第10話

「数人、飲み物」

「はいはい…」

あれからの僕は完全にカバン持ちだった。

しかもみずほさんならまだしも美久の。

そりゃあサポートとは言われたけどまさか本当に雑用だったとは。

しかも美久に微妙に嫌われてる気がするし。

まあこれは出会って次の日の仕事でどう見たって中学生だったからつい平日の昼間に学校とかないのか?とか言ってしまったからだろうけど。

まあなんとびっくり1つ上だったわけだけど。

あの時の美久はすごい目で睨みながら無言で足踏んづけてきたからなぁ…

個人的にはそういうところも子どもっぽいんじゃないの、とは思うんだけど。

「だいたいなんでバイト先まで一緒に行かなきゃいけないんだ…というかそれは百歩譲っていいとしても今も荷物持たせる必要ないだろ…」

「だってみずほになるべく一緒にいろって言われてるから。それに楽だし。だいたい本当は学内でもなるべく一緒にいろって言われてるのに数人が嫌がるからあたしこそ百歩譲って仕事に行く時だけにしてあげてるんだから」

「お前それみずほさんにからかわれてるだけだって…」

 本当にみずほさんは性格が悪い。

またこいつも純真というかみずほさんの言うことなら何でも聞くところあるからな…

だいたい僕をからかって何が面白いというのか。

まあそれをこの前言ったら

「お前が私の思い通りの下らない反応するのを見るのが楽しいんじゃないか」

とか言われるし。

そんなに僕は駄目なやつですか、と何度も同じようなことを言われ続けてるのにまたへこんだものだ。

「ねえ数人まだ着かないの」

「毎回言うけど地図くらい見て地理を少し覚えろって。もうすぐだよ、もうすぐ」

こいつも普段はこんなだけど能力は強力だしな。

確かに僕の出番なんてどこにもないんだけど。

それでもあの自分しかできないことを必要とされてた時を懐かしく感じてしまう。

もうあの時に戻れるはずはないのに。


「ほら着いたぞ」

「ずいぶん遅かったな、二人で何やってたんだ?ん?」

先に到着していたみずほさんが案の定にやにやしながら僕らを見る。

「またそういう…」

 毎度のやり取りにうんざりしながら一応反応する僕は自分で偉いと思う。

美久は美久で興味なさげに携帯いじってるし。

「そうか?私には付き合ってるように見えたぞ?」

「それはないです」

「それはありません」

この声がハモるのもなんだか毎回の儀式みたいになってきてるな。

というか毎回同じ反応する僕らも僕らだけど。

「さていつもの冗談は置いといて仕事始めるか。美久、用意しな」

「はい、みずほさん」

さてここからは特に語るものも何もない。

ただ僕は見てるだけ。

自分の持ってない圧倒的な力を見せ付けられて自分が何も出来無い人間なことを噛み締める時間だ。

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