第3話 事務所の壁中ポスター事件
この事件のことを説明する前に、予備知識として知っておいてもらいたいことがあります。
かつて私は「ただ読み.NET」というサイトに小説を発表していました。ここでは人気投票が行われ、上位になったものに関しては、電子書籍として発売されるという特典があったのです。
私は「正義の味方は三時から」「二挺拳銃お姫様」「海の底のアルテミス」「ねこねこお嬢様」「スターダストレックの精霊」の5作品を投稿し、いずれもそのサイトで発表されました。
その結果として、「二挺拳銃お姫様」と「海の底のアルテミス」が電子書籍として発売されることになったのです。これにはイラストレーターが描いた表紙もつけられました。ちなみに「海の底のアルテミス」の表紙はウエットスーツ姿のお姉ちゃんの姿です。
ここまでが前振りです。
ある日、私は昼の打ち合わせのため、現場事務所に戻ってきました。
不覚にも私は異変にすぐには気づきませんでした。
それでごく普通に打ち合わせをはじめようとしたところ、ふと異様なものが目に入ったのです。
な、なんじゃこりゃあ!
テーブルの上にある段ボールの小箱になにやら切手くらいの大きさのシールが何枚か貼ってありました。
そこにはウエットスーツ姿のお姉ちゃんが……。
よく見ると、それは「海の底のアルテミス」の表紙。
にやにやする所長。
こ、こうきやがったか?
しかしそれはただの予兆にすぎませんでした。
ふと壁を見上げると、まるで現場の安全ポスターかのように印刷された「アルテミス」の表紙がばばーんと貼られているじゃありませんか。
ふぁっつ?
それどころか、よく見ると、あっちの棚にも、こっちの壁にも、大小様々なウエットスーツ姿のお姉ちゃんが……。
いたずらにもほどがあるぞっ!
私は思わず笑ってしまいました。
怒ってもよかったんですが、なぜかツボに入ってしまい、笑いがこらえられませんでした。
笑いが止まるまで、打ち合わせは中止です。
所長、業務に支障を来す悪戯はやめてください!
それにカラー印刷なんて、経費の無駄遣いです(ほんとはそんなことどうでもいい)
はがしてもどうせ次の日にはまた貼るでしょうから、飽きるまでほっときました。
数日後、ある職人がそれを見て、不思議がってました。
「なにこの海の底のアルテミスって?」
いや、いいんだよ。君はそんなこと知らなくて。
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