第8話 三月下旬:ライブ

 二週間後の演奏会に向け、優は部活第一の生活を送っていた。

 毎週土日は片方部活がある。土日は他の部活と音楽室を使う時間をやりくりするので、毎週活動日が変わる。 


 深愛とは、土日の部活が無い方を使ってデートした。街を歩いていると色々な人が深愛を見る。それだけ深愛が可愛い証拠だ。中には、如実に羨ましそうな視線を優に送る人もいた。そんな視線を受ける度、優は優越感を覚えていた。


 部活に頑張り、空いた時間には可愛い彼女とデートする。そんな生活に優は大満足していた。


 優たちの演奏会の日が来た。演奏開始の十八時よりもかなり前に、優達ジャズ部の部員はライブハウスに行き、機材などの準備とリハーサルをする。


 十八時丁度に演奏会が始まった。


 演奏の合間に優は客席を見渡した。中央付近の席に深愛がいた。容姿の良い深愛は客席にいても目立つ。まるで深愛の周りだけが輝いているようだった。そんな深愛が彼女だと思うと誇らしい気持ちになる。


 練習の成果を発揮して、優は今までで一番いい演奏ができた。

 演奏後、深愛が優に花束を手渡しに来てくれた。

「とてもいい演奏だったね。練習頑張った成果だね」

 深愛は自分のことのように嬉しそうだ。

「ありがとう」

 優は花束を受け取る。


 深愛の横に一人の女の子がいる。深愛がその子を優に紹介する。

「ピアノ教室の友達の恋歌ちゃん。四月から優君の高校に入学するんだよ。だから、今日連れてきたんだ」

 恋歌は小柄で身長も深愛より低い。ショートカットのボーイッシュな感じの子だ。

恋歌はぺこりとお辞儀する。


「音無恋歌(おとなし れんか)です。今日の演奏、凄く感動しました」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。僕は幾花 優。学年は違うけど分からないことがあったら何でも聞いてよ」


「この後は打ち上げがあるんだよね」

 深愛が尋ねる。機材を片づけた後、部員皆で飲み食いしながら今日の演奏について感じたことを喋る。演奏会の後にはいつも恒例の打ち上げがある。


「うん。この後は打ち上げだよ」

「じゃあ、私達はもう帰るね。あまりはめ外して遅くなっちゃ駄目だよ。明日もあるんだからね」


 明日の日曜日は昼から深愛とデートの約束がある。

「分かってる。深愛姉達も気を付けて帰ってね」

 優と深愛は手を振り別れる。恋歌は優に丁寧にお辞儀して深愛について行った。

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