あした宇宙にいこう

@rtomato

第1話

2145年、月面-日本国領有地区。

人類が月面に居住区を構え、今年で40年が経った。

僕が生まれたのは居住区が現在の形となって間もない頃の、3-D街区の医療棟のカプセルの中だった。

受精卵の遺伝情報の内部にわずかなエラーがあったため、培養カプセルの中でDNAの修復があったらしい。今では珍しいケースだ。

両親とは対面していない。というか、自分の両親が誰だか知らない。

ある時から(おそらく遺伝情報修正の義務が法律で規定されてから)、親と子という関係が意味を持たなくなった。望みどおりの遺伝子配列を持った子どもを作成できるようになり、子は親の単なる作成物になってしまったのだ。


日本国領有地区では、僕のような一般的な子供には、まず小児用ドーム内で人工知能による集団教育が10年程度実施される。ここでは生きるための基本的な知識から、生活のマナー、そして生殖器の扱い方といったことまでを学ぶ。

そして、12歳頃になるとパートナーを持ち、共同生活をはじめる。パートナーは人工知能によるマッチングの結果を参考に2、3名程度と面会し決定する。

僕にはアキリという女性のパートナーがいる。僕との適合率は97%だった。


アキリの特徴はなんといっても大きくて鋭い瞳だ。その瞳をじっと見ていると、何かに吸い込まれていくような気分になる。

髪型は女性にしては短く、透き通るほどの白い肌をしている。

10歳の基本養成試験では上位5%に与えられるA-1クラスの成績を修め、水星での調査任務にも同行した秀才だ。

パートナーとの共同生活を始めたあとは、自ら望む生活を送ることができる。

100年ほど前までは、人類は生活のための労働をしていたというが、現在は完全栄養食の量産方法の確立と月面居住地の拡大により、基本的には望まない労働を行う必要はない。


僕はこのドームの外の世界をまだ知らない。

生まれた頃からドームの中で育つ僕達が外に出る唯一の方法は、星系調査任務のメンバーになることだ。

少数の選ばれた者だけがこの職に就くことが許される。

未発見の星系の発見は人類最高の偉業とされ、その名を歴史に刻むこととなる。

僕もそんな調査士に憧れて、アキリと共に専門高等訓練を受けている。


これは僕が偉人となるまでの物語だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あした宇宙にいこう @rtomato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る