X19 かなりあ先輩!
「おはようございます」
「来たか藤岡」
教室に若干居辛さを感じている私は、早めに登校してエクストリーム部の部室へ避難することにした。
朝早くにも関わらず、部長の他に日進先輩やかなりあ先輩、九度山先輩がもう既にいた。
「遅いぞ藤岡。一年なら最初に来るくらいの気持ちを見せろ」
「す、すみません」
「そう言うな九度山。藤岡は待望の即戦力だ。何か言ってまたごねられても困る」
えっ、ひょっとして私、めんどくさい子だと思われてる?
いやまさかそんなことはきっとないんじゃないかな。
まあそれは今いいや。とりあえず昨晩の話を部長にしてみよう。
「だから俺は言ったはずだ」
「いやー、でもー……」
優美さんとの話を部長にしたところ、ほら見ろと言わんばかりの得意顔で部長は答えた。何故かくやしい。
「でも藤岡さんはそれができて普通だって教わっていたのでしょ? だったら仕方ないと思うよ」
「そうですよ! 私は嘘ついてません!」
「う、む。確かにそうだが」
かなりあ先輩の助け船にひたすら乗る。私は責められるようなことはしていないんだ。あっ、そうだ。
「文句だったら父に言ってください」
「なっ!? い、いや、北峰氏に物申すなんてそんな真似は……」
効いてる効いてる。
あまりよそで親の名とか出したくないんだけど、この部長相手にこれ以上効果のあるものはないだろうから使わせてもらう。
大体さ、そもそもの時点で面白がって変な方向に私を育てたお父さんが悪いんだ。責任は取ってもらわないと。
「ああもうわかった。藤岡はプロならば普通レベル。これからはこう認識させてもらおう」
「それはそれで困ります」
実際にプロと比較したことないから、本当に私がプロレベルなのかわからない。更にプロと遜色ないとしても、どのラインなのかもわからない。
プロならばできて当然のことができるからといって、プロの普通レベルにいるとは限らないからだ。せいぜいぎりぎりプロと言える程度かもしれないし。
「それで藤岡、お前の姉なんだが」
「姉みたいな人ですよ。お父さんの仕事仲間です」
「似たようなものだろ。その人の名は?」
聞いてもわからないと思うな。優美さんも結局北峰竜二として活動しているんだし。
「
「は、初野!?」
あれ、また知っている様子だ。
しかも他の先輩たちも知っている様子だ。主に挙動がおかしい。
そして肩をがっしり掴まれた。しかもそれはかなりあ先輩からだった。
「ほ、本当に……本当に初野優美さんなの!?」
「えっ、あ、はい」
かなりあ先輩が私の肩から手を放すと、一言そうなんだと呟いた。
「どういうことですか?」
「ああ、かなりあは初野選手に憧れてエクストリーム競技を始めたからな」
えええっ! 優美さん、そんな凄い人だったの!?
私も優美さんに憧れてというか、いつも背中を追いかけていたんだ。そっかぁ、こんなところに共通点があったんだ。
「それにしても先輩方は色々詳しいですね」
「エクストリームは日本であまりメジャーではないからな。競技人口が少ないせいか、有名なエクストリーマーは限られている」
そういうことなら仕方ないのかな。というか、多分世界中でも競技人口は少ないと思う。だから私の──主にお父さんの周りに凄い人が集まっていても不思議じゃないか。
「それより藤岡さん、優実さんと知り合いなのね。今どこにいるか知ってる?」
「うちにいますよ」
「なっ!?」
かなりあ先輩が驚愕の表情を浮かべている。とても珍しい。
「もしあれでしたら学校まで来てもらいます? なんてね──」
「是非! お願い!」
冗談のつもりで言ったらかなりあ先輩が必死な形相でお願いしてきた。余計なこと言わなければよかった。
「でもこれから授業ありますし……」
「あっ、う……。そうよね。ごめんね」
そんな悲しそうな顔をしないでください。授業が終わったら──。
「こら藤岡!」
「がぁぅっ」
九度山先輩に後頭部を殴られた。本気じゃなかったにせよ痛かった。これでも一応女なのに! イタリアでそんなことやったら周りからボコボコにされるんだからね!
「い、痛い……」
「おっとすまん。だけどな藤岡、智恵文がどれほど初野選手に憧れていたと思っているんだ。冗談でそういうこと言うな」
「ご、ごめんなさい」
うん、ちょっと無神経だった。かなりあ先輩、ごめんなさい。
「じゃ、じゃあ先輩。学校終わったらうちまで来てもらえますか?」
「いいの!? 本当に!?」
今度は打って変わってとてもうれしそうな顔をする。いいに決まってますよ、かなりあ先輩のためならば。
「あの、な。藤岡。俺も行って……」
ああはいはい。みんなまとめていらっしゃい。
とりあえず優美さんにメールしておこう。
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