X13 トラブル!
「瀬奈ちゃんエクストリーム部に入ったんだね!」
「あっうん」
朝会うなり北星さんが私の腕に気が付いた。
この学校では部活ごとに部章というものがあって、左腕にワッペンを貼るんだ。
私の腕にも貼ってある。自由の象徴である鳥の翼に、EXTREMEの文字。羽は銀糸で文字は金糸だからとても目立つ。
「北星さんもフリーランニング部に入ったんだね」
「まあね!」
北星さんの腕にもワッペンがある。緑のジャングルジムみたいな絵に黒いFREERUNの文字。
「だけどいいなぁエクストリーム部の部章! すっごいかっこいいよね! 他の部活なんて地味な色だしさぁ」
ちょっと派手な気もするけど、かっこいい。エクストリーム部が特別だっていうのがわかる気がする。
だけどその目立つせいで今朝は大変なことになった。
私の席は廊下側。うちの学校は黒板を見て右側が廊下。つまりワッペンのある左腕はクラス全員から見えてしまう。
「えーっ! 藤岡さんエクストリーム部なんだ!?」
「すっげー! かっけー!」
「入学早々エクストリーム部に入れるって、藤岡さん何者なの!?」
私の周りに人だかりができた。こんなに囲まれたことないからちょっと怖い。
「や、やだなあ。偶然だよ偶然」
「偶然で入れるわけないじゃん。嫌味?」
がやがやと周りが騒ぐ中、呟くような誰かの言葉が私に刺さった。
そんなつもりは全くない。偶然部長と会っただけだし、父のことも偶然部長が知っていただけだ。
私の何かを評価されたわけじゃない。
「ほらみんな、そろそろ先生来るよ! 散った散った!」
北星さんが手をパンパンと叩き、みんなを席に着くよう促す。それでも席に戻ったみんなはちらちらと私のことを見ている。
辛い。
「やー、いきなり人気者だね、瀬奈ちゃん!」
「……ぅー」
「ど、どうしたの?」
「……私って嫌味っぽいのかな……」
「そ、そんなわけないじゃん。何? 誰かにそう言われたの?」
「別にそういうわけじゃ……」
「だったら気にしなくていいよ! ねっ」
北星さんが私を励まそうとしてくれている。
誰かに言われたことは黙っていよう。北星さんは大切な友達だから、変なことに巻き込みたくない。
少し憂鬱な気分のまま部室へ向かおうとしたら、道を遮るように3人の女子が立っていた。
「あなたが1年のエクストリーム部員?」
「えっ、あ、はい」
見たところ、上級生だ。わざわざ私が通るのを待っていた?
「入学してすぐ入ったって聞いたから、どんな色香で誘惑したのかと思ったら、とんだちんちくりんね」
ちんちくりん? どうしよう、聞いたことない言葉だ。
「あの、何か用でしょうか」
「何か用? あなた、生意気ね」
えっ
今の聞き方、駄目だったの?
やばい、上級生にどう接したらいいのかわからない。普通ならきっと中学とかの部活で上下関係を習うのだろうけど、私にはそういう経験がない。
何も言わないでいると、どんどん先輩方の心象が悪くなってしまう。どうしよう……。
「あのー、先輩方。私のクラスメイトと何かあったんですか?」
私が黙り込んでしまっていたところに、通りかかった北星さんが声をかけてきてくれた。
「あなたは?」
「フリランの北星です」
「あなたには関係ないわ」
「いやー、何か先輩方にしたのかなーって。クラスメイトとして放っておくのもあれだなって」
先輩たちは色々と話した結果、「ちゃんと教育しておきなさいよ」と北星さんに告げ、去って行った。
「なんか面倒なのにひっかかっちゃったね。大丈夫?」
「あっうん」
「エクストリーム部は憧れだけど、下級生相手だとやっかみの対象になるんだね! 気を付けないと」
「そうだね……」
北星さん、わざわざ助けに来てくれたんだ。凄い嬉しい。
「やー、でもさすが喜信堂先輩を輩出したフリーランニング部。発言権があるね!」
「そうなんだ?」
喜信堂先輩といえば、北星さんが憧れている先輩だ。元々フリーランニング部で、エクストリーム部に転部したのかな。
あれ? でも部員は確か……そういえば1人怪我でいないって言ってたっけ。それが喜信堂先輩なんだろう。
「とにかく、こういうことは後からもあるかもしれないからさ、何かあったら私を呼んでよね!」
北星さんの心強い言葉に、少し泣きそうになった。
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