第3話 店へ
町は、なんていうのかな、テレビで1度は見たことのあるような中世ヨーロッパ風、みたいな感じだ。元の世界とはどことなく違うような気もするが、外国に詳しくはないので具体的なことは言えない。写真を撮っておこうかと思ったが、さっき無茶な動きをしたせいかスマホは壊れてしまっていた。
この景観から察するに科学が高度に発達している、ということはなさそうだ。まあ竜がいる世界が未来都市並に発達してたらそれもどうかと思うが。竜は自然豊かな場所でしか生きられないのだろうか。それとも、竜、あるいはそれに代わる何かがあるから、科学が発達しなかったのだろうか。
町並みを眺めながらそんなことを考えていると、不意に女の子が足を止めた。
「じゃ、ここで話をしましょうか」
いつの間に裏路地に入ったのか、そこは怪しさマックスのどこからどうみてもアブナイ店だった。
ぼろ雑巾のような看板。消えかかっているロウソク。木板にはドクロが吊されていて今にも呪われそうだ。
「なあ、本当にここに入るのか…?」
「もちろん。そのためにここまで来たんだけど。もしかして怖い?」
図星をさされてしまいました。てか同い年くらいの女の子にこんな心配されるとか超絶恥ずかしいです。
「そ、そんなことないよ。俺が先に入るね」
しょ、しょうがないよね。いきなり異世界に飛ばされて、やっと一息つけると思ったらこんな場所にたどり着いたんだから。びびってるなんて思われたくなかったから思わず先に入るなんて言ってしまって若干後悔。
店に入った瞬間おそわれる、なんてことはないよな? 怪物がいたり、なんてこともないよな?
「どうしたの? あ、やっぱりこわ…」
「入ります入ります!」
ええい、ままよ!
ギィ、と音をたてて扉を開けた瞬間、目の前に大男が現れた。
縦にも横にも大きな体。顔、腕、足とも毛むくじゃらで、目だけがギョロリと光っている。
「こ、こんにちは」
「……いらっしゃい」
こっわ~。なんだこの巨人みたいな人は。夜道とかであったら全速力で逃げるレベル。物理攻撃に強くて魔法攻撃に弱いキャラ、みたいな。
「ここって店の外装がアレだし、マスターの見た目があんなだから人が寄りつかなくて内緒話するにはもってこいなのよ。食べ物も安くて美味しいのにもったいない話よね。さ、座りましょ」
慣れた様子で席へ移動するあいつについていき、木製のイスに腰を降ろす。それを見計らっていたかのように店主が水を持ってきた。あ、店主っていうのは出迎えてくれた巨人さんのことね。マスターって呼んでるし多分そうなのだろう。
「……どうぞ」
「ありがとう。早速注文したいんだけど、今日のおすすめは?」
「……グレン王国産ガラマガニのグラタン」
「グレン王国産!? 相変わらずどうやって仕入れてくるのか謎だわ。でもあそこのカニは絶品らしいし、それを二人前でお願い。あとコーヒーも」
「……かしこまりました」
のっしのっしと去っていく店主。
「俺、お金もってないんだけど…」
「いいわよそんなの。おごってあげるから。さあ、色々話してもらうわよぉ」
初対面の相手におごらせるなんて申し訳ないんだけど、いかんせんこっちの世界のお金がない。ここはお言葉に甘えるとしよう。それにしても助けた相手、しかも見ず知らずの人間にこんなふうにおごるなんてこの子はどれだけ懐が深いんだ。
それに今気づいたことだが……言葉が通じてる。何の違和感もなく。これはありがたいことだけど、こっちの言語体系は一体どうなっているのだろう。
もしかして遥か昔、俺が来るよりも前にこっちの世界に来た人がいて、日本語とかを広めたとか? ……いや、さすがにそれはないか。我ながらバカバカしい妄想だ。
そんな益体のないことを考えるより、まず目の前の女の子と話をするのが先だな。
「なんなりと、姫様」
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