X11 インターハイ!
「な、ななななんですかその意味わからないものは!」
あまりの驚きようにどもってしまった。
なにその……。アイロン掛けはアイロン掛けでしょ。エクストリームってもっと危険と背中合わせ的な、ワイルドなものだと思っていたのに。しかもスキューバと関係ないし!
「何を言っている。エクストリーム・アイロニングは立派な競技だぞ」
「競技要素なんてどこにあるんですか!」
私の叫びなんてどうでもよさそうに、部長はスタスタと部屋の隅に行き、棚から1冊の小冊子を取り出し私に押し付けた。
なになに、『エクストリーム・アイロニング インターハイスクール選手権出場概要』……って、全国大会あるの!?
エクストリーム・アイロニングインターハイには主に3種類の競技がある。
ひとつが陸上、崖の上で行うアイロン掛け。ふたつめはその崖の下、ロープで吊るした状態で行う空中アイロン掛け。そしてみっつめが海中で行うアイロン掛け。この3つの競技での総合点によりチームの勝敗が決まる。
「なんで海の中でアイロン掛けるの!? 掛けてるそばから濡れちゃってるじゃん!」
「エクストリーム・アイロニングは、アイロンを掛けることが目的ではないからだ」
じゃあ何が目的でアイロンを掛けるのさ! こんな意味の分からない競技滅べ!
「ちなみにインターハイはこの3種目だが、世界のエクストリーム・アイロニングは自転車で走りながらとか、走る車の荷台で行ったりなど様々あるからな」
「もうそれやる意味がわからない……」
なんでもかんでもエクストリームと付けてアイロン掛けやってるだけでしょ。どこにも意義が見出せない。
「まあ言いたいことはわからんでもない。しかし逆にこれこそエクストリームとも言える」
逆に!?
「つまりこういうことだ。エクストリーム競技とは、日常とかけ離れたものである。しかしその日常にエクストリーム要素を取り入れたらどうなる? エクストリームが日常へと昇華するのだ。素晴らしいじゃないか」
「全っ然素晴らしくないです!」
なにこの究極のエクストリーム馬鹿。勝手にやってればいいじゃん!
……勝手にやってたからエクストリーム・ブレックファーストなんて謎の行動を起こしたんだった。
「では聞こう。もし学校が海底にあり、毎日スキューバで通学しないといけないとしたら?」
「あっ、それはいいですね!」
学校へ行くたびスキューバができるとか、なんて楽しそうなんだろう。
できればサンゴ礁が綺麗な海がいいな。サンゴの周りには色とりどりな魚が泳いでいるから、毎日見ていても飽きないはずだし。
「……俺の見込みに違いはなかったな」
部長は私の肩へがしっと掴むように手を乗せた。えっ何?
まさか以前、スキューバはエクストリームだと言っていたから、それを普段からやりたいと言う私を同類と見なした?
「いや、いやっ、一緒にしないでくださいね! 私にとってスキューバはアクティビティ的な意味なので、エクストリームとは違いますから」
「何っ、お前はもう既にエクストリームが遊戯レベルにまで昇華していたのか。なかなかじゃないか」
ちーがーうーうぅぅっ
完全な勘違いだ。私にとってエクストリームなんて遊びみたいなものだ、みたいな風に思っているんだろうけど、実際は私が楽しんでいる遊びを勝手にエクストリームと解釈しているだけだ。
「さあそうとわかればまずアイロン掛けの練習だ」
何もわかっていない部長は、アイロン台をパンパンと叩く。
うーんと、とってもやりたくない。
だけど潜りながらアイロン掛けかぁ。考えもしなかったな。やってみたらちょっと楽しいかもしれない。
何でも経験だよねと思いつつ、私はアイロンを持ち、台の前へ向かった。
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