忙しい彼氏

 大学1年も終わりになってから彼が部活に入った。

 アルティメット?よく分からないけど、フリスビーを使うスポーツらしい。


 それまでは仲がいい恋人だった。

うちにも、よく来てたのに、最近は全然ほったらかし。お詫びの映画の約束も果たせないまま、上映期間が今日終わった。


 もうやだって、LINEで送った。

 既読がずっとつかないのを泣きながら見てた。


 夜になって、久しぶりに、いつものように彼が合鍵でうちに入ってきた。

 私はテレビを見たまま振り向かない。ケーキの匂いがするけどそんなに簡単に許さないし。


 そしたら彼は何も言わずに後ろに座って、私を両足で囲んで、優しく後ろから肩を抱きしめた。


 何これ。私が好きなやつじゃない。


 でも、こんなので許すと思ってるの?

 そんなに私簡単じゃないから。


 でも、背中から安心感のある暖かみが、全身にじんわりとしみてくる。これって、愛ってやつなのかなあ。


 彼が耳元で「大好き」って、囁いた。

 低い声が耳の奥の、頭の奥の、心の奥で優しく響く。もうダメだ。知ってる、私は彼から離れられない。


 もう許すって、とっくに決めてたけど、今はまだこのままでいたいから、私は拗ねた顔を止められない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る