狐のユッコの大冒険

第29話 怒《いか》りの鉄槌《てっつい》

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　閃光（せんこう）がおさまったとき、ヒロユキとコハルはその場（ば）に崩（くず）れ落（お）ちた。

　それを見た魔王（まおう）が心底（しんそこ）、驚（おどろ）きの表情（ひょうじょう）を見せる。

　「ば、バカな。塵（ちり）も残（のこ）らぬはず……」

　当（あ）たり前（まえ）よ。今の二人は私（わたし）の毛（け）が守（まも）ったんだから。

　……それより魔王（まおう）。あんた。

　私（わたし）のコハルに、な　に　し　て　く　れ　て　ん　の　よ　！

　怒（いか）りがこみ上げ、隠（かく）していた尻尾（しっぽ）がすべて現（あらわ）れる。

　全身（ぜんしん）からあふれ出（で）る力が黄金色（おうごんいろ）のオーラになって立ち上る。

　こんなに怒（おこ）ったのは、実（じつ）に１０００年（ねん）ぶりね！

　戦（たたか）いやすいように、ミニサイズの和服（わふく）を着（き）た人間（にんげん）の少女（しょうじょ）の姿（すがた）に変化（へんげ）する。

　……ぶっとばしてやる！

　魔王（まおう）の顔（かお）の前（まえ）に瞬間（しゅんかん）移動（いどう）し、そのでかい間抜（まぬ）け面（づら）に尻尾（しっぽ）を叩（たた）きつける。

　「ぐわあぁ！」

　続（つづ）いて、顔（かお）を押（お）さえてうずくまる魔王（まおう）の腹（はら）へ転移（てんい）し、右手にこれでもかっていうほど力を込（こ）め、魔王（まおう）の腹（はら）を下から上に殴（なぐ）り上（あ）げた。

　「ふざけんな、この野郎（やろう）！」

　私（わたし）の力が魔王（まおう）のなかで爆発（ばくはつ）し、天地（てんち）に響（ひび）かせながら巨大（きょだい）な七色（なないろ）の光の柱（はしら）となった。魔王（まおう）は光に包（つつ）まれて、

　「そ、そんなぶわぁかなぁぁぁ……」

という声（こえ）を残（のこ）して消滅（しょうめつ）していく。

　私（わたし）は地面（じめん）にすたっと降（お）り立ち、腕（うで）を組（く）んできっと空（そら）を見上（みあ）げた。

　ふんっ！　思（おも）い知（し）ったか！

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　うん？　なんだか妙（みょう）に静（しず）かね。

　そう思って振（ふ）り返（かえ）ると、みんながポカンとして私（わたし）を見ている。

　……ああ！　そういえば変化（へんげ）したまんまだっけ。

　あわてて元（もと）のキツネの姿（すがた）に戻（もど）る。尻尾（しっぽ）もちゃんと隠（かく）して一本にする。

　てへへ。いやぁ。いっつも力を抑（おさ）えていたからさ。ちょっとでも実力（じつりょく）を出すのは気持（きも）ちが良（い）いね！

　上機嫌（じょうきげん）でコハルのところへ行くが、コハルも地（じ）べたに座（すわ）り込（こ）んで私（わたし）を呆然（ぼうぜん）とみている。

　ちょ、な、なによ？

　私（わたし）はコハルの膝（ひざ）の上に前足（まえあし）をのせて、顔（かお）をぺろぺろとなめた。

　「きゃっ。ちょ、ちょっと……、ユッコったら」

　その声（こえ）に、動（うご）きが止まっていたみんなが我（われ）に返（かえ）る。

　キョウコが、

　「い、今のは……。魔王（まおう）は？」

とつぶやいた。

　あはは。ちょっと力入（ちからい）れすぎて、魔王（まおう）ってば消滅（しょうめつ）しちゃったのよね。ごめんね。お仕事（しごと）うばっちゃって。

　キツネのまま、素知（そし）らぬ風（ふう）にしていると、突然（とつぜん）、コハルが私（わたし）の尻尾（しっぽ）を握（にぎ）った。

　っひゃあ！　ちょっと何してるの？

　コハルが首（くび）をかしげながら、

　「おかしいなぁ。さっきのは夢（ゆめ）かなぁ？　一本だよね」

とぶつぶつ言（い）っている。

　フローレンスが大股（おおまた）で歩（ある）いてきて、私（わたし）を見下（みお）ろし、

　「神眼鑑定（しんがんかんてい）」

と最上級（さいじょうきゅう）の鑑定（かんてい）魔法（まほう）で私（わたし）を見る。

　そして、驚（おどろ）いたように、

　「きゅ、九尾（きゅうび）の狐（きつね）？　最強（さいきょう）の神獣（しんじゅう）？」

とつぶやいた。

　あらぁ……。バレちゃった？

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　それから大変（たいへん）だったわよ。

　みんなして私（わたし）をなで回すし、「おい。どういうことだ」とか問（と）い詰（つ）めてくるしさ。

　……ま、しゃべれない振（ふ）りしたけど。

　コハルもリリーから、最初（さいしょ）の召喚（しょうかん）魔法（まほう）のことを、根掘（ねほ）り葉掘（はほ）り訊（き）かれているし。

　ようやく解放（かいほう）されたのは、もう朝（あさ）になるころだった。

　とまあこんなわけで、この世界（せかい）の魔王（まおう）は、頭（あたま）に血（ち）が上（のぼ）った私（わたし）が、うっかり倒（たお）してしまいました。

　ちゃんちゃん。