弱者の逃亡劇

進道みさき

第1話 リハビリ

半年前、ぼくはうつ病になった。

その原因は特別なものではなく、ある意味普遍的なものだった。

だからあえて語ることはしない。単純につまらない、それだけだ。

もしこれが、いや実は見えないものが見えるようになってとか、隣人のオナニーを覗き見てしまってとかなら話は別だ。

そもそもそういった事象なら、好奇心を刺激されむしろ健康になるのがぼくなのだろうけど、あまりにも世間一般的で、独創性のない嫌がらせにはほとほと愛想がついた。

しかし、大人が子供じみたことをやるからこそ、その効果も大きかったのだと思う。結果的にぼくはうつ病になったのだから……。


まず、ぼくは会社を辞めた。自分の心を守る為に。

そして、家から出なくなった。最初はそれでよかった。親も兄弟も無理をしないようにと、必死に理解を示してくれた。

だが、それも長くは続かず、二か月を過ぎた頃にはぼくの存在は既に家族の荷物に成り下がっていた。

いまにして思えば、それも仕方がなかったのかもしれない。

この世の終わりのような暗い顔。笑みも見せず、反応も示さず、薄気味の悪い日本人形のようにじっとその場にいることしかできない男。近寄りたくない、それが家族であろうと当然だ。

家族に顔を合わすことも申し訳なくなったぼくは部屋に閉じこもった。

唯一、ぼくに残された逃げ場所だった。

部屋に逃げ込んだぼくは必死に考えた。確実に死ねる方法は何かを。

朝起きてから、夜寝るまで、自分にとって苦痛のない死に方や周りに迷惑をかけずに死ねる方法はないかと、真剣に考え続けた。

不思議なもので、死について考えている時はなぜか前向きになれた。純粋に楽しかった。数学者の頭の構造はぼくには分からないけれど、ロジックを辿る過程やシュミレーション、いわばぼくはそれに近いものを感じていた。もちろん、かっこよく言えばの話である。

そんな謎解きのような生活を一か月続けた。

死ぬ場所や道具、日時、環境、妄想の中でぼくは何千と自分の死に方を検証した。しかし、無情にも芸術的な死に方などは存在せず、醜い結果だけが膨大に積み上げられた。

ある時、ぼくはふと気がついた。

「あっ、ぼくはまだ生きていたいのかもしれない」

その答えに気がつき、その答えに納得できたのはつい先日のことだ。

いまのぼくにはリハビリが必要だった。

生きていく上で、もしくは他者とつながる為に。

下手くそなりに勝手に書いていきます。よろしれば、ぼくのリハビリに付き合ってくれたら感謝です。

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