X14 いじめ!
「藤岡、そりゃあいじめだ」
「そんな大層なものじゃないかと……」
「いいや、いじめだ。俺の後輩に……許せんな。そいつのクラスと名前を言え」
私がしょぼくれていたら、部室にいた九度山先輩が声をかけてきた。
あまり問題にしたくなかったから何でもないって言ったのに、しつこく聞き続けるからつい話してしまった。これじゃあ告げ口したみたいじゃない。
でも九度山先輩は後輩思いなんだね。少し気が楽になった。
「ほんと些細な話なんで、やめてください」
「いいや駄目だ。そういう奴は痛い目に合わないと……」
「放っておけ」
どこから話を聞いていたのか、部長が部屋に入るなりそう言った。
「だけどよぉ」
「言いたい奴には言わせておけ。言われたくなけりゃ実力を示して黙らせろ。納得のいく結果を残しているのにまだ言う奴がいたら、そのとき話を聞いてやる」
予想はしていたけど、部長はやっぱり冷たい……というよりも、エクストリーム馬鹿だから他のことに興味はないっぽい。
「どうしてもっていうならかなりあに相談するといい」
「カナリア?」
鳥? 鳥に相談しろって言うの? やっぱりこの部長、何かおかしい。
意外にも、家に帰ったら飼っているペットに話しかけるタイプなのかな。確かにあれは癒されるけど、解決にはならないよ。
「智恵文ならまた病院だぞ」
「そうか」
うん? 智恵文、先輩?
「えっ、智恵文先輩の名前、かなりあっていうの!?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
やだかわいい! かなりあ先輩! かわいい!
和風美人な先輩がかなりあ! なんてキュートなんだ。
「で、なんで智恵文先輩に聞けばいいんですか?」
「あいつも分不相応とか散々言われていたからな。少しは参考になるだろ」
確かに色白で儚げな印象を受けるかなりあ先輩じゃあエクストリームなんて全く似合わない。お茶や生け花のほうがしっくりくる。
でもそっか、先輩も辛い思いをしたのか。それはちょっと許せない。
あんな綺麗でやさしい人だ。嫌がらせされても耐えてしまっているのだろう。なんて酷いんだ。滅べばいいのに。
「だけどそういうのってどこにでもあるんですねぇ」
「人間同士だからそういうものはどこにでもある。だけどこの学校はマシだぞ」
「そうなんですか?」
「基本体育会系だからな。陰で嫌がらせではなく直接来る」
それも嫌なんだけどなぁ。
だけど机に落書きされたり靴の中に泥を入れられたりするよりは、誰がやっているかわかる分マシなのかもしれない。
「でもお前は最悪の場合、親の名前を出せばいい」
またお父さん? お父さんの名前なんて言ったところで普通誰も知らないよ。
「前から思ってたんですけど、お父さんそんなに有名じゃないと思いますよ」
「何を言ってるんだ?」
そう言って部長が取り出した何冊かの本。ロッククライミングにスキー、海底トンネル……とにかくいろんなジャンルの本や雑誌がある。
私はその中の1冊を手に取り、パラパラとめくる。
「あっ」
私が見たページの写真には「撮影/北峰竜二」と書かれていた。
他の雑誌も手に取り、調べてみたらやはり同じ名前が。
「いいか、このアングルから撮るには、同じ速度で滑っていなくては無理だ。それにこの岩場での撮影も、同じ場所でしか行えない」
「うんまあそうでしょうねぇ」
私もいくつかの現場に同行したことあるからそれは知っている。
「カメラで撮影しつつ同じことをするのがどれだけ至難なことか。つまり、北峰竜二は世界でも最高峰のエクストリーマーであるという証明だ」
うーん、お父さん一人でやってたわけじゃないんだけどなぁ。一応世間に公表しているわけじゃないから、ばらすわけにもいかないし……。
それに普通の人っていちいち撮影者の欄なんて見てないと思う。
「あっ、これ私だ」
「何!?」
パラパラとめくっていた雑誌のひとつに、海底洞窟の写真があった。ちょっと見切れているけどこのウェットスーツ私のだ。
「ここね、けっこう海流が荒れてて面白かったんですよ。川の流れに逆らう鮭の気分でー……」
ちょっと油断すると体がひっくり返されて流されるんだ。どっちが長く同じ場所で留まれるかお父さんと勝負したっけ。負けたけど。
「……おい九度山」
「なんだ?」
「俺たちはとんでもない拾い物をしたかもしれないぞ」
部長が神妙な顔をしている。また何か勘違いされてる!?
「いやいやいや、私は普通に潜ってただけだし」
「普通に潜れるってお前、ここがどこだと思ってるんだ?」
「ここがって、ただの海ですよ?」
流れが面白いところを除けば、いくつもある海底洞窟のひとつだ。特別な場所ってことはないよ。
「ここは通称、ダイバーキラーの魔の海と言われていて、毎年何人もの上級ダイバーが命を落としているんだぞ」
そんなバカな。お父さんがそんな危険な場所に私を連れて行くはずがない。
「う、嘘ですよ。だってお父さんがお前なら大丈夫だろって気軽に連れてってくれたとこだし」
「気軽に連れて行けるだけの技術があるとわかっていたから連れて行ったわけか……」
何か勝手に勘違いして納得してる?
「お前、いい加減に自分のことを理解しろ。はっきり言って異常過ぎる」
いや、いや。私はそんなとんでもない技術ないよ。
ないはず……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます