第9話
この後僕は本部に連れていかれ、彼女が言っていた事情聴取を受けた。
と言っても茶番と称したように特に糾弾されるのでも何でもなく、あったことをただ述べるだけのものだった。
もちろんそれでもあの光景、あの状況を人に語るのは幾分か落ち着いていたとはいえとても辛かったことは覚えている。
そしてその茶番が終わると別の部屋に行くように指示された。
次はいったい何なんだ、と思いながら指示された部屋に入ると、そこにはあのライダースーツの女性が黒のパンツスーツを着て座っていて隣には見たことのない女の子もいた。
「進藤数人だな。まあいいから座りな」
そう言って彼女は自分が座っている向いにあるソファを指差す。
「はい…失礼します…」
ライダースーツの女性はニヤニヤしながら僕を見て、一方もう一人の女の子はこちらを探るようなじとっとした目で僕を見つめてくる。
「えと…何の用でしょうか…」
正直僕もあんなことがあり疲れていたのだ。
それを事情聴取までされ、僕の心はそれなりに限界に近付いていた。
「話したいことなんて内容としては2つくらいさ。ああ、まず自己紹介しておこうかね。私は倉島みずほ。で、こっちの目付き悪いちっさいのが吉水美久だ。」
「はぁ…進藤数人です…」
なんでこの人はこんな状況でこんなにも明るく話すのだろうか。
「さて、まずはこれを聞いておかないとな。どうだ?自分のせいで二人も死んだ気分は?」
「なっ…!」
僕のせいで二人が死んだ?この人は今そう言ったのか?ふざけるなふざけるなふざけるなよくもそんなことを。
「ふざけないでください!僕があの二人を殺したって言うんですか!」
相変わらずの余裕の顔で彼女、みずほさんは僕に言葉を突き立てる。
「ああそうだよ。お前のせいで死んだって言ってるんだ。だってそうだろう?お前がいなきゃあの二人はお互い近くにいて戦ってたんだ。それなら供給者のところにもう一体別の悪魔が来ても普通に倒せばよかったんだ。お前がいたから二人は離れた。違うか?」
「それは…」
確かにそうだ。
僕の能力がなければ二人はお互いに近くにいて戦っていた。
じゃあ僕の能力は役立たずなのか?二人を殺したのは僕なのか?
じゃあ僕は…
「だから私は最初から言っていたんだ。こんなただ珍しいだけで約に立たない能力なんか使う価値ないってね」
みずほさんはため息をつきながら僕の能力をこき下ろす。
「だいたい最初から分かってたんだ。こういう危険性があるって。ただ今までにこういう状況が発生していなかっただけでな」
僕はただうつむいているしかなかった。
僕のせいで死んだのか…みずほさんに言われた言葉が頭の中で乱反射する。
「まあ今言ってもなかなかに理解して納得はできんだろうがな。ゆっくり自分の責任と無能さを噛みしめればいいさ。今わかる必要はないさ。」
そう言ってみずほさんは立ち上がり僕の横に座る。
「で、これからのお前の処遇だけどな。私の下で働いてもらうことにした」
あまりに唐突な展開に全く頭がついていかず
「えっ」
ぽかんと口を開いてこの一言を言うことしか出来なかった。
「別に何をしてもらおうってわけじゃない。ただ私はこの状況でそんな何も感じていないような態度をとれる狂ったお前を気に入っててな。私のそばに置いて無力さを味あわせてやろう、ただそれだけだ。」
正直頭の中はまとまってない。
でも今の言葉の中に尊厳をかけて反論しなきゃいけない言葉があるのはわかった。
「僕が何にも感じてない?どうしてそんなことが分かるんですか?僕の何が分かるって言うんです!」
怒っていた。
僕は怒っていた。
それでもみずほさんは笑いながら
「ははははははは!あのなぁ、普通は泣いたりもっと取り乱すものなんだ。それを淡々とあの事情聴取とかいう茶番に付き合うとか、ましてや自分が悪いなんてことを私に言われてかけらでも認めようとする奴が普通な奴なもんか。」
「そんなこと!」
「自分が人並みの感情を持ってると思うならそう思えばいい。ただ私はお前はほんの少し決定的に普通から外れてる、そう思ってる。まあこれ以上は平行線だけどな。とにかく私はお前を気に入った。何も出来無い私はお前を気に入った。何も出来無い歪んだお前をな。今はそれで終わりだ。」
「くっ…」
確かにこれ以上この人と僕の内面の印象について言い争っても仕方ない。
僕は僕が普通だと思っている、それだけで十分だ。
「で、だ。お前は私の下で働いてもらうわけだけど特に能力をつかうことはない。私は能力者も供給者もどちらでも出来るし私一人で能力を使うことも出来るしな」
は?
なんだそのチート能力?
「それ本当なんですか?」
つい聞いてしまった。
「ま、私一人しかいないんだけどな。お前の言うとおりチートだよ確かに。でもお前見ただろう?私が一人で悪魔を倒すところ」
そう言われてみればそうだ。
この人は一人であの場所にやってきて一人で悪魔を倒した。
「そういうことだからとりあえずよろしくな。ああそう、基本は美久のサポートとかやってもらおうと思ってるから。ちなみに美久は能力者だから。ほら美久、挨拶」
みずほさんがそう言うと美久は立ち上がりこちらを見ながらぶっきらぼうに
「さっき名前はみずほが言ったからいいよね。よろしく期待はしてないけど邪魔はしないでね」
この二人はいちいち腹の立つことを言うもんだ、そんなことを思いながらも僕は右手を差し出して
「ああよろしく」
握手を求めた。
まあもちろん一瞥してふいっと横を向かれたわけだけど。
「こいつは人見知りだからな、最初はこんなもんだから気にするなよ」
「はいはい別に気にしてはいませんけどね」
そうやってぶっきらぼうに僕も返事を返しながら僕はもう一度美久を見る。
こんなときに場違いではあるとは思うけれど可愛らしいと思った。
小さくて目付きはちょっと悪いけれど。
「ま、これから3人で楽しくやろうな、楽しくな」
どの口からそんな言葉を吐くんだ僕には絶望させるためにここにいさせるみたいなこといっておいて。
まあとにかく僕はここにいるしかなかったのだ。
一人になるのは嫌だ、そう思ってしまっていたのだから。
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