か感じるものがある。特に気になるのはあそこの剣だな」
「おおかた昔この近くで戦いがあったとかそんなところでしょう。逃げのびた兵士がぶっさしたとか」
おいおい大ざっぱだな。いや、現実的なのか。俺は変な想像をしちゃったぞ。想像というより直感かな。
「俺には、何かの記念碑、あるいは墓標に見えるな」
「縁起悪いわね。でも、ありえる話だわ。この剣はそっとしておきましょう」
「そうだな」
と言いつつ俺は剣に近づいていく。
大きな木の根本に突き立つ、どこか寂しげな剣に。
「ちょ、ちょっと、今触らないって言ったはずじゃ」
ティオの言葉は聞かず、剣の柄を握る。
だって、呼んでた気がしたんだ。
叫んでいた気がした。
私を取れって。
剣を握った瞬間、表面を覆っていた錆びは残らずはがれ落ち、中から純白の刀身が現れる。
「え?」
「これは……もしかして、魔宝剣!?」
ティオの目は驚愕に染まっていたが、俺が驚いたのはそこではない。
『やっと私を見つけてくれた人が来た! ありがとう名前も知らない人! 私? 私はリーサって言うんだ!』
おいおいおい、何だこのやたらテンションの高い剣は!?
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