( iii-1 )ひとり反省会:壷中天
■基本情報
ざっくりと作品解説に書いてあるが、角川書店の小説誌に投稿、掲載された作品を、後に(といっても現時点からは10年近く前になる)手直し・リライトしたものである。タイトルが示すように、『壷中、天あり』の故事にちなむ。
投稿・掲載時点では、こそあど言葉まで漢字表記するほどには、古めかしくする演出を徹底していなかった。これはリライト時に演出強化した際の書き換えである。また同様に、当初からクライマックスは「崩れた配置」によって雰囲気を作る演出を行っているが、リライトでこれも派手になっている。
また別に、冒頭からクライマックスを迎えるまで、技巧というか意図を持った記述の仕方をしているのだが、これは最初から存在していた。
本作は雑誌掲載されたことで、権利関係でこちらが好き勝手Web公開してもいいのか分からず、長らく死蔵状態だった。カクヨムが開始されたことで、まぁ角川系のサイトならいいだろ、と軽い気持ちで公開した次第である。供養だ。角川の人には目を瞑ってもらいたいし、目を瞑れないなら『凍土の英雄』おまけ編にある事案についての弁明が先だオラ。
■自己反省
カクヨム投稿した拙作の中では、高評価な部類に入る(現時点でレビュー23人★54)。
その上でこんなことを書くのは申し訳ないが、正直、自分の中では気に入っている作品ではない。投稿もした(そして掲載された)くらいなのだから、出来が悪いとは思ってはいないものの、自己評価と気に入るかどうかは別問題なのだ。
どうも結末のワンアイデアに対して、そこまでの「運び」が巧くいっていない自覚がある。もうちょっとなんとかできたのではないか。
根幹となる壺のアイデアが出た時点で、時代背景は古いものと決め、ではそのような古い文体で読ませる作品にしよう、という目論見だった。ただ、アイデアが弱いので、というかタイトルから類推されてしまうので、「分かりきったオチに向かわせるための推進力」が他に必要だった。本作ではそれを「文体」に求めたのである。
しかしまぁ、端的に言って「アイデアに対して全体が長すぎる」という結果に。逆から言うと「この長さを支えきれるだけのアイデアではない」のだ。
コンテストが原稿用紙30枚リミットなのに対し、25枚くらいは書こうとしていた記憶があり、ぶっちゃけ序盤は引き延ばしてる感がありありである。
こういう文体だと、合わない人にはとことん合わない、読まれないということもあるのだが、それは覚悟の上でのチョイスである。がんばって読もうとしてくれた人に理解されるような書き方は、最低限度として心がけている。
ストーリー、筋立てではなく、文章そのものに「読む面白さ」を持たせて読者を引きつける、という手法はあり得ると考えている。本作はこの手法でもってアイデアの現出までのストーリーを「繋いだ」。読むことそれ自体を「面白い体験」にして、それにより先へ進んでもらおうとしたわけである。
繋げていないほどの文章ではない、という自負はある。あるのだが、それが最善だったか、といえば「微妙に足りない」という反省もまたあるのだった。
もうちょっとなんとかできたのではないかな、と今は思う。もう一つ、結末に向かっていく話の流れを作れなかったか。エピソードを盛り込めなかったか。序盤から中盤にかけてが「読んでもらうこと」に奉仕してしまっており、物語の面白さというものに対して、あまり貢献していない感がある。助走が長すぎる、という言い方もできるだろう。
この反省が大きい。描写するポイントを減らし、例えば兄の存在をもう少し物語的にうまく使えていたら……
ただし個人的な、書く上での悪い癖として、「ともかく文章が長くなる」ことがある。それを考えると、もう一つ何かの要素を入れこむと、文章量が爆発的に増加し、リミットを守れなかったおそれもある。痛し痒しである。
さて初めの方で、ある「技巧というか意図」で記述をしてあると書いた。
この小説はほぼワンアイデアであり、それを活かすには、クライマックスを迎えてからの展開とそれ以前との間のギャップが大きければ大きいほどよかった。
それを作り出すための準備として、小説の書き出しから、「あっ、お菓子」という少女のセリフまでの間、『一行、一行、長い段落』という記述を延々と繰り返しているのである。
この記述で一定の型、リズムを作り、守っていたところを、クライマックスに達してからはそれを崩し、短い文章の連発を持ってくる。そのことで、読みながらの不安感を高める演出にならないかと考えたのだった。
漫然と文章を書いた場合より、多少は効果が上がったのではないかとは思うものの、さて、程度としてはどれほどか。こういう小細工というか、「気付いた読者はニヤリとできる部分」を盛り込むのが好きで、習作時代にもそういうことを多々しているのであった。もっと真面目にやれ。
ただこれは、長い段落の読みづらさとトレードオフの技ではある。これくらいの短編でやるのが関の山であろう。
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