第六章 白銀騎士団の亀裂
今までの努力は、本社の腐ったやつらも認めているということ
「てんちょう……なんでミーたちに相談してくれなかったのですか?」
その事がよほど悲しかったのだろう。七花は、今にも泣き出してしまいそうな顔で地面を見つめている。
ここにいる誰もがそう思っていることを、彼女が先陣を切って口にしたのだ。
権三郎の洋車が甲高い排気音を立てながら待機している。
何も言えずにいる店長の気持ちを代弁するかのように美夜が、
「七夏女史、そなたの言いたいことは分かるが、白銀殿も色々と考えがあっての――」
「shut the fuck up! 何度も言ってるがお前にいったい何の関係がある! これはミーたちの問題だろ! 違うかッ!」
七花の叫びがこの場の雰囲気を凍えさせる。
そこで五軒邸がすかさず二人の間に割って入り、
「七夏ちゃん、美夜ちゃんを勝手に呼んだのは私なの、ごめんなさいね」
七花はたじろぎながら、
「ね、姉さまは悪くないです。ミーはただ、関係のない人間が横からしゃしゃり出てくるのが許せないだけで……」
「そうね、でも何かの手助けになろうと関わりを持ってくれる気持ちは、受け取ってもバチは当たらないと思うの。それが偽善だとしたら、この場にはいないわ」
五軒邸のやさしく包み込むような言葉が、七花を落ち着かせ、やがて受け止める返事を引き出す。そこで五軒邸が手を叩き、
「そうそう、きいろちゃん。あなたのお陰で最悪の事態は回避できましたわ、ご苦労さま~」
絶妙のタイミングだった。
話題をふられた染屋は豊満な胸を両手で持ち上げ、
「パイッ! 不肖染屋きいろ左衛門、元気全開で頑張りましたぜ姉御ーってことでさっそく時給上げてくださいよてんちょーッ! ヨシッ、これで5千円アップ間違いなしでござるッ!」
と、店長の反応を待たずに快哉を叫んで喜ぶ。隣にいる七花が「お前がそんだけ上がったらミーなんかとっくに一万は上がっとるわ」とボソリと呟いていた。
店長は少しやつれた顔でニコリと笑い、
「了解よく考えておくよ。それとみんな、今日はこんなことになって、ごめん」
店長が皆の前で頭を下げた。
普段見慣れない畏まったその態度にどう応えればよいのか。ふたたび皆が黙りこんでしまう。
「色んなことをやってきたつもりだったけど、思うようにいかなくて、ここで身を引くことが、僕にとっても、みんなにとっても、最善の選択なのかなって思ってしまった。みんなの気持ちをないがしろにして、あんな決断をしてしまった。本当にごめん」
そこで七花が店長の前に立ち、いつものアニメ声で、
「てんちょーが毎日大変な思いをして、辛い思いをしてる姿をミーたちはいつも見てます。てんちょーはいつもニコッと笑って顔に出さないけど、ミーたちはわかっているのです。だからミーたちは、てんちょーが困っているときは助けたいのです。てんちょーが作り上げたこの店を守りたいです。それでもどう足掻いても無理なときは仕方がないけど、今回の件は無理じゃない。その証拠に権三郎はミーたちに猶予を与えてくれた。つまり、今までの努力は、本社の腐ったやつらも認めているということ」
「……だから、絶対にこの店は潰させない。今までてんちょーが苦労して築き上げたこの店を、なにがあろうとミーたちが守りぬく。ミーたちのことを大切にしてくれるてんちょーをミーたちが守る! だからてんちょー、たまには家でゆっくり休んでてください! Don't worry, we can do it. ふひ」
五軒邸が七花の隣に立ち、彼女の頭をなぜながら、
「店長、これは、ここにいる私たちの総意です」
みんな分かっていたのだ。
店長の心の内を。この店が彼にとって大切な場所であると共に、唯一心が安らげる場所だということを。
この店を守りたいという気持ちは、みんな同じなのだ。
店長は肩の荷が下りたような安心した顔で、
「ありがとう。ではお言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな」
と言って笑ったのを切っ掛けに、なんでもなかったように、みんなが笑った。
彼女たちは店長の弱音を受け止めつつ、自分たちの思いを告白して、消沈していた彼を見事に勇気付けた。
俺もいつかこんな仲間に出会えるのだろうか。
「白銀殿、貴方の穴は私たちが埋める。それが、愛する貴方の元へと集まった騎士団員としての務め。……と、そこで相談なのだが、任務を達成させた暁にはその麗しい手で私の頭をやさしくなでるという特典を、」
美夜の動機は極めて不純であったが、七花は呆れ顔で悪態をついて渋々認め、周りのみんなもそれに同調した。
美夜が延々と店長にしゃべり続けるなか美雨が、
「いぎ、
俺の妹が絶対こんな変態なわけがない。七花が「アヘ顔ダブルピースってお前色んな必殺技を知っているんだな。今度ミーにも教えろ」と、とぼけた発言をしていた。
そこで染夜が元気に手を上げ、
「ねえねえ礼子ちゃん礼子ちゃん、早番はきいろが頑張っちゃうけど深夜の人が足りなくなっちゃうよねッ? きいろはコンビニの早朝バイトと新聞配達、夜はピザ屋に居酒屋ファミレス牛丼屋でメイクマニマニだからとてもじゃないけど手が回らないよッ、うー困ったなー、あ、猫の手を借りよっか礼子ちゃんッ!」
「大丈夫よ~、私の大学から助っ人を呼ぶから安心して~」
それぞれが自発的に盛り上がるなか、店長が不安げに、
「そういえば犯人のことだけど、何か当てでもあるのかい?」
そこで五軒邸は人差し指を頬にあて、
「ん~確定ではありませんが、特定はできております~」
五軒邸の言葉に、あの時言ったあいつの言葉が浮かび上がる。
――ゼッテー後悔させてやる。
間違いない。犯人かどうかは別として、五軒邸は大神のことを差しているに違いない。
「なるほど。じゃあロキ部長を待たせることになるし、そろそろ行くとするよ。僕のいない間お店の事よろしく。それとあまり無茶はしないようにね、君たちにもしもの事があったらって考えると、僕は心を痛めるどころの騒ぎじゃなくなってしまうからね」
みんなが大きな声で返事をする。そして店長が車の中に入ろうとしたところ、
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