初恋への手紙
遥乃陽 はるかのあきら
The memory of first love
突然、手紙を書くことを許して欲しい。あなたが僕の知っている女性だと信じて書いています。間違っていたのなら、ごめんなさい。
*
もう
僕が
仕事は多く、結果と実績を出す必要が有りますが、時間的に割り切って働いています。プライベートは、ゆっくりと楽しんでいます。単身赴任は、……もう
*
僕のこと、
*
それは弱々しくも恥ずかしさに
*
最後に別れた相模大野の駅は全く新しくなって、あのカツ丼を食べて別れた店が、どの
横浜港の青空が抜けるように
君はすっかり忘れているだろうな。
『今さら……、憶えているほうが
*
偶然でした。君は気付いていないかも知れないけれど、二度、君を見た事が有ります。二度とも見たのは金沢市でした。
一度目は、児童会館前の広場です。二人のお子さんと
二度目に見掛けてからも、だいぶ
*
中学二年生から君にはっきりとフラれるまで、……君には何度もフラれたよね……。あの頃の僕は、とても君が好きでした。
初めて女の子を意識して好きになったのは、君と同じクラスになった小学三年生の時です。
次に中学二年生でクラスが同じになった日、
(あっ、やっぱり僕は、この子が好きだったんだ)と、
僕の想いに君が答えて欲しくて、いろいろと大変迷惑を掛けました。それは今、考えると君には
高校で弓道を始めたのも、君に僕を意識して
*
高校の三年間は毎朝の通学で、君が乗るバスに合わせるのに必死だっけ。バスの中で君を見付けると、できるだけ君の近くに立ちます。僕は君を不慮の事態から守り通す覚悟でいました。そんな近くにいても僕は、たった、ひらがな四文字の『おはよう』の一つも君に挨拶ができません。
君とは文通を中学二年生からしていたのに、
*
高校卒業後、でかいオートバイに乗って相模原の大学で学ぶ君に会いに行き、タンデムで横浜の港へ向かった時も同じでした。君に何を言って、二人で何処へ行って、君と何をするのか、全く何も考えていなくて、分かってもいませんでした。
『海へ行こう、東京湾、太平洋だ! まだ行ってないだろう』と、知ったかぶりな事を言って、まだ肌寒い春の曇り空の下、無理矢理に同意させた君を乗せて、自分も知らないのに適当に走り着いた先が横浜港の埠頭だっただけです。途中で道に迷い、
『潮の
『
ただ僕の君に会いたい気持ちだけが先走り、君の意思を一つも考えていませんでした。僕は社会へ出ても何一つ成長していなくて、君のことも、君の気持も……、君を全然知ろうとしていませんでした。いや、知ろうと努力してもオフでの会話を全くできていない僕は、君について分からない事ばかりでした。五年も文通して何度も想いを伝えフラれ続けていても、君の思考や性格を全然理解できていなかったのです。
さぞ君は、僕をウザくてキモい奴だと思っていた事でしょう。
*
高校二年生の夏、突然に中枢神経の病気になりました。多くの検査でも神経の障害部位を特定できなくて原因は分かりません。
左足の
病状は進行して左足全体にまで力が入りっぱなしになり、収縮した
高校卒業の頃には足首から下がり、スリッパは直ぐに
幾つもの病院の治療や薬は、全く効果が無く、多くの治療院や整体へも
誰の
歩くのが辛い。ビッコを
毎日が現実を理解するのに一生懸命でした。けれど、この症状は、どこまで進行するのだろうと、心は
ある朝、目が
そんな僕に君は心の
*
夏の雨に
秋の田を渡る風のデジャビュな匂い。
春のゆっくりと舞い落ちる桜の
冬の学校の床に
*
高校三年生の夏休みに君から暑中見舞いの葉書が届きました。葉書の差出人住所は
三時間近くも掛かってやっと着いた明千寺の町の、
突発的な嬉しさは、ときめいた心を過激に垂直上昇させて僕はもう、くらくらとブラックアウト寸前です。瞬間、書中見舞いの葉書を送ってくれた君と迷い無く行動を起こせた自分に感謝しました。だけど、シャイな僕は焦りとうろたえで、君へ挨拶をすべきなのに、顔を合わせるどころか、向ける事さえも出来ません。僕の顔は君を避けて気付かれないようにと逸らしてしまいます。
予期せぬ
明千寺の町から海沿いの町を幾つか過ぎた
『どうして顔を合わせられなかったのだろう』と、せっかく会いに来たのに、君に声も掛けられなかった自分を
それは、突然に僕が来た事で、君を
逃げないでいたなら少しは話せていて、その後の
ホワイトダックスのエンジンが掛かっても再度、ラムネを買いに…… 君に会いに行く勇気は有りませんでした。全速で
暑中見舞いの葉書を貰い、明千寺まで来て君に
*
十八歳の初秋に君と決定的な終わりをしてから、自分の
はっきりと自分が変わったと感じた時が二度有ります。君からは反省と感謝を教えられました。
デッドラインを
*
妻から先に言われてしまいました。
『ハアさん(
知り合って三年目の初夏でした。
『もちろん。結婚して下さい。二十年後も、三十年後も、五十年後も手を
ちゃんと、言葉にできていました。
『ハアさん、本当に、いろんな事が有るわよね。楽しいわ』
先日、神戸の街でデートした妻が手を繋ぎながら笑顔で言ってくれました。
僕の家族は金沢市の郊外に住んでいて、仕事でいつもいない僕を
*
あれから、本当にいろんな事が有って様々な思いや
君にも、いろんな事が有ったと思います。いや現在も、いろんな事が有るのでしょう。
*
いつの頃からだろう。君の姿を探していない自分に気が付いたのは……。
どれくらいの生き方をすれば、
どれ程の速さで生きれば、もう一度出逢えるのだろう。
君の現在は、二年前に知らされました。冬の金沢の夜……、友人達とグラスを傾けていた時に、突然、それは耳の中に触れて、といっても名前だけですが……。君の名前は、とても懐かしい心地好い響きで僕の中に入って来ました。
もう一度聞きたくて、友に、
『なに? 誰の事?』
忘れていた記憶が
以前から君は金沢に住んでいるかもって気がしていたけれど、確信を持ててはいませんでした。……十八歳の時間はあれから停まったままです。
過去を懐かしんで思い戻すのではなくて、ときめく未来へ繋げる為に、今を、
最近、急に僕の中の十八歳の僕を現在と繋げて、すっきりしたくなっただけなのです。別に十八歳の僕を再び動かすつもりは有りません。
『ずいぶんと、自分勝手な事を言うのね』
きっと君はそう思うでしょう。やはり、僕は
*
手紙を書き終えた今、あの頃に伝え切れなかった君への想いと、それを懐かしむだけの気持ちを
でも、僕は送らずに
中国の小さな町の
僕は君の幸せを願い、ずっと君が幸せでいると思っていました。だから、今の君が幸せでいると信じています。
*
もし、偶然にも君と逢える機会が有るならば、その時はちゃんと……、最初に頭を深く下げて、君に不快な気分と不安な気持ちにさせた若気の至りを、心から謝ります。
『すみません。自己中心の我が儘で、自分勝手な言葉と態度でした。本当に御免なさい』
それから、ありったけの笑顔で、あの頃は声にならなかった言葉……、それは過去形でね。
そして、『ありがとう』と言いたいです。
*
長い手紙になってしまいました。最後まで読んでくれてありがとう。
いつまでも
さようなら。
初恋への手紙 遥乃陽 はるかのあきら @shannon-wakky
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