(ii-8)無視できない“勢い”

 ――で、今までのことすべて卓袱台ひっくり返すのだが、ここまで挙げてきた面白さを評価する項目や基準、そこに当てはまらないのに「勢い」を感じさせてくれる作品ってものも、存在する。


 作者の気迫が乗り移って、文面から読み手にプレッシャーを与えてくる作品が、稀にあるのだ。


 それを指して、“無視できない勢い”と呼んでいる。


 本当に物語の「勢い」が強い・速い場合もあるし、そうではなくゆっくりだが鬼気迫る人物の思考から感じることもある。乗り移った「気迫」が表出する部分は様々だ。


 「気迫」があれば作品全体の質が上がるかどうかというと、また別物なのだけども……


 この効果については、前の「総合的完成度」で述べた「突出した部分」の評価の仕方に似ているところがある。「気迫」があっても、それだけで作品の穴を埋めストレスをすべて忘れさせる効果が、ただちに生じるわけではない。「気迫」の発揮する力、その量や質によって決まるのだろう。


 そういう意味では、実はどんな作品も、大なり小なりの「気迫」を発散させているとも言える。ただおおかたの作品は、読み手が知覚できるほどにその濃度・強度がないだけなのだ。

 そして、知覚できる程の「気迫」が、物語を良い方向へと推進しようとする時、「無視できない勢い」が生まれる。その後押しを受けて、作品は本来の実力以上の高みへと昇華していくのだ。



 ――なんだかこれ自体が、エンタメ小説のストーリーみたいだな。



 まぁ、これは書き手が狙って出来るものではない。技術ではなく精神論でもなく、「そうなってしまうもの」だからだ。

 純文学だからエンタメだからではなく、大人だから子供だからではなく、経験があるなしではなく、ひたすら単純に、純粋に、『そう書いてしまうときは、誰だってそう書いてしまう』ものなのだと思う。


 なぜそう思うかと言えば――これもまた単純に、純粋に、『その方が、面白い』からだ。




 面白がっていこうぜ、書き手諸君。

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