X16 普通!
「──あら、おかえりなさい」
「かなっ……智恵文先輩!」
かなりあ先輩とは数日ぶりだ。やっぱり綺麗だなぁ。目の保養、目の保養。
「おい藤岡、こっちに座れ」
人が目の保養をしているところで、空気を読めない部長が私を呼ぶ。
仕方なしに椅子へ座ると、向い合せに部長が座り、私をじっと見る。くっ、やっぱり顔だけはいい。
「それで藤岡」
「な、なんでしょう……」
真剣な目で私を見ている。何を聞かれるのか、すごいドキドキしている。
これはよくない。吊り橋効果が発動してしまいそうだ。
「お前、マリンスポーツは好きか?」
へ?
「マリンスポーツってどういったものですか?」
「お前の言う、アクティビティ的なマリンスポーツだ」
一体どんなことを尋問されるのかと思ったら、そういう話か。わざわざ聞くってことはスキューバ以外のレジャー遊具だろうね。
「そうですねぇ、割と好きですよ」
「水上バイクは乗れるか?」
「乗れますけど、普通に乗るだけですよ?」
「お前の普通は信用できん。
「波にもよりますけど、2連続くらいまでなら……」
「お前……いや、やっぱりやめておこう」
何を言いたかったんだろう。もやもやするから言って欲しいんだけど。
「水上スキーはどうだ?」
「んー、あれ、苦手なんです」
「お前の苦手も信用できん。
「そりゃあできますけど──」
「ふざけるな!」
何故か怒られ、思わず体を縮めてしまった。
「で、でも
「……お前、サマーソルトの
「トリックスコア?」
私は首をかしげた。
大会とかに出るような、本気でやっている人たちなら知っているだろういけど、私はそこまで入れ込んでないからそういった点数を知らない。
あくまでも遊びでしかやってないんだ。
「……マリンスポーツはもうわかった。ウィンタースポーツは?」
「嫌いじゃないです」
「スキーとスノボならどっちが好きだ?」
「スキーですかねぇ……」
「モーグルはできるか?」
「あっ、以前オリンピック見て面白そうだと思ってやってみたんですよ! ヘリコプターとか!」
あああ部長が無言で立ち上がって拳を震わせている。
「落ち着け英一!」
「離せ九度山! こいつに一度現実を見せてやらないと気が済まない!」
やだな部長。私はいつでも現実主義ですよ。
それより、いつも冷静っぽい部長がここまで感情的になるのも珍しいなぁ。
九度山先輩に説得され、椅子に座らされている。ほんと、なんだろうこの人は。
「……お前、なんで高校生になった」
「ひどっ」
そりゃあ背はまだ伸びきってないけどさ、あまりにも酷くない?
私だって一応女なんだし、もっとデリケートに扱って欲しい。
「もしお前が去年、中学生で全ての大会に出場していたら、優勝を総なめできたんだぞ」
「そんなまさか」
みんな努力して大会とかに出場しているんだ。遊びでやっている私が敵うわけない。
「だって苦手なものもあるし……」
「そもそも、なんでお前はそれを苦手だと思っているんだ?」
「えっと、お父さんと比べたら全然出来てないし──」
「それだ!」
突然部長は叫び、再び立ち上がった。それってどれのことだろう。
「お前の比較対象はいつも北峰竜二だ。はっきり言おう。あの人は正真正銘の化け物だ」
「あのね英一君。他人の親御さんに対していきなり化け物は失礼だと思うよ」
かなりあ先輩の言うとおりだ。お父さんは普通の人間だよ!
「し、しかしだな……」
「藤岡さんにとっては普通のお父さんなんだと思うよ。ねっ」
かなりあ先輩は素敵だなぁ。結婚するならこういう人がいいなぁ。
あれ? これじゃあ私が男になってしまう。くそう、将来かなりあ先輩と結婚する男、滅べ。
「とにかく、お前の比較対象は間違っている。この学校……にはまともなのがいないな。スポーツスクールにでも通ってみろ」
「えっ、やだ」
スクールとかって形とかやたらこだわっていそうなイメージがある。それをやれば確かに上達するかもしれないけど、私は私なりに楽しめるように工夫しているんだ。
「習いに行けといっているのではない。そこで『普通』というものを学んだらどうだという話だ」
「でもそういうところに通ってる人って上手くなりたいからですよね。向上心強いじゃないですか。私どころか、普通の人より上手いはずです」
「あのな……お前は父親と比べて劣っているからもっと付いて行きたいとか思ったことないのか?」
「それは思ってますけど」
「思っているんだな。それも向上心だろ」
「そう言われてしまえばそうなんですけど……」
「あー、もういい。お前は勝手にやって勝手に上達していけ」
なんだか見捨てられてしまった気分になった。
でも上達かぁ。そろそろ考えて見てもいいのかもしれないかな。
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