第8話

始まりはいつも通りだった。

「んじゃ、数人頼むわ」

そう言われていつも通りに僕は二人をつなぐ。

「よし、じゃあちょっくら行ってきますわ」

高橋さんがそう言って悪魔の出現場所に一人で近づいていく。

僕は二人を結ぶ直線の中心辺りに陣取る。

「なるべく悪魔に供給者は近づかないほうがいいだろ?」

高橋さんのその提案で僕らの戦法は能力者の高橋さんが悪魔に一人で近付き、小坂さんはある程度離れたところ、そして僕は二人を結ぶ直線上にいたほうが繋ぎやすいので二人の間にいる、というようになったのだ。

今回も同じ布陣で高橋さんがさっきよりさらに悪魔に近付いていく。

「さーて、さっさとぶっ倒してやるからな!」

そういって悪魔を能力の射程圏内に捉えた高橋さんはその能力でいつものように悪魔を押しつぶす。

半径3mくらいの空間にいる悪魔をただ押しつぶすことしか出来無いんだぜ、しかも圧力は時間かけないと強くならないから、一発で短時間で仕留めるってのもなかなか出来ないしな、と高橋さん本人は言うが下手な放出系(なんというかエネルギー弾を出すような能力と考えてもらえれば)より当てる、という面において気を使わなくていい、そして何より相手の動きを封じられる点で扱いやすいんじゃないだろうか、と僕は個人的に思っていた。

その使い勝手のいい能力でいつも通りに悪魔を圧倒的な圧力で押しつぶす。

じわじわと強くなる圧力、悪魔が段々と押しつぶされてるのが僕からも見える。

後ろから小坂さんが暇すぎて明らかに飽きてる声で僕に呼びかける。

「もう終わるー?さっさと終わらせて寒いんだからって龍に伝えて!」

「あーはいはい!わかりましたよ!高橋さん!小坂さんがさっさと終わらせてほしいそうなんで早くお願いしますね!」

「おう!もう終わるからって伝えろ!」

全くなんで僕が…と思いながら

「小坂さん!もう終わりますからおとなしく待っててください!」

僕はそう言って小坂さんの方を振り向いた。

そして僕は悪夢のような現実の光景を見ることになる。

「きゃああああああああああ!!」

小坂さんの悲鳴、そして小坂さんの足元にもやもやとした雲のような悪魔がいた。

そしてその悪魔はもやもやしたその体の一部を口のように変化させてその大きな口を開いて小坂さんの足に噛み付く。

「いやあああああああああ!!」

小坂さんがその場に蹲る。

足がどうなってるかなんて見たくない見えないどうすればいいのか分からなくて後ろからは高橋さんの声も聞こえる。

「どうした!数人!いきなり能力使えなくなったぞ!数人!姫佳!」

そう言われても僕だって状況を把握していない。

どうすればいいのかなんてわからない。

ただ自分の体の中で二人をつなげているあの感覚がなくなったことしかわからない。

それでもなけなしの理性を振り絞って僕は

「小坂さんがああああ!!小坂さんがああ!」

そう言いながら僕は小坂さんの方に走りだす。

だけどもう遅かった。

もやもやとした悪魔が口を開いて小坂さんの腹の辺りに噛み付く。

「がっ!」

小坂さんが一瞬うめき声をあげ、体がだらんと弛緩する。

「うわあああああああああ!!」

ただ叫ぶことしか出来なかった。

そしてすぐに高橋さんの方からも叫び声がした。

正直な話、高橋さんのその場面は僕は見ていなかった。

ただ叫ぶ声が聞こえてその声がすぐに止んだ、そのことを認識しただけ。

僕はただ小坂さんを殺した悪魔がこちらにじわじわと近付いて来るのを見つめながら立ちすくんでいた。

 そう、僕は何も出来なかった何も考えられなかった。

 ああ僕も終わりだな、そんなことをぼんやりと考えていただけだと思う。

そしてそうやって死を覚悟した瞬間、もやもやとした雲のような悪魔が突然爆ぜた。

「あーあーやっぱりこうなったか。まあいい、狩りの時間だ」

真っ黒なライダースーツに身を包んだ女性がこちらに向かって走ってくる。

そのまま僕のいる場所を通り過ぎ、高橋さんを殺した悪魔に向かって走る。

さっきと同じ何かが爆ぜる音が聞こえ、振り向くとそこにはもう悪魔なんていなくてただそのライダースーツの女性が仁王立ちしていた。

「おいそこの役立たず。さっさと立て。これからお前に事情聴取っていう茶番をやってもらわなきゃいけないんだからな」

僕には何がなんだか分からなかった。

こうして僕の普通だった日々は終ってしまったのだ。

ここからはどうしようもない意味もなくただ悩まされる、後悔だけさせられる日々しかない。

少なくとも今の僕はそう思っている。

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