第5話

 ディルは驚いて口を開いた。

「あ……呆れた……都合の良い頭だな、オーギュスト。あんた俺を誘拐したんだぞ」

「え……? まさか! 僕はそんなことはしないよ。二人とも探してたんだよ? だけど……そうだな、ルイーズの跡を追っていたのは覚えてるんだけど……」

 オーギュストは首をかしげて顎をかいた。

「アンリは……いつ……それに、この町に来たのもよく覚えてない。ドニは僕がこの建物を買ったっていうんだけど……」

 オーギュストは部屋を見回した。

「まあ確かに僕の趣味ではあるから、買ったのは間違いないだろう。だけど君を誘拐とは……。いくら僕でもそこまではしないよ」

 オーギュストはにこにこと笑いながらルイとディルを見た。

「……あの、じゃあ……剣の……ことは?」

 ルイが怖々口に出す。

「ん? なんの剣?」

「博物館の……」

 オーギュストはまた首をかしげた。

「博物館に剣はたくさんあるだろう? 昔の戦争のときのとか」

 ルイは完全に忘れているらしいオーギュストの顔をみつめていた。

「なんだかしらないけど、オーギュスト。あんた魔法も忘れちまったんだって?」

 ディルが言った。

「ああ、そうなんだよ。どういうわけか呪文がひとつも思い出せなくてねえ。こう、頭がぼんやりしてしまって……これじゃあアルベール卿のお手伝いは無理だなあ。なんとかなるだろうか?」

 オーギュストは残念そうに俯くと、両手で自分の頬をさすった。

「……わかりませんけど……祖父に、治療の術があるかも知れませんし……」

 ルイは複雑な表情でオーギュストを見上げる。

「このままじゃ君との結婚はなかったことになるね、ルイーズ。アルベール卿の跡を継げなければ意味がない」

「……わ、私は構いません……け、ど……」

 言いかけてルイは口をつぐんだ。

「ああ、そうなんだってね。アルベール卿からうかがったよ。僕との結婚が嫌で家出したって。そんなに嫌だったらちゃんと話してくれれば良かったのに」

 オーギュストの言葉にルイとディルは目をむいた。

「……あの……その……なんて言ったらいいか……」

「いや、僕は構わないんだよ。でもアルベール卿がお困りだろう。こういっては申し訳ないんだけど、ルイーズ。君の父上はまともに議員としての務めを、とても果たしているとは言い難い方だし……」

「……ああ、いえ……その通りです」

 ルイは両手でディルの袖をつかんだ。

「余計な心配をかけてしまったようだし、僕が君を捜すのが一番早いと思ってアルベール卿にお願いしたんだけど……。アンリのこともあったし……」

 オーギュストはお人好しな笑顔をディルに向けた。

「君の父上の……その、クローディル殿のことだけど、色々調べが進んでいたんだよ。詳細はアルベール卿にお聞きするといい。だがいまだ投獄されておられるのでね」

 ディルは殆ど飛び出るほどに目を見開いた。

「あ、あんた……本当に……あの、つ……」

 言いかけて口をつぐみ、またオーギュストを見る。

「いや……確かに……昔から変態だったけど、人に好かれるのは真実……あんたはいい人だったからだけど……しかし……まるで……いや、あっちの方が本心?」

 ディルは困惑した。

「アンリが何を言っているのかわからないんだが、とにかく、クローディル殿の無実が証明できるかも知れないんだ。その知らせを、何日か前に受けたんだけど……今は呪文が思い出せないのでアルベール卿と連絡がとれなくてね。ドニに手紙を持たせないとならないかな」

 オーギュストは腰に手を当てて片足を前に出した。

「とにかく、二人とも無事で良かった。これで少しはアルベール卿に顔向けができるかな」

 オーギュストはにっこり笑う。

 だが、相変わらず洋服はぴかぴかと輝くビーズの刺繍。

 内装の壁紙に完全にとけ込んでいる。

「あの、オーギュスト。俺、あんたに非道いことされたんだけど、本当に覚えてない?」

 ディルは一歩前に出てオーギュストに近づいた。

 オーギュストは心外そうな表情でディルを見る。

「真実誓って覚えてないんだよな?」

「すまないが……非道いことをしたのなら謝ろう。だが本当に覚えてないんだ」

 ディルはその場にうずくまった。

 袖を掴んでいたルイの手が離れる。

「……あー!!」

「ディル、どうかしたの? 大丈夫?」

 ルイがしゃがみ込んでディルの肩に触れる。

「俺、寮の事件が頭にこびりついてて……オーギュストはずっと……服装だけじゃなくて頭もおかしいんだと……」

「おや、僕の服はそんなに変かな? 議員の方々には評判が良いんだが」

「そりゃお年寄りばかりだもの」

 ルイがつぶやく。

「あんた、その……」

 言いかけてディルは立ち上がり、つかつかとオーギュストに近寄った。

 そのまま部屋の隅に押しやって小声で言う。

「寮で俺を口説いたのは覚えてるだろうな?」

「ああ、勿論。あの頃はそういう遊びが流行っていたからね」

 オーギュストは微笑んで頷いた。

「あ、遊び?」

「そりゃそうだろう。恋愛というのは遊びの要素もないと楽しくない」

 オーギュストは素っ気なく言い放った。

「じゃ、じゃあ……結婚と恋愛はあんたの場合別なのか?」

「アンリ。おかしなことを訊くねえ。それは当然じゃないの?」

 ディルの顎が落ちる。

「……あれは本心だったんだな……」

 つぶやいてからディルはルイの居る方へ振り向いた。

 つまり、だ。

 オーギュストの本心は『忘却の森』の呪いの所為で、普段隠れていた心の奥から表層へと、全開になっていた。

 実際は人のいい、本当に好かれる奴なんだけど、心の中ではあんなことを思っている。

 その所為で呪われたとでも言えるのかも知れない。

 『忘却の森』に魅入られたんだ。

 それがいつ頃の話なのかわからないけど、学校から博物館に見学に行ったとき、だったとしたら――

 そして心の中にある、小さかった黒いオーギュストが思いっきり触発されたんだとしたら――

 俺を拷問したり、ルイはただの出世の道具だと言い切ったり――

「あっちが本心……」

 ディルはうつむいてルイに近寄った。

「洋服の趣味の悪さと同じくらい腹黒い……」

 ディルは床に敷き詰められた絨毯にもその趣味の悪さを感じる。

「あー、もう、ますますわけがわからない! しかもオーギュスト! あんたに対する不信感が爆発的に増した!」

 ディルはルイの隣で振り向いてオーギュストを指さした。

「すまないね、アンリ。大人の事情なんだ」

 オーギュストは悪びれもせず微笑んだ。

 ルイはディルの袖を何度か引っ張った。

「ディル……色々あったろうから世間に不信感を持ってるのは仕方ないけど……ここはオーギュストと仲良くしておいた方が良くない? あんたの父上のことも気がかりだし、ちゃんと調べが進めばまたみんな一緒に暮らせるよ?」

 ルイは上目遣いにディルを見る。

 例のディルが最も弱い、あの表情を作って。

「……ああ、正に大人の事情……わかってるよ、そんなの」

 ディルはうなずくしかなかった。

「誤解を生じさせたのならすまない。僕はとにかく二人を捜すことを最優先にしてたから。……アルベール卿は君の父上の事件を調べておられたし、ね」

 オーギュストは扉を開け、隣の部屋に待機しているはずのドニを呼ぼうとした。

 しかしそこにはキリムがいるだけで、ドニの姿は見あたらない。

「おや、ドニはいないのか」

 キリムと目が合うとオーギュストは微笑んだ。

「どなた?」

「彼女の用心棒です」

 キリムは無表情で答える。

「それは心強いね。僕からもよろしくお願いするよ」

 オーギュストが軽く頭を下げる。

 ルイとディルがその後ろから部屋を出てきた。

「オーギュスト、とりあえず俺たちは帰る。また明日話をしよう」

 ディルの言葉にオーギュストはうなずいた。

「それじゃあ明日のお昼を一緒に食べないかい? ここに用意させるから」

 オーギュストはルイに向かって微笑んだ。

「君の好きなものを用意しておくよ」

「……ど、どうも」

 ルイは引きつった笑顔を返す。

 三人はオーギュストの部屋から出て行った。

 階段まで来ると、下からドニとブノアがやってきた。

「先ほどは失礼いたしました。お帰りにはこれを」

 そういってブノアがランプを一つ差し出す。

「あー、結構。すぐに帰れますので」

 キリムはルイとディルに向かって両手を出した。

「後ろ向いててください」

 ブノアは言われて不思議そうな顔をしたが、ドニが素直に三人に背を向けたので彼もそれにならった。

 しばらくそうして立っていたが、少しも人の気配がしないので、気になったブノアがそっと振り返る。

 無人の玄関ホールが妙に寂しく寒々しく、そして恐怖感を誘う。

 ブノアは身震いしてから遅れてふりむいたドニを見た。


   ***


「ああ、疲れた。ヴィーも寝てるし、俺ももう寝るわ」

 キリムはディルの店の台所に着いたとたん大あくびをした。

「あの、キリム」

 ルイが階段を上りかけたキリムに声をかける。

「ん~?」

「ヴィーがね、たまにはお風呂に入れって」

 キリムはぽりぽりと頭をかく。

「明日、な」

 それだけ言うと二階へ上がって行った。

 ディルは足を投げ出し長いすに座っていた。

 ルイは心配そうな表情でディルに近づいた。

「……ねえ、ディル。オーギュストの呪いも消えたし、いい知らせも聞いたじゃない。一度、トラムに帰ろうか?」

 ディルは両手で前髪をかき上げた。

「明日オーギュストにちゃんと話を聞こう。それからトラムへ行って……それで祖父に……」

 ディルは大きく息を吐き出して長いすの肘掛けにもたれる。

「ふー。……どうだろうな……もう……信じられるものがどんどんなくなっていく気がする」

「そんなことないよ。祖父はあんたの父上のことを信用してたんだよ。でなきゃ事件を調べてくれるはずないもん。それにオーギュストだって、私が彼と結婚するのが嫌ならやめるって言ってくれたし」

「何言ってるんだ。あんた、結婚しなきゃアルベール家が潰れちまうじゃねえか。どう考えたって、例え魔法が使えなくたって、オーギュストは議員になるだろうし、あんたの相手としちゃ一番叶った相手だろ」

 ルイは食卓用の椅子を引っ張り出して長いすの前に置き、そこへすとんと腰掛けた。

「……そんなことは……ないよ……」

「あんた一人っ子だから家を継がなきゃならないって、ずっと言ってるだろ。自分は議員の器じゃないから、自分の旦那がならなくちゃ祖父さんの跡を継ぐ人はいないって」

「……ち、父が……いるし……」

 ルイはうつむき両手を握りしめた。

「も……もしかしたら私の弟とか……」

「現実的なことを考えろよ。あんたの父上は仕事もしないで、愛人の家に入り浸りなんだろ? その愛人に子供が生まれりゃあ、そりゃおおごとだけど……あんたの母上があんたの弟を産むとは到底思えないんだがな。それとも、何か他に弟を作る方法があるのか?」

「……養子、とか……」

「もっとありえねえ」

 ディルはずるりと体を滑らせ肘掛けに頭をのせた。

「……俺との結婚なんてのも、当然想定外だろ……」

 ディルは口の中で呟いた。

「何? 今なんて言ったの?」

「別に……」

 ディルは長いすの背もたれの方へ顔を向けた。

「……ねえ、ディル……オーギュストに、何をされたのか知らないけど、彼を信用してもいいと思うよ」

 ルイの言葉にディルの肩が震える。

「本当に私たちを捜してたと思うし……あんたに拷問したのも呪いの所為だよ」

「洋服の趣味もか?」

「……そ、それは……昔からじゃない」

 ディルは長いすの上に飛び起きた。

「そう、昔から変態だったんだよ。洋服の趣味だけじゃなくてな」

「……な、なんで、そんなことばっかり言うの?」

 ルイは少しムキになって言った。

「いい人じゃない。学生の時はいつも周りにたくさん人がいたし、総代だったんだよ? そりゃ確かに、服装は……ちょっと変だけど、身だしなみはいつもきちんとしてるし」

「ルイ、なんでオーギュストの肩を持つ? やっぱりあいつが婚約者だからか?」

「だから、私は彼と結婚する気はないって……」

「それは現実として無理だろ? 俺と結婚できないのと同じことだ」

「……ど、どうしていきなりそうなるの?」

「だってそうだろ? たとえ父上の無実が晴らされたってあんたと俺とは結婚できねえ。俺は長男で、父上の跡継ぎだ。もしクローディルの家が再興するんなら、俺が男爵を継ぐんだ。あんたは婿養子をもらわなくちゃならない。そしてアルベールの家を継ぐ。俺と結婚するなら、俺の家に嫁に来るしかないんだぞ?」

 ディルは長いすから立ち上がる。

「わかってるのか? あいつは変態で、結婚と恋愛は別物なんだ。家ではいい夫の顔をしてたってな、あんた以外の恋人を、あんたの父上みたいによそに作るって宣言したんだぞ。当然だってな。その上……そ、その上……」

 ディルはルイを見下ろして言いよどむ。

「……な、なに……?」

 ディルはしばらくためらったあと思い切って口に出した。

「お、俺を……愛人にしたいと……」

「……は……?」

「だからな……ル……ルイ……あんたが、俺を好きなら、オーギュストは俺のことも一緒に愛すると……だから俺を愛人にするって言ったんだ」

 ルイはぽかりと口を開いた。

「……こんなこた言いたくねえんだが、あいつはな、ルイ。寮にいたとき個室を持ってたんだ。それをいいことに、俺があんたと仲が良いから、あんたを愛するついでに、あんたが好きな俺のことも愛すると……なんだかよくわかんねえ理屈で俺を口説きやがったんだよ」

「……だ……だって……その……」

「……まあ学生のうちの、しかも寮でのできごとだし、あんなに男しかいないような学校じゃ、多少おかしな奴がいたって別にいいんだがな、オーギュストはいまだにそれをする気でいるんだ。そんな気持ちをあの剣に操られた。俺を誘拐して拷問して……そのあとどうするつもりだったのかなんて考えたくもねえが、それを俺にぺらぺらと……あいつは腹の中で思ってることを喋ったんだよ」

 ルイはどう返事をすればいいのかわからなくなった。

「それでさっき……つまりオーギュストは呪われてたわけだから、もしかして剣の所為で思ってもないことを言ったんじゃないかって……そう思って確かめたんだが……やっぱり結婚と恋愛は別だって宣言しやがった。……大人の事情だってな」

 ルイは黙るしかなかった。

 もし祖父の言うことをきいてオーギュストと結婚していたら、自分は母と同じ立場になるのか――

「……は、母上……みたいに……私が……なる……?」

 ルイはぼんやりと口に出した。

「だからってな、ルイ。俺とは結婚できないだろ? あんたはいくら嫌ってても、祖父さんには逆らえないもんな。母上も、父上も、見捨てられないんだろ? ずっと昔から言ってたもんな」

 いくらバラバラでも家族は家族。

 ――私はそんな家族でも守りたい――

 ルイの本心はディルだけに告げたものだった。

 ディルは見下ろしていたルイの足許にひざまづいた。

 ルイの両手を握り彼女の顔を見上げる。

「なあ、あんた、俺のこと、好きか?」

「……い、いきなり……なに……?」

 ルイの思いめぐらしていた憂鬱な結婚生活は、一瞬でどこかへ飛び去った。

「俺が……キスしたあと……あんた、泣いただろ? そのあと、二度も目の前からいなくなって心配したって、あんた、言ったよな」

「と、当然じゃない。友達なんだし……」

「それ、本当に友達だからか? 少しでも俺のこと、友達以上に好きだって気持ちがあるからじゃないのか? そうでなきゃわざわざ……いくら嫌いな奴と結婚させられそうだからって、あんたが大事な家族をほっぽり出して俺を追っかけてくるわけないよな? なあ、ルイ」

 ルイはまっすぐなディルの青い瞳にみつめられ戸惑った。

「ルイ、俺のことが好きだって、言ってくれ」

 ルイの視線は床へ逃げる。

「俺はずっとあんたのことが好きだ。あんたと結婚できたらいいと思ってる。現実的じゃなくてもな、夢ぐらいは見させてくれてもいいだろ? 今はあんたと暮らしてるし……」

「……ちょ、ちょっと待って……ねえ、ディル……」

「変なおまけもついてるけどな、一つ屋根の下に暮らしてるんだ。嫌いな相手とじゃこんなこと、できないだろ?」

 ディルはルイの手を握ったまま体を伸ばし、キスをした。

 ルイは驚いて体を反らす。

「……!」

「な、そうだろ? 俺のこと、好きだよな?」

「……ディル……。色々あって、気が動転してるんだよ……あんた……」

 ルイは困惑した表情でディルを見た。

「確かにそうかもしれない。けど、これはいい機会だ。あんたが俺のことどう思ってるのか聞きたい。俺のことが好きじゃなきゃ、家出をしてまで追いかけては来ないだろ? 今日だって、さらわれたんなら、相手がどんな奴だかわからないだろうに……危険を承知で探しに来てくれたんだよな? ルイ」

「ディル……友達なら、きっと誰でもそうするよ……。それに、オーギュストの軌跡が残ってたし、追跡したらそんなに遠いところじゃなかったし……」

 ルイはしばらくためらってから言葉を続ける。

「……キリムも、いたし……ヴィーだって……」

 ディルの顔が曇る。

「あいつの、剣の腕が確かなのはよくわかった。頼りになるだろうな。俺なんかよりあいつの方がいいのか?」

「あんたとキリムじゃ比べられないよ。あんたとの付き合いの方が長いじゃない。キリムは……」

 ルイは突然閃いたように思い出した。

「そうだ……祖父から守ってくれるって約束で……。……オーギュストとは結婚しなくてもいいならうちに帰れるし、もうキリムに守ってもらう必要はないよ。……そうだ、そうだね」

 ルイはひとりで納得する。

「オーギュストと結婚しなきゃならないなら、祖父さんの思い通りになりたくないのなら、俺よりキリムを選ぶのか?」

 ディルの表情は冷たくなった。

「ディル! ……なんで、そうなるの? ねえ、ディル……あんたもう寝た方がいいよ。今日は疲れてるんだよ。今までそんなこと言わなかったじゃない。……ね、ミルクを入れたお茶を飲んで……」

「今まで散々我慢して……黙ってただけなんだ! 俺は、俺はあんたと結婚したいんだ!」

 ディルはまた立ち上がった。

「ルイ、俺はあんたと結婚して、あのクローディルの家に住みたいんだ。ブドウ畑の管理人だっていい。あそこのワインは上物だって、トラムじゃ人気なんだ。暮らしていくには困りゃしない。それに、俺があんたを幸せにする。俺たちの子供と、俺の家族、みんなであそこで暮らすんだ」

 ディルは熱に浮かされたような表情で言った。

 ルイは心配そうにディルを見上げ、静かに椅子から立ち上がった。

「ディル……ごめんね」

 ルイはそう言うと精神に深く入り込む治療のひとつである呪文を唱えた。

 ふいにディルの瞳が大きく開き、何かを飲み込むように喉を鳴らしてから目を閉じる。

 そしてくたくたとその場に座り込んだ。

 最後にかくりと肩が落ち、ディルは完全に眠り込む。

 ルイはディルの腕を持ち上げ長いすの方へ少しずつ引きずり始めた。

「手伝おうか?」

 キリムがいつの間にか階段の下に立っていた。

「お願い」

 ルイは涙をためてキリムを振り返る。

 キリムがディルの体を抱き上げ、長いすに横たえる。

 ルイはディルの靴を脱がせ、両足を持ち上げるとそっと長いすの上に降ろした。

 上着のボタンも外し、少し前を開く。

「頭を冷やした方がいいかな?」

 ルイはディルの額に手を当てた。

「ディルを許してやれよ。色々あって混乱してるだけだ」

 キリムがルイの肩を叩く。

「……うん……さらわれたり、拷問されたりしたんだもん。しょうがないよね」

 ルイは目元を拭った。

「でも、あれは本心だと思うぜ、俺は。長年おまえを好きだったわけだし」

「……どこから聞いてたの……?」

「心配すんな。聞き漏らしたとこなんかねえ」

「あきれた」

 ルイは少しだけ笑った。

「ベルトもゆるめてやれよ。楽になるだろ」

 ルイは長いすの端に腰掛けていたが、キリムに言われてディルを振り返る。

「……」

「どうした?」

「あ……あんたがやってよ」

 そういってルイは立ち上がり、ストーブの前に行く。

 ふたを開けて薪を確認し、そこにふたつ、追加した。

 それからやかんに水を入れるとストーブにかける。

 続いて茶器の用意をし、茶葉を探した。

「なんだ? 茶を入れるのか? ヴィーに頼んでやるから待ってろよ。ミルクもな」

 キリムは長いすからテーブルに行き、椅子を出してそこに座った。

 ぽんぽんと腰にある『夜明けの星』を叩く。

 すぐにミルクの入った暖かい茶が、ふたり分用意された。

「ほれ」

 キリムはさっさと自分の茶を啜り始める。

 ルイはため息をついて椅子を出した。

「ありがとう……」

「ヴィーはおまえのためならなんでもする気だ。さっきのディルじゃねえが、まさにおまえを幸せにしてやるから結婚してくれ、って言ってるようなもんだな」

 キリムは唇をゆがめて笑った。

「……ど、どうして……そう……みんな勝手に私のことを……」

「おまえが魅力的だからだ」

 キリムは茶碗を置いてルイを見る。

「おまえは自分のことをどう思っているのか知らないがな、嫌ってるその髪も、俺たちにとっちゃ魅力的なんだよ。おまけにディルには甘えたような顔して……」

「あ、甘えてなんか……」

「そういう自覚がねえから困るんだ。女の本能なんだろうな。そういうの、嗅ぎ取っちまうわけ。男ってのは」

 キリムは茶碗を取り上げるとひとくち茶を啜る。

「……そっちの勝手な思いこみじゃない。私は別に、甘えてもいなけりゃ……その……」

「なんだ? 誘ってもいないっていうのか? あんな顔しといて?」

「どんな顔?」

「おまえ、ディルを見てるときの表情、俺を見てるときとは全然違うぞ。本当に自覚がないんだな。そりゃディルも困るだろうさ。あそこでキスしたのはおまえが悪い」

「な……!」

 ルイは茶碗を置いて立ち上がった。

「わ、私の、どこが悪いの? 友達を心配して、どこが、さ……誘って……誘ってるって……」

「いいか、ルイ。おまえは世間知らずのお嬢様なんだ。男がどうしたら自分のために動いてくれるのか、全然わかってない。だが、本能的にそれができる。だから質が悪い。勉強ばっかりしてたくせに、ちゃんと男を動かす方法を知ってる。その上、恋愛に無関心で無自覚。かと思えば身だしなみに気を遣う美人とくれば、おまえのために動かない男はいないだろうよ。ディルも厄介なのに惚れたもんだ。敵が増えるばかりだな」

 ルイは握り拳をテーブルにたたき付けた。

「勝手に決めないでよ! 誰がそんなこと! ディ、ディルを……私の好きに動かそうなんて思うわけないじゃない」

「思ってなくても自然にそうしてるだろ。自分が結婚したくないからって、重大な事件で仕方なく土地を追われた男を追いかけて、そこで自分を守ってもらって、甘えて暮らそうと思ってたんじゃないのか? でなきゃわざわざ苦労してる友達を追いかけてまで迷惑なんかかけるか?」

「思ってない! 断言する! そんなこと考えてディルを追ってきたんじゃない! 家族がバラバラになって大変だろうって、私はここに来る前に色々調べてた。そこに祖父からの結婚話があって……ちょうど探しに出かけようと思ってたところだったんだ!」

 ルイはキリムに近寄ると思い切り鼻の頭を叩こうと手を挙げた。

 振り下ろしたその手は簡単にキリムにつかまれる。

「!!」

「ば~か。今まではわざと叩かせてやったの。じゃないといらいらするだろ?」

 ルイはつかまれた腕を引っ張った。

「は、な、し、て、よっ!」

「やだね」

 キリムはぐいっとルイの腕を引いた。

「少し怖い目に遭わせてやらないと、このお嬢さんには男の気持ちがわからないままだな」

 ルイの腰を抱き寄せ、キリムは首をかしげた。

「……こ、怖い目……って、なに……?」

 ルイは眉を寄せてキリムを見上げる。

「それそれ。それがそそるんだって。おまえ、ほんと自覚ないのな」

「放してよ! もう、わけわかんない。放して!」

 キリムはルイに思い切り顔を近づけた。

「……なあ、ルイ。俺がなんで『夜明けの星』の主になったか、聞きたくないか?」

「えっ?」

 ルイが一瞬戸惑った隙に、キリムは軽く彼女の唇にキスをした。

「ふっふ~ん。簡単だな、ほんと」

「ふ、ふざけるなっ!」

 ルイはキリムの腕をふりほどこうと暴れ始めた。

「まあ、待てよ。ちゃんと話すから」

「じゃあ腕を放してよ。話だけならこんなに近づかなくてもいいだろっ!」

「女とふたりだけで話すときは抱き合ってするもんだ」

「ひ、つ、よ、う、な、いっ!」

「じゃあ話さない。かわりに怖い目をみてもらう」

 ルイは真剣なキリムの表情に恐怖を覚え、体を硬くした。

「ははははは。ああ、楽しい」

 キリムがけらけらと笑うので、ルイは本当に腹が立った。

 キリムはルイの腰から一気に背中へと手を動かし、それに合わせて椅子から立ち上がった。

 そのままルイをテーブルに押しつける。

 がちゃりと音がして茶碗と皿がはねた。

「ディル以外の奴はおまえの思うとおりになんかいかないって、思い知らせてやる」

 ニヤリと笑うとキリムはルイの耳たぶに口づけた。

 ルイはキリムの腕を叩く。

「はなせ! 馬鹿!」

 キリムは耳から顎、首筋へと舌をはわせる。

 ルイの背筋に鳥肌が立った。

「いやだってば!」

「ディルが正体なくして眠りこけてるんだ。せっかくの機会を逃すなんて勿体ない」

 ルイは拳でキリムの腕を叩いた。

「温和しくしてろよ。痛い思いはしたくないだろ?」

「もうしてる! はなして!」

「俺のものになっちまえば誰も関係ない。誓えよ。そうすれば世界も手に入れられる」

「何言ってるの? 世界なんていらない! はなしてよ!」

「『夜明けの星』とおまえの魔力でなんでもできるんだぞ。祖父さんの決めた婚約者とか、幼なじみの求婚者とか、そんなもんただのゴミだ。おまえの一言で存在さえも消えてなくなる」

 ルイは驚いてキリムを叩くのをやめた。

 キリムはルイの顔をのぞき込むように首を傾ける。

「……どういう……こと……?」

「これの本当の力と、俺の存在理由を知ったら、おまえの思い通りにならないことなんてなくなるってことだ。鬱陶しいんだろ? 祖父さんも、婚約者も、幼なじみも」

「……な、なに言って……」

「ヴィーが認めた力を持ってるんだもんな、おまえ。間違いなく俺のものになると誓えば、色々教えてやる。世界がおまえのものになる方法を」

「ふざけないで! そ、そんなことと交換条件なんて……馬鹿じゃない?」

「おまえは自分の価値をしらないな……」

 キリムはルイの髪を掴んで上を向かせた。

 開いたルイの口に噛みつくように口づける。

 ルイは苦しさから逃れるためにキリムの体を思い切り押したが、彼の腕はびくともしなかった。

 だが、唐突に息苦しいキスと力強い腕から解放される。

 ルイは大きく息を吸い込んだ。

「……く、くそっ。……ヴィー!!」

 キリムは床に両手と両膝をついて動けなくなっていた。

 ルイは横にそれ、テーブルの角に手をついて立つ。

 見下ろしたキリムは辛そうな表情でルイを見上げた。

 ルイは胸を押さえて荒い呼吸を落ち着かせようとしたが、キリムの額に脂汗が浮いているのを見て心配になった。

「……ど、どうしたの? ……キリム……」

 キリムは立ち上がれないらしく、すぐに俯いて四肢に力を入れる。

「……ヴィーの野郎……お、重っ……」

 キリムの両手両足がブルブルと震えた。

「……ぐぅう……重いっ!! くそっ! わかった! ヴィー!! 俺が悪かった!!」

 キリムは叫んだ。

「なに? ねえ、キリム? 『夜明けの星』が重いの?」

 ルイはキリムの左側に回り込み腰に差してある『夜明けの星』を見た。

 大きさは普段と変わりなく、ナイフのまま。

 しかしキリムはまだ四肢を踏ん張ったまま脂汗を浮かべている。

「……はあ、畜生……」

 ルイは申し訳なさそうに眉をひそめた。

「……ヴィー、聞いてるよね? 丁度いいから暫くそうしてて」

 キリムの左肩ががくりと床に落ちた。

 ルイは急いで2階へ駆け上がるとディルの部屋に飛び込む。

 ベッドから枕と毛布をとりあげ、また走って台所へ降りた。

 キリムはまだ震えながら『夜明けの星』の重さに耐えている。

 ルイはそれを横目で見ながらディルの頭を抱え上げるとその下に枕を入れた。

 静かにディルの頭を降ろし、体には毛布をかける。

 そしてディルの額に手のひらを当て、口の中で回復の呪文を唱えた。

 ディルの呼吸が穏やかなのを確認すると、震えているキリムに近づく。

「ねえ、キリム」

「……な、なんだ?」

「それ、すごく、重い?」

「……ああ……腰が砕けそう、だ……」

「ふうん」

 ルイはしゃがみ込んで両手で顎を支えた。

「……お、俺が悪かったって言ってるのに……ヴィーの野郎、ちっとも……戻らねえ」

「そうみたいだね。私の方が優先なのかな?」

「……畜生……」

 キリムは震えながら床に落ちた体の左側を持ち上げようとした。

 だが、今度はまるでつぶれたカエルの様にべたりと床に落ちる。

「くそっ!! 動けねえ!! ヴィー! いい加減にしろ! 誰がおまえの主だ!」

 ルイはキリムが座っていた椅子に腰掛けた。

「私に無理強いしないって誓って。そうしたらヴィーに頼んであげてもいい」

 キリムはむりやり首をルイへ向けた。

「うるせえ。俺が主なんだ」

「でも今は私の方が優先なんだよ? 私に約束した方がよくない? そのままディルが回復するまでそうしててくれても、私は一向に構わないんだけど?」

 ルイは自分が飲んでいた茶を手元に引き寄せた。

「……ディルは……いつ回復するよ?」

「さあ……?」

「さあ、って……おまえが治療してるんだろうがっ」

「心の問題は本人次第だからね。体に負担がかからないようにしただけだもん」

「てめ……この……」

 キリムは手足をふるわせて立ち上がろうと努力する。

「覚えてろよ……。絶対俺のものにしてやる……」

「勝手にすれば。ヴィー、お茶が冷めちゃったから、おかわり頂戴」

 テーブルに、ぽん、と音がして温かい茶が入ったポットが飛び出た。

「ありがとう」

 ルイはキリムを無視して自分の茶碗に茶を注いだ。

「……くそぅ……くそぅ……」

 キリムはルイの知らない言葉でぶつぶつと文句を言い始めた。


   ***


 夜中に何度か、ルイはディルの寝汗を拭った。

 床に倒れ込んだまま眠ってしまったキリムの顔もついでにのぞき込む。

 だらしなく口を開いて眠っているキリム。

「……順応性は高いみたい……」

 ルイは笑って立ち上がった。

 ――でも強情だね。

 『夜明けの星』の主って、みんなこうなのかな?

 それに、キリムの言ってたこと――気になることばかり――

 なんでキリムは『夜明けの星』の主になったのか――

 なんでヴィーと私とキリムで世界が手にはいるのか――

「お陰で眠れないけど……ミルクの入ったお茶も効かない」

 ルイは椅子に座ってため息をついた。


   ***


 ルイが少しうとうとし始めた頃、裏口の扉が静かに叩かれた。

 ルイは立ち上がって扉の中から外の様子を伺った。

 少し間があってから、また扉が叩かれる。

 ルイは仕方なく扉を細く開いた。

 するとそこにはマリーベルが立っていた。

「……あの……」

 マリーベルは不安げにルイを見上げる。

「ルイは?」

 言われてからルイは、自分が昼間マリーベルに会ったときとは全く違う姿をしていることを思い出す。

「あ……えーと、とにかく、中に」

 ルイがマリーベルを中に入れると、彼女は長いすに寝ているディルを見つけ、駆け寄った。

「良かった、見つかったのね」

「心配かけてごめんね、マリーベル」

 マリーベルは驚いてルイを振り向いた。

「……その声……ルイ?」

「うん」

「なんで……? 昼間会ったときと髪の色が違うし……その……どう見ても女の子なんだけど……」

「……言いにくいんだけど、事情があって……こっちがほんと……」

「……まあ……」

 マリーベルはルイに近寄った。

「ここに来た女の子達はあんたのこと男だったって言ってたわよ?」

 ルイは客の女達に体中を触られたことを思い出した。

「……ええと……その……ね……。魔法で……ちょっと……」

「あんたも魔法使いだったの? それならわからないでもないけど……。あたし達、魔法使いなんて都会の一部にしかいないものだと思ってたから。それに免許がいるんでしょ?」

「本来の仕事をするのなら、ね。薬草なんかの勉強もするから、化粧品なら作って売っても別に免許はいらないし」

「ああ、そうなの。へえ……」

 マリーベルはルイの全身を見回した。

「それにしちゃたいしたものね。こんなに美人だったなんて、驚きだわ。でも男のあんたの方が良かったって思ってる子もいるでしょうね。どうやって常連客にしようかって、みんなで相談してたもの」

 ルイは苦笑いする。

「あ、あの……まあ、そういうわけで、ディルは見つかったし……」

「そうね、ほんと、良かったわ。で、あんたとディルってどういう関係なの?」

「は?」

「ディルは友達だって言ってたけど、それは男ならそうなんでしょうね。でも、あんた、女の子だわ。正真正銘の。……じゃあディルのなんなの?」

「……と、友達……だけど」

「あら、そんなの変よ」

 マリーベルはルイに詰め寄った。

「ディルはここらじゃかなりモテるのよ? あんたみたいな女が一緒に暮らしてるなんて知れたら、この店の客は今よりぐんと減るでしょうね」

「そ、それは困る……ね」

 マリーベルはにやりと笑ってルイに抱きついた。

「ふふふ。その困った顔、女の子でも可愛いわ。ねえ、男になったらあたしのお客にならない?」

「えっ?!」

「時々でいいわよ。ディルに飽きたら、男になってあたしのとこに来て。色々教えてあげたいわ」

 ルイはごくりと唾を飲み込んだ。

「それに、店に出るときは必ず男でいないと大変よ。黙っててあげるから、あたしのお客になりなさいよ。ね?」

「……ね……っ……て……」

「大丈夫よ。本当に、黙っててあげるから」

 マリーベルは伸びをしてルイに口づけた。

 ルイは驚きの表情で固まった。

「うふふふふ。ほんとに可愛いわね。じゃ、あたし帰るから。ディルが大丈夫ならそれでいいの。じゃあね」

 マリーベルはさっさと踵を返すと裏口の扉を開けた。

「じゃあね。いつでも来てね」

 ぱたりと扉が閉まると、低い笑い声が聞こえてくる。

「キリム?!」

「くくくくく」

「起きてたの? 何笑ってるの?」

「おまえ、もてもてだな……」

 キリムは床に張り付いたまま体を震わせて笑った。

 ルイはそこへずかずかと足音を立てて近寄った。

「これ以上笑うなら踏んづけるからね!」

「ぐ……くくく……。わかった。もう笑わないし、おまえをむりやり食っちまおうなんてしないから、とにかくヴィーに元に戻るように言ってくれ」

 ルイはキリムの尻を一度踏んづけてからヴィーに軽くなるように言った。

 夜が明け、ストーブの前の椅子でうたた寝をしていたルイは差し込んできた朝日に気づいた。

 ディルの様子を見ようと立ち上がると、彼はぼんやりとした眼差しを天井へ向けていた。

「ディル?」

 ルイが声をかけると、ディルはゆっくりとルイへ振り向いた。

「起きた? ミルクの入ったお茶、飲む?」

 ルイは茶碗を持ってディルに近寄った。

「……ん……」

 ディルが頷いて上体を起こす。

「無理そうなら、まだ寝てていいよ。オーギュストには具合が悪いからって、私が言っておくし」

「……オーギュスト……」

 ディルは茶碗を受け取ると温かな湯気を顔に受けた。

「ルイ。これ、うちにある茶葉じゃないな」

「うん。ヴィーが出してくれた。たくさんあるから」

 ルイは長いすに座ったディルを見下ろした。

「……俺、昨夜はあんたに非道いこと言ったんじゃないか……?」

 ディルは辛そうにルイを見上げた。

「気にしないで。辛い目にあったのはあんただもの。そんな気になることもあるよ」

「……すまん……そういうつもりじゃなかった……」

「いいって」

 ルイは微笑んでディルの前に椅子を置いた。

 そこへ座ってディルが茶を飲むのを見ている。

 ディルはいつもと違う爽やかな香りを楽しんだ。

「いいなあ、これ。朝に向いてるんじゃないか……」

「そうだね。夜は夜で別の葉っぱを出してくれたんだけど、私が飲んじゃった」

「ずっと……起きて、俺のこと、看ててくれたのか?」

 ルイは肩をすくめる。

「別に……んー、ずっと起きてたわけじゃないけど……」

 キリムの顔を思い浮かべたが、すぐに消し去った。

「あ、そうそう。マリーベルが心配して見に来てくれたよ。でも今夜もお店は休んだ方がいいね」

「マリーベルが?」

「うん。あんたを追跡してるときに、たまたま道で会っちゃったんでね……その……問いつめられて、つい、あんたがさらわれたって言っちゃったんだ。みんな協力してくれたし……」

「探してくれた……?」

「ううん。近所に怪しいところがあるって、教えてくれた。追跡魔法もそこを示したんで、どっちにしろ近くだったし……すぐに見つかるだろうけど、って……思ったんだけどね」

 ルイは苦笑してから首をかしげる。

「みんなあんたのこと心配してたよ。……あんたって慕われてるね」

 ディルはそう言われて目を丸くした。

「彼女たちに好かれてるってのは、その……客としてって意味でだろ……」

「……まあそうだろうけど……」

 ルイはマリーベルから店に誘われたことを思い出す。

「とにかく、あんたはここに居場所があるんだよね。それは羨ましいな」

「俺が羨ましい? なに馬鹿なこと……。俺なんか、もしあんたがさらわれても、追跡魔法なんて使えないぞ。首席が聞いて呆れるだろ?」

「学校で習ったことなんて、薬草のこと以外でなんか、あんまり使わないじゃない。大抵自分でやって足りることばっかりだし」

「……まあなあ……あれは、本当の魔法使いにしか用はないだろうなあ」

「ディルは……」

 ルイは昨夜ディルが言った、彼の将来の夢を思い出した。

「ディルは、政治を勉強して、魔法使いの免許を取ったりとか……思わない?」

 ディルは不思議そうな顔でルイを見上げる。

「……もう、無理……だろ……。卒業しないで逃げ出したようなもんだし……」

「そこだけもう一度やり直せば? 祖父なら事情がわかってるわけだし、なんとでも頼めると思う」

「あんたの祖父さんに、か?」

「うん。……ディル、勿体ないよ。あんなに勉強、頑張ってたんだし」

 ディルは両手で茶碗を持ち、長いすに上げていた足を床に降ろす。

 足先だけ靴に突っ込んで床を見た。

「……父上の冤罪が晴れて、クローディルの土地に戻れるなら考えるよ。議員になるのは父上の願いだったから、俺がそれをするなら喜んでくれるだろうし……」

「……そうだね。そのへんもちゃんとオーギュストに話しておこうよ。やっぱり一度、トラムに帰るのがいいね」

 ルイの笑顔を見たディルは、一気に残りの茶を飲み干した。

「よし、とにかく昼までに何を話し合えばいいのか決めておこう」

 そう言い、ディルは茶碗をルイに手渡すと、下を向いてきちんと靴を履く。

 それから毛布をどけて立ち上がる――

 が――

 ――すとん、と足許にズボンが落ちる。

 ルイは思わずそれを凝視した。

「うわ!」

 ディルが慌ててベルトとズボンを持ち上げる。

「な、なんで……?!」

 ルイに背を向けるとディルは急いでボタンを留めベルトを締めた。

「わ……私じゃないよ!! キリムが……ベルトを緩めた方が楽だろうって……」

 ルイは顔を真っ赤にして茶碗を流しまで運んだ。

「キリム?」

「うん……あんたを……その……むりやり寝かせたから……動かすの、手伝ってもらって……」

 ディルはまた長いすに座り込んだ。

「あいつ……寝てたんじゃなかったのか?」

「……うん、まあ、その……あ、あんたが起きたって……キリム、起こしてくるね」

 ルイは走って階段を上った。

 キリムはベッドの上で腕組みをしていた。

 その横には少女のヴィーが座っている。

 扉を開けたルイに向かって二人が同時に視線を向けた。

「わ! びっくりした。なんだ、起きてたの?」

「眠れるかっての。甲斐甲斐しくディルの世話なんか、一晩中やきやがって」

「あんたに文句言われる筋合いないよ。友達なんだもん」

「ルイ~。ディルにお風呂に入ってもらってよ~。ディルもキリムも臭いよ~」

 ヴィーがベッドから飛び降りてルイに抱きついた。

「おはよう、ヴィー。昨夜はありがとね」

 ルイはヴィーの額に口づけた。

「ヴィーはまだ石鹸の匂いがするね」

「うん、いいでしょ? ルイもまた、一緒にお風呂に入ろうね」

「いいよ。あ、そうそう、ディルが起きたんだ。朝食の準備をするから、それまでにディルにお風呂に入ってもらおうと思って。ヴィー、お願いしてもいい?」

「え~? 俺がディルを洗ってやるの?」

「違うよ。お湯を入れて欲しいんだ」

「ああ、なんだ。いいよ。下、行こう」

 二人は手を繋いで台所へ降りていった。

「気に食わん!」

 キリムは口をひん曲げて腕組みを解かずに座ったままだった。


   ***


 風呂場からはディルの鼻歌が聞こえてきた。

「よかった。今日は元気そう」

 ルイはそういってヴィーが出した野菜を眺めていた。

「これ、どうしよう? 季節外れだよ?」

 ルイはカゴに入っていたトマトをとりあげる。

「どうして? 食べればいいじゃん」

 ヴィーは不思議そうな顔をする。

「だって、夏の野菜じゃない。冬には向いてないよ」

「じゃあさあ、卵出すから、一緒に焼いちゃえば?」

 ルイは首をかしげてヴィーを見る。

「美味しいの?」

「うん」

「……ふーん。……あ、卵なら確かあったような……」

 ルイはタマネギの入っている棚から卵を取り出した。

「あった。ディルはまだタマネギと一緒にしてるんだ」

 卵を4つ取り出すと、ルイはフライパンも棚から出してストーブにかける。

 薪を追加して火を強めると、細かく切ったベーコンを放り込んだ。

 脂がフライパンにまわったところで荒く切ったトマトを入れ、上から卵を割り入れる。

 じゅうじゅうと音がして香ばしい匂いが立ち上った。

 大きな木のさじで卵をかき混ぜ、ほどよく固まったところでルイはすぐに皿へ移した。

「こんな感じでいいかな?」

「いいんじゃない? 美味しそう」

 ヴィーは匂いを嗅いだ。

「ヴィー、味見して」

「え~。ダメだよ。俺、ものは食べられないから」

「……あ、そうか……」

 ルイとヴィーは長いすでふんぞり返っているキリムを振り返る。

「なんだ?」

「……あ、味見……」

 キリムはルイが差し出した皿へ向かってのしのしと歩いてきた。

 ヴィーが差し出すフォークをひったくるとトマトを一つ口に放り込む。

 もぐもぐと咀嚼しながらルイとヴィーを見下ろした。

「……どう?」

 不安げに訊ねるルイにキリムは無言で喉を鳴らした。

「美味い」

「そう! こんなの作ったの初めてだけど、美味しいならいいや」

 ルイはテーブルに皿を置き、パンを切り始めた。

 その後ろ姿を見ながらキリムはまた腕を組む。

「まるで新婚の嫁さんみたいだぞ、ルイ」

「えっ!? ……」

 パンを皿に盛って持ち上げたルイは振り返ってから動きを止めた。

「旦那は俺か? それともディルか?」

 キリムは目を閉じて顎をかきながら椅子に座る。

「キリム~。朝から妄想? 昨夜の欲求不満なの?」

 ヴィーは隣に椅子を出しながらキリムを見上げた。

「欲求不満……ふむ……まあその辺の解消は追々……」

 ルイはそれを聞き鳥肌を立てる。

「そんなのルイにしたら俺が許さないからね。マリーベルんとこにでも行けばいいじゃん。それなら邪魔しないよ」

「ば~か。金なんかねえぞ」

「働けば? 市場ででも」

 キリムは急に思いついたように指を鳴らした。

「そうか、あの変態貴族! あいつの用心棒にでもなろう。あの二人の部下じゃあ色々頼りないだろうし」

「キリムまで変態、なんて言わないでよ」

 ルイはテーブルに茶碗を並べながら言った。

「事実だろうが。おまえが妻で、ディルが愛人で、どこが変態じゃないっていうんだよ?」

「あの人は、そういう人なの。価値観が違うからって変態じゃないの」

「じゃあ俺は何処で稼げばいいんだよ。おまえからはお払い箱なんだろう? 何せ最大の敵が味方だってわかったんだし」

「……ああ、そうか……そうだねえ」

 ルイは初めて気づいたように頷いた。

「それならオーギュストの用心棒はいいと思うよ。私たちも一度トラムに帰ろうと思うから、そのときの、ってことでさ。まあオーギュストのことだから、馬車かなんか用意するんだろうけど」

「馬車?」

 キリムは眉をひそめた。

「そうだよ。ここから一番近い駅まで行くのに馬車に乗らなくちゃ。オーギュストが歩いていくなんて思えないし。……ああ、来たときどうしたんだろう?」

「駅……」

 キリムはますます眉を寄せる。

「どうかした?」

 ルイの問いにはヴィーが答えた。

「キリムはね、乗り物酔いするの。だから乗らないと思うよ」

 キリムはヴィーの後頭部を軽く叩いた。

 オーギュストには何を伝えればいいのか。

 風呂に入り身支度を調えたディルとキリムが長いすに座って話しあっていた。

 ルイは屋根裏の鏡の前で軽く髪をとかし、ヴィーが出してくれた新しい洋服を着てから振り向いた。

「どうかな?」

「綺麗だよ、ルイ」

 ヴィーはにこにこしてから両手をぱちんと合わせる。

 次に開いたとき、手のひらに小瓶が乗っていた。

「これ、髪につけてみて。先の方だけでいいから」

 ルイは渡された小瓶のふたを取り、中味を少しだけ手に取った。

 言われたとおり、髪の先にだけそれをつける。

 するとルイの髪はまっすぐになった。

「わー。これ、いい。匂いもいいし」

 ルイは喜んで鏡をのぞきこむ。

「効果はすぐに切れるけどね。ルイ、さらさらしたのがいいんだろ?」

「うん。ありがとう。どのくらいでとれるの?」

「見てる間に、って感じだけど。半日くらいかなあ」

「いいよ、それでも。オーギュストの魔法みたいにはできないから」

「俺はくるくるしてるのが好きだから、それ、教えたくないんだよね」

 ルイはヴィーがつまらなそうに唇を尖らせるのを見た。

「……そのうちに好きになれたらいいんだけど……」

 ルイは髪を一房持ち上げて、まっすぐになった髪を見る。

「さて、と。裏から市場を抜けるのは遠いし、マリーベルの店の前は通れないから、俺がみんなをあそこに連れてった方がいいかな。じゃ、下、行こうか」

 ヴィーは梯子を飛び降り、階段も転がるような速さで駆け下りた。

 キリムとディルは二人で階段下に立っていた。

 ルイが下りていくと、二人は同時に彼女を見上げる。

 さきほど髪につけた、ヴィーが出したあの小瓶の中味が、軽やかに彼らの鼻腔をくすぐった。

「……なんか、いい匂いがするな」

 ディルが鼻を動かした。

「オーギュストに話すことはまとまったの?」

 ルイがディルを見上げる。

「まあな。こいつがオーギュストの用心棒になれれば、俺たちは一緒にトラムに、一度行くことになるわけだが、問題は移動手段だな」

 ディルがキリムを指さす。

「別にいいじゃない。ルイが自分の家を思い描いてくれれば、俺が全員運んでやるよ」

 ヴィーは思いっきり首を曲げてディルを見上げながら、ルイの腰に抱きついた。

「おまえもいれて7人だぞ? そんなに大丈夫なのか?」

 ディルはルイに髪を撫でられているヴィーを見下ろした。

「平気、平気。キリムが10人でも軽いよ。乗り物酔いで機嫌の悪くなったキリムなんかよりずっとね。でもさあ、もしあの変態さんがキリムを雇わなかったら、どうすんの? ダメって言われても俺はルイにくっついていくけどさ」

「そうなりゃ俺も自動的にくっついていくわけだが」

 キリムが頭をかいた。

「どっちにしろみんなで一度トラムに戻ればいいよ。私は構わないよ。うちは広いからみんなで泊まればいいよ」

 ルイの声は弾んでいる。

「ルイ……あんたあの家に帰るってのに、妙に嬉しそうだな」

 ディルはするどくつっこんだ。

「まあね……みんな一緒に来るんだし……なんかヴィーがいてくれると安心する」

 ルイはヴィーの前髪を撫でつけた。

「ちっ。ヴィーの方がおまけだって、わかってんのか?おまえ。それの主は俺だぞ」

 キリムがヴィーの額をつつく。

「まあ、まあ。やきもち妬かないの。……さてと、みんな手を繋いでね」

 4人が手を繋いだ瞬間、階段下はディルの家からオーギュストが買い取った旅館へと変わる。

 がらんとした玄関ホール。

 昨夜使ったのか、カウンターに置いてあるランプがひとつ、昼の光にあてられて影を落としていた。

「こんにちはー!」

 ヴィーが大声を出した。

 すると2階の奥からブノアが現れた。

「これは皆様。お待ちしておりました。どうぞ」

 階段を上がり一番奥の部屋に通される。

 そこではすでにオーギュストが食卓について待っていた。

「ルイーズはこちらに」

 オーギュストは立ち上がると隣の椅子をひいてルイを手招きした。

 そこへブノアがそっと近づいた。

「申し訳ありません。わたくし、三人様だと思っておりまして、お子様の分を用意しておりません。すぐに支度致しますので……」

「お子様?」

 オーギュストは不思議そうにブノアを見る。

「子供なんて何処にもいないよ?」

 オーギュストに言われブノアは部屋を見回した。

 キリムがさりげなく左手を腰にあてる。

 そこには『夜明けの星』が収まっていた。

 ルイとディルは顔を見合わせて笑ったが、オーギュストはブノアを軽く睨んだ。

「おまえは昨夜から何かおかしいね。まあいい。僕が魔法を忘れるよりはましだろう。さて、料理を出しておくれ」

 オーギュストが合図をすると、ワゴンを押してドニが部屋に入ってきた。


   ***


「ふむ。するとそちらの……」

「キリムです」

「ああ、キリム。君は僕の用心棒にもなるの? 昨夜はルイーズの用心棒だって言わなかった?」

「ええ。ですが、その昨夜のうちにクビになりましたので」

「……なにか悪さをしたんだね」

 オーギュストはにっこりと微笑んでルイを見た。

 ルイは返事に困ってうつむく。

「ああみえてもドニは、剣の腕は確かなんだけどね。ブノアだって魔法学校は出ているし」

「下級ですが」

 ブノアは食後の茶を出しながらオーギュストに頭を下げた。

「二人で事足りるんだけど……そうだな……僕が魔法を忘れているうちは雇ってもいいか」

 オーギュストはワインに漬けたリンゴをひとかけフォークにさした。

「それで、トラムにはすぐ戻る? 明日早く馬車を用意させようと思うけど……。汽車の時間に間に合えば、その日のうちにはトラムに入れるかな」

「その件ですが、俺の魔法でみな、一瞬で行けますから、大丈夫ですよ」

 キリムは胸を張ってオーギュストに向かう。

「……ヴィーのおかげじゃない……」

 ルイが下を向いてぼそりと言った。

「……ほう……随分と高度な魔法が使えるものだね。これはアルベール卿にも報告が必要だ。ルイーズはキリムと何処で知り合ったの?」

「えっ!!」

 唐突に質問をふられてルイは茶碗と受け皿を大きく鳴らした。

「ど……どこ……って……。こ……この街の……」

「俺がもめごとをおさめている現場に通りかかって、助けてもらったんですよ」

 ルイは両方の眉を生え際につくほど上げてキリムを見た。

「相手が多かったもので、ルイーズの結界は助かりました。その隙に移動したんです」

「それは興味深いね」

 オーギュストはさほど興味を示さない様子でそんな言葉を吐く。

「そうとなれば荷物をまとめるだけでいいわけだ。夜までにはできるかな。しかしアルベール卿にはどうお伝えすればいいか……」

「あ、あの……」

 ルイが隣のオーギュストを見る。

「私が通信をします。暖炉の……火を使った通信なら祖父に届くと思いますから」

「ああ、それ。僕も定時に報告してたんだけど、昨日はしなかったから、卿は心配しておられるかも。すぐにでもしてくれると助かるな、ルイーズ」

「はい」

「食事が終わってからでいいよ。その前に事情をまとめて書いておこう。紙を送るのなら受け取り側がいつでも受け取れるしね」

 ルイはこくりと頷いた。

「さて、と。これで話はまとまった。……で……アンリはまだご機嫌斜めなの?」

 ディルは茶を飲みながらオーギュストを睨む。

「自分の主張を伝えてしまえばそれで終わり? 一度失った僕への信頼は戻らない?」

「あんたに対しては初めからそんな気持ちはない」

「厳しいね、アンリ。帰ってお父上の無実をはらせるいい機会なのに」

「昔っからあんたにされたことを考えればな、まともに信用してるなんて、口が裂けても言えないっての」

「心の狭い男だな」

 キリムが呟いた。

「うるせー。てめえは黙ってろ!」

「そうはいかん。こちらは現在の俺のご主人様だからな。敵になるのならディル、あんたでも容赦はしない」

「へっ。てめえなんか腰のモノがなきゃただの好き者じゃねえか。夜中に女のベッドに潜り込むのはお手のもんだろ。風呂だって覗こうとしやがったしな」

「キリムったら!! お風呂まで!!」

 ルイが驚いて立ち上がる。

「腰のモノってのは同じだけどなあ」

 キリムはげらげらと笑い声を上げた。

「食事時に下品だよ、キリム。僕に雇われるつもりなら少しは控えなさい」

 オーギュストがたしなめる。

「君たちの仲がよいのはわかった。僕が雇わなくてもキリムはルイーズとアンリについてくるつもりだったんだろう? 違う?」

「さすが。ご主人様には隠し事はできませんな」

 キリムはかしこまったふりをした。

「これは楽しいことになりそうだね」

 オーギュストは笑顔で3人を見回した。

 ルイが暖炉に落とした手紙には、すぐに返事が来た。

 ――スグモドレ――

 そっけなく書かれた文字は確かに祖父のもの。

 ルイは声に出して手紙を読んだ。

「……相変わらず用件だけだな」

 寂しそうに呟く。

「返事が来ないよりましだろう?ルイーズ。卿に平手をお見舞いして飛び出したって聞いたよ。それでも僕を君の捜索に使ってくださったわけだし」

 オーギュストはルイの横から手紙をのぞき込んだ。

「確かに……それには驚きましたけど……追っ手はかかっているとは思いました」

 ルイは手紙を四つに折ってから上着のポケットにしまった。

「んじゃ、まあ、今からでも行きますか?」

 キリムがソファから立ち上がる。

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