X15 勝負!

 翌日、水着を持ってくるように言われた私は、放課後部長から呼び出され室内プールへ。

 そこにいたのは部長と、昨日の先輩たち。水泳部だったんだ。


「俺は面倒なのが嫌いだ。直接対決でケリをつけろ」


 ええーっ。確かに手っ取り早いかもしれないけど、私にだって心の準備ってものがあるじゃない!


「空知君。勝ったら本当に私がエクストリーム部に?」

「ああ。だけど負けたら今後一切エクストリーム部に関わることを許さない」

「い、いいわよっ」


 ようするに入れ替え戦なわけ? やばい、緊張してきた。

 相手の水泳部の人は余裕そうな笑みを浮かべている。


「勝負は潜り。いいわね」

「ええ、かまいませんけど……」


 これだけ自信のある相手だ。きっと凄いんだろう。私なんかただ人より多く潜っているだけだし。

 それでも逃げるのは嫌だし、頑張ろう。


「それで機材はどこですか?」

「は? 潜りって言ったら素潜りに決まってるじゃない」


 げっ!

 そんなの聞いてないよ!

 動揺している私を、部長は怪訝な顔で見ている。


「どうしよう、私、素潜り苦手!」

「なんだと?」


 なんだとも何も、私にとって潜るといえばスキューバだ。息を止めて潜るわけじゃない。


「お前、スキューバが好きなんじゃなかったのか?」

「スキューバと素潜りは根本から違うんです! 私素潜り全然駄目ですから!」


 お父さんが言うには、私が得意なのは道具に頼ることだ。だから道具のない勝負じゃ完全に一般人レベルだよ。


「ふーん。じゃあ棄権する?」

「いえ、一応勝負はしますけど……」


 負けるのわかっていても、やっぱりきちんと勝負したほうがいいよね。そうじゃないと申し訳がない。


「ちなみに藤岡、どれくらい潜れるんだ?」

「多分3分くらいしか潜ってられません……。あっ、でもじっとしていれば4分くらいいけるかも」

「「えっ!?」」


 部長と水泳部の人たちが驚きの声をあげる。潜るの好きなのにたったそれだけ? みたいな感じなんだろうな。うう、嫌だなぁ。

 せめて何か道具を……。


「あの、重りバラストは付けていいですか?」

「あっ、いや、その……」


 水泳部の人が少し挙動不審になっている。可哀そうな子に勝負しかけちゃって悪いなぁみたいに思ってるんだろう。


「すみません部長。入って早々退部するかもしれません……」

「お、おい」


 部長も自分の目が狂っていたとか、お父さんの名前だけで選んだことに後悔しているかもしれない。

 これできっと終わりなのかな。折角入ったのに少し残念だ。せめてスキューバで潜りたかった。


「いやちょっと待って。あんた本当に3分潜れるの?」

「水深15メートルくらいでなら……」

「う、嘘よ!」


 こんなことで嘘ついても仕方ないと思う。勝負するんだからすぐばれるし。

 というよりも、たった3分で嘘もなにもないと思う。それとも本当はもっと長く潜れると思われていたりするんだろうか。


 私はバラストを腰に巻き、足先を水面につけた。


「ちょっ、ま、待ちなさいよ」

「え?」


 水泳部の人が水に入るのを止めた。


「これはその、あれよ。あなたが本気でやろうとしているのか確かめただけよ。うん、合格!」

「えっ? えっ?」

「仕方ないわね。私が認めてあげるわ! 頑張りなさいよっ」

「は、はいっ」


 どうも彼女は私のことを試していただけっぽく、本当に勝負しようとは思ってなかったようだ。

 よかった、本当はいい人なのかもしれない。

 緩んだ気持ちを引き締めるため、こういう試練は必要だよね。



「お前、本当にとんでもないな……」

「そんなことないですよ。だってお父さんとか5、6分は潜っていられますから」


 たまにみんなと素潜りをするんだけど、お父さんたちはいつもずっと潜っているのに私だけすぐ上がっちゃうんだ。

 上から楽しそうにしているお父さんたちを見てるのはつまらない。スキューバだったらみんなと一緒にいられるのに。


「おい藤岡」

「はい?」

「……北峰竜二を基準に考えるな。一般人は身動きしなくても2分が限度だ」

「ええっ」


 2分って、15メートル潜ったらほとんど下にいられないじゃん。それとも私を元気付けようとして嘘を?

 ……ううん、部長はそんな器用じゃない。だったら本当なの?


「あの、ひょっとして私、普通じゃない?」

「…………お前とはじっくりと話をする必要がありそうだな」



 なんだかとんでもないことになりそうな予感。

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