X20 我が家で!

「ただいまぁ」

「おじゃまします」


 そういえばこの家に私の学校の人が来るのは初めてだ。最初は北星さんだと思っていたのに、まさかの部長たち。できれば先頭はかなりあ先輩がいいな。


「おーおかえりおかえりー」


 応接間からひょっこりと優美さんが顔を出した。待ちきれなかったという表情をしている。優美さんもエクストリーム部には興味があったらしく、その面子が揃ってうちに来ると知って喜んでいたんだ。


「は、初めまして! 智恵文ともうひまふ!」


 やだかなりあ先輩が噛んだ! かわいい!


「あー、話は聞いてるよー。よろしくねー」

「ほ……本物だぁ……」


 かなりあ先輩が緊張でガチガチになっている。

 っと、他の先輩方も固くなっていた。


「あはは、固くなってるねー」


 優美さんが面白がってる。こういうときの優美さんの相手を初見にさせるのは厳しい。


「玄関先じゃあなんですから、中入ってください。ほら優美さんも構えてないで」

「はいはいー」


 優美さんは緊張している相手にやたらと絡んでいくんだ。本人としてはほぐすつもりなんだけど、知らない人にそれやると余計緊張するから。

 今じゃ私は優美さんにうりうりやられるの好きだけど、子供のころはあれがプレッシャーになってたんだ。


 私は追いやるように優美さんを応接間へ先に行かせた。



「じゃあ智恵文先輩、どうぞ」

「お、お邪魔します……」


 カチンコチンだ。こういうときはどうすればいいんだろう。


「うやっ」

「きゃぁ!」


 結局優美さんと同じように抱き着くくらいしか思いつかなかった。だけど優美さんより私にやられた方がきっと気が楽なはずだ。

 おや、かなりあ先輩の体って意外と……。


「ど、どうしたの? 藤岡さん」

「固くなってると優美さんにこんなことされちゃいますよ、先輩」

「えっ」


 さすがにそれは遠慮願いたいのだろう、かなりあ先輩は大きく深呼吸をし、心を落ち着けだした。


「そういえばその、藤岡。北峰氏は……」

「お父さんなら撮影で出かけましたよ。今ごろどっかの崖登ってるんじゃないかな」

「そうか……いや、すまん」

「お父さんが留守になるから代わりに優美さんが来てくれたんですよ」


 部長はお父さんに会いたかったんだろうな。だけどもしお父さんがいたとしたら優美さんがいなかったんだし、そこは仕方ないと思って欲しい。


「なるほどな」

「あと他の部屋に入らないで下さいね。お父さんの部屋もお母さんの部屋は仕事上トップシークレットだから」

「そんなことはさすがにしない」


 まあそこまで不躾じゃないか。なんか強引に物事を運ばせようとするイメージだったからつい。

 とりあえず靴脱いで入って下さいよ。後ろつかえてるんですから。



「ようこそようこそー。ほら座って座ってー」


 優美さんはまるで自分の家のようにくつろいでる。昔からこうだったけど、あまり遠慮がないなぁ。だけどこんなだからこそ私もすぐに馴染めたんだ。


「失礼します……」


 かなりあ先輩が挙動不審気味にソファへ座る。他の先輩方も部屋の中をきょろきょろと見回す。

 うちの壁はお父さんが撮影して気に入った写真がたくさん飾ってあるから興味あるんだろう。


「えーっと、それでエクストリーム部の諸君ー」


 優美さんの声に、部長たちは何を言われるのかと真剣な目で優美さんを見る。私はこういう時の優美さんが突然何を言い出すかは大体わかってる。昨日今日の付き合いじゃないからね。


「よし、走りに行こうか!」

「ええっ!?」


 やっぱり。みんな鳩が豆鉄砲をくったような顔をしている。


「えっと、あの、走るって……」

「走りは全ての基本だよー! ほら早く!」


 こうなると優美さんを止める方法はただひとつ。


「ていっ」

「えぐぁっ」


 背中にある、通称『優美ボタン』と呼ばれるツボを突く。すると一気にしおれてしまい、大人しくなる。よく暴走する優美さんのために開発された技だ。


「今日はみんな話をしに来ただけなんだから、いきなりそれはナシだよ」

「いやさぁ、こーゆうのは実際にやったほうが早いからさー」


 優美さんは口よりも体のほうがよく動くタイプだから仕方ないのかもしれない。だけどこの人数でいきなりどこへ走りにいくのさ。制服のままだし。


「とりあえずお話お話。メールでも言った通り、智恵文先輩は優美さんに憧れてエクストリーマーになったんだって」

「はっ、はい!」

「ほーほー、それはうれしいねーっ。どれどれー」


 優美さんは座っているかなりあ先輩の後ろへ回りじっと見つめる。かなりあ先輩は石のようにじっと固まってしまっている。


「うやっ」

「ひゃああ!」


 突然優美さんがかなりあ先輩に抱きついた。だから言ったのに。


「随分固くなってたからさー。少しは楽になった?」

「は、はうあう……」

「ん? ありゃぁ、この子の体、意外と──」

「ほらほら優美さん、智恵文先輩が凍っちゃったから!」


 かなりあ先輩から無理やり引き剥がすと、優美さんは残念そうな顔を私に向けた。

 私のかなりあ先輩なんだから優美さん相手だろうとあげないよ。



 さて、これから何の話が始まるのだろう。

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