(9)コンテスト反省会:実践編

 前回更新の「(8)コンテストに参加してみて」に続き、今回も漫画原作小説コンテストに参加してみての、より具体的な執筆そのものに関して、振り返りとともに反省の弁などをまとめておこうと思った。今回、あまり読者向けとは言えないと思うので、あんまり期待しないでおいて欲しい。期待している読者がいるかどうかは触れない。


 具体的に自作について語るので、ここに作品へのリンクを貼っておく。ネタバレってほどでもない内容への言及もあるので、気になる方はこちらを先にご一読を(狡猾な宣伝)。

 ちなみにメインタイトルは自分の中では普通に「むせいげんあんでっど」と読んでいる。さらに言うと、サブタイトルは頭韻脚韻両方踏んでいる。←どうでもいい情報


無制限アンデッド ―UNlimited UNdeads― - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054881305359




 まず、近況ノートでも少々触れたのだが、『漫画原作』という言葉に思いっきり引きずられすぎた。アイデアや構成といったところではなく、具体的な文体の部分で、その影響を受けて普段とは違う書き方になってしまったのだ。

 そのため、「枚数が長くなる」「筋運びが難しくなる」という弊害を生んでしまった。利点があったとすれば、基本的に会話劇になったので、ある種の読者層にとっては本来の文体より読みやすかったかもしれない、という程度か。


 さて『漫画原作』に引きずられた結果、どういう文体になったのかといえば――結論を言えば“地の文による説明の排除”である。




 まず小説というものは、物語や出来事の流れには関わらないところで、地の文によって「説明」を差し挟むことが出来る。今現在のストーリー展開とは関係なく、読者に必要なタイミングで、脈絡無く地の文が「説明」を始めても不自然ではないのだ。

 例えば物語冒頭、


 ――ここではない場所、今ではない時代。その地には神がいて精霊がいて、魔法が存在していた――


 という一文で世界観をざっくりと「説明」(この例だと、どっちかというと「限定」)してしまうのも、こうした「地の文による説明」に当たる。登場人物の人となり、外見、来歴を地の文で一気に説明してしまうというのも、よくある手である。


 こうした説明は、なにも三人称の特権ではない。一人称であっても、セリフ外の地の文において、いくらでも「説明」を展開することは出来る。


 対して漫画の場合、文で表現されるのは原則としてセリフであり、それ以外に「地の文」めいた、現在のエピソードから切り離すことも可能な伝達手段は持たない。モノローグという手法はあるが、これは「切り離す」ことが難しく(コマが流れれば時は流れるから)、「地の文」と同じ使い方は出来ないし、第一そんなに長くモノローグで説明するような漫画はない(テンポが悪くなる)。


 漫画で「説明」するなら、絵として(その物語の中で起きている出来事として)見せるか、登場人物の会話、セリフと、それにモノローグを組み合わせるという手法が基本形になるだろう。分かる人は、『魁! 男塾』の民明書房ネタを思い返してもらえるといい。




 自分が今回やってしまったのは、小説を書きながらも「漫画的であろう」として、「漫画では出来ない表現はなるべく使わない」ことにした、という失敗だった。それが“地の文による説明の排除”ということである。


 地の文で説明をしてしまうと、「漫画に直す行程」(要するに皮算用である)において、漫画としてそれをどう表現するのかを考えなければならないだろうからと、そもそも地の文による説明をしないようにしたわけである。


 例えば。自作『無制限アンデッド』では、主人公らが〈不死者〉であることや、それらがどういう能力として現れているのかということを、地の文ではほぼ説明していない。会話の流れの中でセリフとして語らせているのである。

 もし地の文を使ってそれをやれば、


 ――彼女の名は弥勒沙弥。15歳の時に不死化の泉に落ちたことで、何者にも傷つけられない〈アキレスの不死〉となった、〈不死者アンデッド〉である。それ以来、老いもせず、25歳の実年齢であるのに、外見は15歳の時のままだ。――


 と、基本情報は数行で済んでしまう。

 ところが、実際にはこれを誰かとの会話の中で、それも「都合があるので説明している」といういわゆる“説明セリフ”感を出さないように、「会話の必然性の中で出てきた」セリフとして、読者への説明を行っていたのだ。

 そのため情報が小出しになり分割され、読みにくさや通じにくさに繋がっていたのだった。初期はだいぶ悪かったのでひっそり改修を繰り返し、今はまだしもマシになっている。


 こういうことを知ってから『無制限アンデッド』をお読みいただくと、いかに地の文が「なにも語ってない」か分かると思う。書いてて空疎だった。



 そりゃ長くなるわな。



 元来、書くと長くなる性質なので45,000文字くらいは覚悟していたが、よもや60,000文字いくとは思わなかった。しかも最後の方は「長すぎる!」と焦って、禁じていた上述“地の文による説明”を何カ所かで行ってしまうという体たらくである。


 まったくもってしくじった。


 もし次があるのなら、もうちょっと考えて、「ほどほど」な落としどころを見つけておきたいと思う次第である。




 文体の他に、もう一つ反省点を記録しておこうと思う。


 『無制限アンデッド』というアイデア自体は、デビュー直後にはもう持っていたもの(なのでもう15年くらい前)で、キャラクター配置も当初からそんなに変えないままに、今回の執筆に向かったのだったが……


 キャラ配置は変えるべきだったなー。


 元々なかった「先生」は入れてよかったとは思ったが、話の長さというか、焦点の置き所やコンテスト推奨枚数なんかを考えれば、「他二名」の不死者は出さない方がよかったな。切り捨てるべきだった。切り捨てた上で、ヒロインと「先生」のロードムービーっぽくすれば良かった。


 ということを書きながら思ってはいたのだが、引き返すことが出来ずに書き切ってしまった……

 微妙に、「他二人」の存在意義も薄いし。


 元来は長編に考えていた構成から、キャラクターの人数そのまま中編に落とし込めるわけはなかったのだ。まぁストーリーは、元々のアイデアにあった要素はひとかけらも残ってない別物だが。




 そういった辺りが、今回のコンテストに参加しての、大きな反省点である。


 また別に、反省ではなくやってみて感じた、「あー、こういうこともあるのだなぁ」や「見切り発車なところも強かったけど、書き始めればなんとかなるもんだなぁ」ということも記録しておこうかと思うので、次回もう一回、似たような話が続く予定です、このコラム。


 というところで今回はおしまい。

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