第9話 四月上旬:入学式Ⅰ

 春休みが終わり、優は二年生に、深愛は三年生になった。


 優が通う高校で入学式が行われた。午後に体育館で各部の紹介が行われる。優達ジャズ部は部活紹介を兼ねて新入生歓迎の演奏を行った。

 各部の紹介が終了し、新入生が興味ある部活の部室を訪ねてまわる。廊下では優達在校生が新入生を勧誘している。


「優先輩」

 新入生と在校生でごった返している廊下を身軽に人を避け、優の前に女の子が表れた。

「あ、音無さん」

 女の子は、三月の演奏会に深愛と一緒来ていた音無恋歌だった。真新しい制服を着ていて初々しい。


「入学おめでとう」

 優は優しく微笑む。

「ありがとうございます。あの、私ジャズ部に入部希望なんですけど、部室ってどこですか。この地図だとよく分からなくて…… この廊下がここですよね」

 恋歌は新入生に配られた校内図で今いる廊下の所を指差す。


「そうそう。今ここにいるんだよ。ジャズ部の部室は二階なんだけど、ちょっと分かりにくいよね。一緒に行こう」

「はい。お願いします」

 恋歌は、はきはき、元気よく答える。


 優は恋歌を連れてジャズ部の部室に向かう。

「音無さんは深愛姉と同じピアノ教室に通っているんでしょ。ということはピアノ希望?」

「ピアノは好きなんですけど、いい機会だから他の楽器もやってみたいと思ってます。実は、優先輩と同じ楽器がやりたいです」

「僕と同じ? アルトサックス?」

「はい。三月の演奏会で優先輩の演奏に、私感動したんです。優先輩のような演奏がしたいんです。それで、ジャズ部に入ろうって決めたんです」

「そうなんだ。でも、まずは色々な楽器を試してみるのは良いと思うよ。それで、アルトサックスが気に入ったら、一緒に練習頑張ろう」

「はい!」

 元気な子だな、と優は思った。こんな妹がいたら可愛いだろうな、と思った。

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