第28話 勇者《ゆうしゃ》対《たい》魔王《まおう》

 「ま、魔王まおう?」


 アスタロトのこえいて、キョウコたちがおどろきのこえを上げた。


 り立った魔王まおうは、身長しんちょう3メートルくらいの筋肉隆々きんにくりゅうりゅう威丈夫いじょうぶで、大きな四枚のつばさみじかい二本のつのをして、赤い目でキョウコたちを見据みすえている。


 地のそこからひびいてくるようなこえで、

 「アスタロトよ。下がれ」

と命じると、きずついていたアスタロトが、

 「はっ! 失礼しつれいいたします!」

って、すぐにどこかへ転移てんいしていった。


 魔王まおうんでいたうでをとき、何も虚空こくう両手りょうてむと、引きいたうでには漆黒しっこくのまがまがしい籠手ガントレットがつけられていた。


 ……どうやらこっちの魔王まおう武闘派ぶとうはのようだね。


 キョウコが勇気ゆうきしぼって、

 「人々の平和へいわをおびやかす魔王まおうよ! わたしゆるさないわ! ここで貴方あなたたおす」

 聖剣せいけんがキョウコのおもいにこたえるようにつよく光った。


 しかし、魔王まおうわらいながら、

 「ぐはははは。こんな小娘こむすめ勇者ゆうしゃだと? はなしにならんわ!」

といって、無造作むぞうさに右手をった。

 その右手から衝撃波しょうげきははなたれ、キョウコたちにおそいかかる。

 聖女せいじょいそいで障壁しょうへきったが、ビリビリとはだ衝撃波しょうげきはつたわった。


 う~ん。わるいけど聖剣せいけんをもっていても魔王まおうの方が強そうね。


――――

 「魔王まおうよ! あいつらの希望きぼう粉砕ふんさいしてくれ!」


 そこへフローレンスとたたかっていたはずのバアルが、たたかいを中断ちゅうだんしてそらんできた。

 それをいかけるようにフローレンスが走ってきている。


 魔王まおうはちらりとバアルを見て、右手で自分じぶんのアゴをでた。


 「そういえばおまえ恋人こいびとはミニーとかいったか。

 ……まったくまだ真相しんそうに気がつかないとは、我が四天王してんのうとはいえ間抜まぬけなやつだな」

とつぶやいた。


 バアルは、それをきとがめ、

 「な、なんのことだ?」

 魔王まおうはニヤリとわらった。

 「おまえおれ封印ふういんいてくれたからな。

 褒美ほうびとしておしえてやろう。ミニーの真相しんそうをな」


 それをいて、バアルもフローレンスもうごきを止める。


 魔王まおう両手りょうてを広げてかたり出した。

 「あのまちおそった魔法まほう使つかいは、おれ洗脳せんのうし力をあたえてやったあわれなおとこさ。

 ……少しでもはや封印ふういんくために、おおくの人をころし、そして、おまえ復讐ふくしゅうり立てるためにな」


 そうって、愉快ゆかいそうにガハハハハとわらはじめる魔王まおうに、バアルが絶望ぜつぼう表情ひょうじょうでわなわなとふるえている。

 「な、なんだって……」


 「がはははは。いやあ。おまえやくに立ってくれたよ。いいこまだった」

 バアルはきっと魔王まおうをにらむ。


 「き、きさま! ぐああぁぁぁぁぁ!」

 突然とつぜん、バアルがむねをかきむしった。


 それを見た魔王まおうが、

 「残念ざんねんだったな。おまえおれ反逆はんぎゃく意志いしを見せたとき、おまえぬようにのろいをかけてある。

 その絶望ぜつぼうとおまえの力は、おれのものになるのさ。がはははは」


 フローレンスがあわててバアルにちかよる。

 「ひ、ひどい。なんてこと……」

 バアルはひざをつきながら、フローレンスの手を取った。


 「すまぬ。フローレンス。おれおろかだった。くそったれが! ……み、ミニー」


 バアルのこえがどんどん小さくなっていく。フローレンスは必死ひっしいのった。

 「ああ! 我らを守護しゅごせし月の女神めがみよ。このもの苦悩くのうのろいを浄化じょうかしたまえ!」

 すると、天上てんじょうから一条いちじょうの光がんでバアルとフローレンスをらす。


 絶望ぜつぼうにゆがんだバアルのかおおだやかになっていく。

 「ふ、フローレンス。ありが、と、う」

 そして、力尽ちからつきたようにバアルがくずちた。その体から、キラキラと光の欠片かけらかび上がり、光のなかを空にかってんでいく。


 フローレンスはそれを見ながら、

 「ああ。バアル。さようなら」

なみだながしながらつぶやいた。

 やがて天上てんじょうからの光がすうっとえていき、フローレンスが魔王まおうをにらむ。

 「魔王まおう絶対ぜったいにあなたはゆるさない!」



 ずっと見ていた魔王まおうが、いきなり拍手はくしゅはじめた。

 「うむ。よい見世物みせものだったぞ。がははは」


 そして、右手の人差ひとさゆびで、だれにしようかえらびながら、

 「聖女せいじょからいくか……。ね!」


 指先ゆびさきから漆黒しっこく即死そくし魔法まほうが、一直線いっちょくせん聖女せいじょにむかってんでいく。

 「きゃああぁぁぁ」

 聖女せいじょんでいき、くずちた。


 魔王まおう意外いがいそうなかおをして、

 「ふむ……。聖印せいいんまもられたか?」


 あっという間の出来事できごとにキョウコのパーティーは呆然ぼうぜんとしていた。

 魔王まおう右手みぎてこぶしにぎりしめ、地面じめんなぐりつけた。


 「ビッグバン・バースト」


 すると魔王まおうのいたところを中心ちゅうしんに、半径はんけい50メートルの範囲はんい地面じめん一斉いっせい爆発ばくはつする。


 「きゃあぁぁぁ!」

 「「ぐわあぁぁぁ」」

 みんながあっというばされ、ちりぢりになって、地面じめんちすえられた。


 キョウコが身体しんたい強化きょうかしてびだす。

 聖剣せいけんつよく光り、キョウコは大きくジャンプして魔王まおうかおけんりかざす。

 ガキィン。

 しかし、魔王まおう人差ひとさゆび聖剣せいけん一撃いちげきめた。

 「なっ」

 おどろくキョウコだったが、次の瞬間しゅんかん魔王まおうがまるでってくるむしはらうように、手のこうでキョウコをはらいのけた。


 「あああぁぁぁぁ」

 さけこえを上げながら、ものすごいいきおいでキョウコがばされ、そのまま地面じめんを10メートルぐらいえぐって、ようやくまった。


 「きょ、キョウコ!」

 魔王まおう圧倒的あっとうてきな力にあおざめながら、アルスがキョウコにちかよる。

 そのあいだなが呪文じゅもんとなえて、魔法まほう構築こうちくしていたマーロンが、両手りょうてまえした。


 「極大きょくだい神聖しんせい魔法まほう、ホーリー・バスター!」


 その両手りょうてを中心に空中くうちゅうに光の魔方陣まほうじんがあらわれ、そこから太い銀色ぎんいろの光がレーザーのように魔王まおうんでいった。

 神聖しんせい魔法まほうの光が魔王まおうむねたる。


 キョウコの方を見ていた魔王まおうが、

 「うん?」

の気のないことを言いながら、自分じぶんむね見下みおろして、ふっといききかけると、ホーリー・バスターの魔法まほうがあっという間に四散しさんした。


 マーロンががくぜんと、

 「ば、ばかな……」

とつぶやき、ひざをつく。


 魔王まおうがキョウコたちを見下みおろし、

 「力のちがいがわかったか? ならば最後さいごくるしまぬよう一撃いちげき圧殺あっさつしてやろう」


 そううと、こしひくくして右手のこぶしかためた。

 こぶし膨大ぼうだいりょう魔力まりょく瘴気しょうきめられていく。

 それを見たキョウコたちはうごくこともできず、絶望ぜつぼう表情ひょうじょうで見ている。


 「……さらばだ! 勇者ゆうしゃよ!」

 魔王まおう正拳突せいけんづきをはなつと、そのこぶしから漆黒しっこく瘴気しょうきだんんでいく。


 「うおおぉ!」「だめ!」

 ちょ、ちょっと! なにやってるの!

 なぜかその瘴気しょうきだん正面しょうめんにヒロユキとコハルが飛びんだ。


 瘴気しょうきだんが二人にぶつかるとき、黄金色おうごんいろ閃光せんこうつよく光った。

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