第12話

「さて仕事を始めようか。今回は美久に任せてみるかな。」

「あたしに?みずほは?」

「今回は完全に供給者役。まあ何かあったらフォローはするけどね」

二人の中だけで打ち合わせが終わっていく。

当然のことだけどあまりに寂しいのでこの頃は打ち合わせの終わりにこの発現をするようにしている。

「で、僕の役割は?」

「何もない」

「何もないよ」

うんいつも通り。

「さて行きますか。美久、しっかりやりなよ」

無言で頷く美久。

 緊張してるのか、と思うけどここまできたら僕に出来る事はもう何もない。

 ただ見ているだけだ。

 

「あれが今回の標的。ま、そんなに強くなさそうだしさくっとやっちゃいな」

「ん」

短い返事を返し、美久は悪魔に向けて手をかざす。

美久のかざした手から一直線に火球が悪魔に向かって飛んでいく。

こいつの能力はいわゆるオーソドックスな放出系だ。

火球のようにも見えるエネルギー弾を相手に向かって撃ち出す。

それだけとはいえこいつのは威力が他人の同じような能力と比べて高いらしい。

他の能力者を見たことがないから分からないんだけど。


放った火球は見事に悪魔に命中した。

美久からふう、という呼吸が漏れる。

終わったなー。

そんなことをぼんやり考えていると

「まだ潰せてない!美久!もう一発!」

みずほさんの怒声が響く。

気を抜いていた美久だけどすぐに持ちなおしたのはさすがだ。

もう一度悪魔に向けて手をかざす。

さっきのものより大きな火球が飛んでいく。

今度はやったか?しかしあの悪魔はひらりと火球を避けてみせた。

「嘘…あれ避けられるの…」

「いいから撃ちまくるんだよ美久!」

みずほさんの叱責が飛ぶ。

その言葉を聞いて慌てて再度火球を撃ち出す。

でも当たらない。ひらりひらりと躱していく。

そして悪魔は僕らと逆の方向に逃げていく。

「くそっ」

みずほさんが一人で悪魔の逃げた方に駆け出す。

「お前らも早く付いて来い!」

「ちょ、待ってください!」

こっちは僕ならまだしも体力は人並み以下の美久がいるのだ。

そうそうあの尋常離れしたみずほさんのスピードについていけるわけがない。

案の定、すぐに見失ってしまった。

「はぁはぁ…」

完全に息の上がっている美久に声をかける。

「お前が下手にうろうろしても疲れて動けなくなるだけだからとりあえず休め。周りは見といてやるから」

 美久はその場に座り込む。その顔は今にも泣きそうな顔だった。

「どうした?みずほさんがそばにいないのがそんなに寂しいのか?」

場を明るくしようと精一杯の冗談を言っても美久の顔は全く明るくはならない。

「なんで?なんで当たっても倒せないの?なんで当たらないの?」

 今までになかったことに取り乱して完全に冷静さを失っていた。

 あの時の自分と同じだ。

二人が死んだ時のあの時と。

なら僕に出来ることはなんだ、僕にしかできないこと、何かあるはずだ。

ズゴンッ!道端にあるゴミ箱が音を立てて転がる。

「なっ」

さっきの悪魔がそこにいた。

みずほさんがまだ見つけられないのになんでこっちに来るんだよ。

ここは逃げるしかない、そう思って美久の方を見て叫ぶ。

「おい!とりあえず逃げるぞ!」

それでも美久は立ち上がろうとしない。

いくら動揺してるからってこんなところで止まってたら死ぬだけだ。

「おい!聞いてんのか!早く逃げるぞ!」

それでも立ち上がらない美久。

くそっ!僕は美久の手を掴んで立ち上がらせる。

「ほら!行くぞ!」

その瞬間、美久は僕の掴んでいた手を振り払った。

「あたしは戦える、あれを倒すんだっ!」

美久は悪魔に向かって右手をかざす。

だけど供給者のみずほさんがいないのに能力を使えるわけがない。

「うわああああああ!!!」

叫びながら悪魔を睨んで能力を使おうとする美久。

発動するわけがない。

どうする、どうすればいい。僕はどうしたいんだ。

僕はどうしたいんだ、それを考えた瞬間僕は決意をする。

悩みを蹴飛ばしてただ今自分ができること、したいことをする、ただそれだけしかない。

僕はもう何も出来なかったあの時を繰り返したくない。

「うおおおおおおおお!!!」

叫ぶ意味なんてなかった。だけど僕は叫びながら僕の力を使う。

みずほさんの姿をイメージしてその右手と僕の右手を糸でつなぐことを想像する。

そして美久の左手も同じように。

いける、三ヶ月前にやってたあの感覚と同じだ。

今すぐ無理やり美久の手を引いて逃げることも出来た。でもそれにはまだ早い。

やれることはあるんだ、あの時とは違って。

こんなところで僕も美久も後悔なんてしたくない。

「あああああああ!!!」

さらにイメージを強く。糸をつたって僕の体をつたって二人がつながるように。

きん、と耳鳴りのような感覚。つながった。つなげられた!

「美久!俺の能力でみずほさんとお前をつなげた!ぶっ放せ!」

美久の目がこちらを見る。

「わかった」

そう一言だけ言って美久は悪魔に手をかざす。

「死ねええええええ!!!」

今までとは比べ物にならないくらいの大きさの火球が放たれる。

当たれ当たれ当たれ倒せ倒せ倒せ!

火球は一直線に悪魔に吸い込まれるように飛んでいく。

そのまま火球は悪魔に当たり、地鳴りのような音が鳴り響き、あたり一面を煙が煙に包まれる。

「やったか!?」

あたり一面を包む煙が晴れる。

「なっ」

「嘘…」

まだ消えていない。体の体積は半分程度になってかなり弱っているがまだだ。まだ倒せてはいない。

「美久!早くとどめを!」

「わかってるっ!」

しかし傷ついた悪魔は煙が晴れるまでの間にこちらに近づいてきていた。

そして猛スピードでさらにこちらに近づいてくる。

このままだと間に合わない!くそっ!こんなところで結局失敗なのかよ!

美久だけは逃さないとな、そんなことを思いながら美久の前に立ち

「とりあえずお前は逃げろ!」

美久が何か言っているのが聞こえる。

いいから早く逃げろよたまにはかっこつけさせてくれよ、あの時出来なかったことをやらせてくれよ。

そして目の前に悪魔が現れ、覚悟を決めたその瞬間、悪魔が爆ぜた。

「ったく…お前は何をかっこつけてんだよ」

僕の後ろから声がする。振り返り僕は言う。言ってやる。

「来るのが遅いというか一人で先走ったんならきちんと仕留めてくださいよ。死ぬかと思いましたよ本当」

「結果間に合ったんだからそれでいいだろ?」

特に悪びれるでもなくしれっとそんなことを言う。

「みずほ…あたし…」

下を向いた美久は泣きそうな顔をしながらみずほさんに近寄る。

 そんなに美久の頭をぽんぽんと撫でながら

「まあ気にすんな。あれがたまたま異常に耐久力が高かっただけだ。私が最後に一撃で仕留められたのも美久が弱らせてたからだしな。それにまだ威力上がりそうだしな。そうだろ?」

 その一言で美久の顔もぱっと明るくなり

「うん、頑張る」

 うん前向きになったみたいだ。

 こういう師弟関係って本当にいいもんだな、そんなことを思っていると美久が話しかけてきた。

「数人」

「ん?なんだ?」

 美久はもじもじして恥ずかしそうな顔をしながら

「あ、ありがと助けてくれて。これは貸しにしといて。いつか絶対に返してやるんだから」

「お、おう。ま、助かってよかったよ本当。貸しな、いつか返してもらうからな」

 こんな恥ずかしそうに、しかもお礼を言われるなんて初めてのことだから無駄にドギマギしてしまった。

「そこのお二人さんラブコメやってるところ悪いけどもう帰るぞー」

「ラブコメなんてやってませんよ!」

「ラブコメなんてやってない!」

声が揃ってしまった。

「そういうのがラブコメなんだっての。まあいい、帰るぞ。あ、それと数人、勝手に能力使ったお説教あるから覚悟しておけよ」

「あー、マジですか」

「マジだ。しかも結構厳しめな」

一気に陰鬱な気分になってきた。話長いんだよなぁいろいろ嫌味も言われるし…

 だけどそれでも僕は満足していた。

 そりゃあ最後はみずほさんに結局は助けられた形ではあるけど、自分の出来ることをやった今回はやり切れた、その思いがある。

僕はこの時、やっとあの時見てるだけで何も出来なかった情けなかった自分から少しだけ変わることが出来た気がした。

それだって自己満足なのかもしれないけれどそれでも僕はいいと思ったのだ。

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