第3話 君との旅が始まった

声を出すこともできません。

目を閉じることは冒涜のように思えました。

「目を開けるなと言っただろう。」

背の高い、黒髪の男でした。

使い込まれた茶色いコートを着て、右手には銃が握られていました。

「あの、助けてくれたんですか?」

「それ以外にどう見えたんだ。」

瞳まで真っ黒な男は、無表情に言いました。

「ありがとうございます。あなたに助けてもらわなければ、今頃死んでいました。」

深く、ハンスは頭を下げました。

「礼などいらん。俺は俺がやりたいことをやったまでだ。」

「それでも、僕が助けられたことに変わりはありませんから。」


男はジュドと名乗りました。

ジュドはハンスに、礼がしたいなら用心棒として雇ってくれ。と申し出て、ハンスの旅に同行することになりました。


「あの、ジュドさん。本当にいいんですか?」

「どうせ目的地も同じなんだ。

それに、こんなチビひとりにあとは頑張れなんて言ってさっさと行くほど、俺は外道じゃないからな。」

「でも、僕はあなたを雇うお金なんてありませんよ?」

「出世払いってことにしとけ。」

面倒そうに頭を掻きながら、ジュドは言います。

「それと……その、ジュドさん。ってのはやめろ。ジュドでいい。」

「えっ、でも……。」

「俺がいいって言ってるんだ。敬語もナシな?」

頭を雑に撫でられたあと、ハンスは静かに微笑みました。

「うん、よろしくね。ジュド。」

「おう。」


今、彼らの旅が始まりました。



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