第5話

そんなこんなで始まった僕のバイトであるが、特に問題はなく順調だった。

大して苦労もせず倒せる悪魔を特に感慨もなく倒していく、ただそれだけ。

戦法としては僕が二人を繋げるから安全性を考えて小坂さんがなるべく後ろに下がって戦う、というものだったので何回かヒヤヒヤすることもあれど、それこそ危ないとかそういう意識もあんまりなかったわけで。

同僚の二人とも自分としては上手くやれてたとは思う。

別に僕自身はあの人が言っているような僕が二人と関係性を持とうとしなかったとか、そのくせ選ばれなかったことに一人で絶望してたとか、そんなことはなかったのだ。

普通にバイト終わりに打ち上げとか行ったりして僕なりに二人に上手く溶け込めてたと僕は思う。

ただ自分から誘ったりとかそういうのは気恥ずかしくて出来なかっただけで。

だから少なくとも何度もいうようにあの結果になったことは特に何も不満はなかったのだ。

だってもっと上手くやれたんじゃないか、とかそんな後悔はいつだって何をやってもついてくるはずだから。


兆候は確か8月の初めあたり、大学も夏休みに入ったあたりのことだった。

高橋さんから今日三人で飲まないか、というメールが来たのだ。

いつもはバイト終わりに誘われたことしかなかったから、あの時はびっくりしてついなんかあったんですか?というメールを返してしまった。

もちろんいつも通りの別に何もないけど飲みたいと思ってな!という爽やかで個人的にはちょっと鬱陶しいメールが帰ってきたのだけれど。


「それじゃあ、乾杯!」

「メールでも言いましたけどバイトないのに飲み会なんてそれにしても珍しいですね」

「そうか?たまにはいいだろこういうのも!」

「でも確かに珍しいよね、こういうの」

 小坂さんがそう言いながら乾杯したばかりなのにすでに空いているグラスをテーブルに置く。

「この頃テストとかであんまりやってなかったしこれはこれでいいよねー、あ、店員さんビール1つ」

 相変わらずこの人飲むなぁ、と思っている間にまた一杯空けてしまった。

 それに比べて高橋さんは見かけと性格によらず意外と飲めないんだよなぁ…

「いやでもホントなんかあったのかと思いましたよ。チーム解散とかそういう重い話待ってるのかなー、とか考えちゃいましたからね」

「そんなことあるわけないだろ!はは、まあとりあえず飲もうぜ!俺はいつも通りあんまり飲めないんだけどな!」


 それからいつも通りに飲んでだいたい1時間くらいたって酔いも回ってきたころ、突然高橋さんにこんなことを言われたのだ。

「数人は俺らのこと苦手か?」

「えっと…なんか僕しましたかね?」

僕はこの二人といるのはとても楽しかった。

だけど、少しだけ、本当に少しだけ息苦しいと言うか自分とは違うコミュニティの人間だな、という思いがあったのは事実だ。

それでも僕はそんなことは思ってないよ、という体でそんな言葉をいけしゃあしゃあと吐くのだ。

「いやそうじゃないけどな…」

「でもなんとなく言いたいことは分かるかなー。どこかで一線引かれてる感じあるもん」

「またまた小坂さんまでそんなことを…」

「だって数人から打ち上げとか誘ってくれたことないし、そこのところどうなのかなーとかとか?」

 だいぶ酔っ払った小坂さんがしなを作って体をくねくねさせながら言う。

「おいおい、それ可愛いと思ってやってるのかよ。全然だぞー」

「こら龍、余計なこと言わない!で、どうなの?」

 僕としては結構可愛いと思うけどなー、とか思いつつ質問に答える。

「どうもこうも…そう見えるならごめんなさいとしか言いようがないんですけど…」

 だって僕にはこれしか答えられなかった。

 だって事実だ。

 距離をとっているのではなくてきっと距離があるだけなのだ。

 だからその時僕はその隔たりをはぐらかすしかなかった。

「本当にそんなことないですからね!ほら、二人共お酒足りないんじゃないですか?すいませーん店員さん、注文いいですかー」

 そうしてこの時はそこで話は終わった。

 でも今考えればあれはそういうことだったのだろうなぁ、と思う。

 だからといって何度も言ってるように結果は変わらなかっただろうし、それに大して僕は後悔なんてしてないのだけれど。


 その一ヶ月後、また高橋さんからメールが来た。

「話したいことがあるから三人で飲まないか」

 話したいことがあるなら飲み会じゃなくても…とは思いつついいですよ、と返す。

 そしてその週末、いったいどんなお知らせなのか結局心当たりないまま僕はその時を迎えた。

「実は俺たち付き合ってるんだ」

 最初の一杯を飲んですぐ、本当に唐突にその事実は告げられた。

「へ?」

いやいやだってまさかとしか言いようがないですよ本当。

だって一週間前にもバイトであってるのにそんな素振り全くなかったじゃないですかうえええー、とよく分からない心の声を発しながら実際には情けない声しか出なかった。

それでもとりあえず一言。

「はぁ…おめでとうございます…」

「おう、ありがとな!」

「えへへ、あんがと」

二人の声がぴったり合うのがまた腹が立つ。

もうラブラブかよちくしょう。

と、まあそれは置いといていろいろ聞くこととか言いたいこととか今後のこととかいろいろあるだろうなぁ…と思いながら

「ぴったり声も合ってラブラブですね死ねばいいんじゃないですか、じゃなかったいつからなんです?」

高橋さんが僕の冗談はスルーしていつもの何割か増しでニヤニヤしながら

「実はな…付き合い始めたのは一昨日からなんだ」

これまたいつもあっけらかんとしている小坂さんも恥ずかしそうにしながら

「まあ意識し始めたのは数人も来た一ヶ月前の飲み会からなんだけどね。数人が帰った後飲み直そうか?って話になって…」

「なるほど、あの時にですか。それはよかったですね」

「隠してたわけじゃないんだけどな、タイミングが…」

高橋さんが頭をかきながらいつもより少し小さめの声で話す。

「別に気にしないでください。じゃあ今日はお祝いですね。たくさん飲みましょうか!」

そんなことを言いながらだいぶ落ち着いてきた僕はちょっとだけ寂しさを感じた。

だって確かにあの後は帰ったけど僕の知らないところでそんなことになってるんだもんあぁ、とかどうして誘ってくれなかったのかな誘われれば行くのに、とか。

でも最終的に出た結論は、まあ仕方ないだった。

確かに寂しかったけどそれは自分のせいなのだ。

今だってあの時だっていつだって僕はどうしようもなくただ諦めることしか出来ないのだ。

なぜかそれをあの人に言うと笑われて

「諦めてるだけならまだ良かったけどね、全くお前は悪いやつだよ、妬みの感情をそうやって言い換えて無害なフリをするんだから」

とか言われるけど。

とにかくあの日から僕らの関係は変わらないように見えて完全に変わってしまったのだ。

いや、変わってしまったのは二人じゃなくて僕の対応なのかもしれないけども。

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