Prouver la vérité
「ヤダヤダヤダどうにもならないのねえどうにもならないの、どうにもならないってんならどうにかしろってばタンスにゴンスケゴンゴンゴンザブーッ!」
――ッ!
その場の重たい空気が一気に消し飛んだ。
権三郎は染屋を突き離そうともがきながら、
「ど、どうにもならないわっ、てアータなんて格好してんのよこの露出狂女! あたしがこの部門の最高責任者である以上、この決定は会社上層部の総意で――」
染屋は負けていなかった。
「この人でなしのろくでなしのゴンザブッ。売上だってトールテンチョーが舞い戻って来てからチョットずつ戻ってるのに株式会社あの木なんの木気になる木の営業部長だったらこっれくらいの事なんとかしてしてシルヴプレーッ! それにきいろ達は絶対に犯人じゃないッ、みんなこの店が大好きだもんッ、うおおおおおッ」
染屋は嫌がる彼にあざとく抱き着き、元気を普段より増量して姦しく喚き散らした。あまりの苦しさに権三郎の顔が青くなっている。
「ちょ、何とかって、だったら犯――」
「ねーみんな聞いたーッ? 犯人捕まえたらお店潰すの取りやめにするし店長も辞めないで済むってさーッあと時給アップも考えてくれるって確かにつけ加えたよラッキーッ! 任せておくれやんすゴンザブングルッ! そんなものお茶の子ちゃいちゃい茶々いのきいろ様が絶対捕まえてみせルプレでござるーッ!」
「じ、時給云々は言ってないザマス! アータたちなんかに犯人がノコノコ捕まるワケがないじゃない。というかこの中に犯人がいるかもしれないのになんでそんな自信が――」
「頭脳は子供身体はボンキュッボンでナイスバデーのこの名探偵きいろホームズ様に不可能はないざますッ! それにワトソンはここに5人もいるからもう捕まえたも同然ですよレストレード警部ッ。アルヴのみーんなで協力して絶対ぜったい犯人を曝し首吊るし首ロクロ首にしてみせるからお願いお願いお願い「シルヴプレっつてんだろ」お願いお願いお願い――……」
染屋は、権三郎をボディーブレードのように揺らしながら必死に食い下がっている。
すごい。強引な行動であるが、どうにもならないと思えた彼の口から、一縷の望みを引き出せたのだ。
まさに染屋にしかできない芸当であった。
「おいパイパイスキー、さっき言いかけたことってなんだ?」
「え? あ、いや、なんでもないっスよ」
七花が不思議そうな顔で俺を見上げる。
俺が言いたかったことは、染屋のお願いとは違い、当事者たちを感情的に糾弾する内容であった。もしあの時、あのまま言ってしまえば、彼女たちの抑え込んでいた感情を引き出す切っ掛けとなってしてしまい、今頃終わりのない論争にでもなっていたに違いない。
権三郎はとうとう観念したのか、
「わかったからいい加減にお黙りっ。誰かこの無駄に乳のでかい女を黙らせるザマスーッ」
その言葉を聞いた瞬間、染屋の顔が、雲ひとつない快晴の空に輝く太陽のように明るくなる。
染屋にしかこの場を収めることはできなかっただろう。
普段鬱陶しいぐらいの染屋の人並みはずれた元気さや明るさが、この場を丸く収めたのだ。
「わーいやったあーッ!! メルシーチェルシーママの味ッ、フランスパリはエッフェル塔ッ! 凱旋門見ずに逝ったナポレオンだって君に感謝してるぜゴンザブーッ!」
権三郎ではなく今度は七花に抱きついて歓喜の声を張り上げる。
「ゴンザブはそっちじゃ離せー!」
権三郎はしわくちゃになったスーツを正しながら曇った顔で、
「まったく……アータたちってほんっっっと疲れるから嫌いザマス」
甘いぞ権三郎。俺なんて、この内の二人とひとつ屋根の下で暮らしている。
権三郎はカマっぽい仕草で顎に手を当てて目を瞑り、
「ただし条件が二つあるざます」
そして面倒くさそうな長い溜息をつき、
「ひとつは、社長が出張でお出掛けになる日曜の朝までに犯人を捕まえること」
すると七花が、さんすうを覚えたての子供のように指折りながら、
「んーと今日が金曜日だから、きん、どー……てあと二日しかないじゃないかゴンザブー!」
「クッ、好き勝手言ってくれるわね。そうよ、このバカチチ女のお陰で独断で決めさせられたアタシの身にもなって頂戴。だからそれまでにアータたちで勝手にどーにかして犯人を捕まえてみせなさい。あとはこのアタシが何とかするわ。はぁ社長がお怒りにならなければいいのだけど……」
たしかに二日はきつい。しかし犯人を捕まえることさえできれば、状況を覆すことができる。
「二つ目は、白銀ッチに関してはそれまで間、自宅謹慎を命じるザマス」
それを聞いた途端に美夜の顔が、赤紙を貰って任地に赴く兵士のように蒼白になり、
「し、白銀殿をどうする気だッ!」
「どーもしないわよ。いーい? この件はあたしたちだけの秘密なの。何かのきっかけで社長の耳に届くようなことでもあったら、ここにいる全員タダじゃ済まないわ。ってアータまだいたの? 一体誰なのよ」
片膝を折って愕然とする美夜に代わって美雨がずいっと前に出て、
「いぎ、ボクのおねいちゃんだよ」
権三郎は「まだこんなのがいたの?」と眉間に手を当て、ため息をつく。
「ここにきてまさかのゲイキャラ。この店もなかなかどうしておもしろいキャラが揃う店だ、白銀氏を除いて。いぎぎ、おにいちゃんはねえ、基本バイだし受けも攻めもいける口だけど、まだここのおんにゃの子たちを攻略してないから順番待ちは必須。それでも今すぐおにいちゃんのやおい穴にぶち込みたくて仕方ないならこの店のキッズルームを貸すけど?」
俺の妹がこんなにヘンタイなわけがない。
「客は今ゼロなのでしょう? だったら二階の角部屋か、いや、スタッフルームがいいわ。ロッカーに両手を預けて下半身丸出しのみかどッチのやおい穴に……って何言わすのよこの変態エロガキ! ハァ、この子たちがみかどッチのと同じ血を分けた兄弟だなんて世も末よ。こんなこと言いたくなけど、うちのバイトとどっこいどっこいね。ああ、早くどっかに消えるザマス、アータのハート目はあたしの何かを狂わせるわ」
そこに五軒邸がやってきて深々と彼に頭を下げ、
「お心にかけていただき、本当にありがとうございます部長~」
「フン、礼を言うのはまだ早いわ。なぜならあたしはまだアータたちを疑っている。だって口だけなら何とでもいえるもの。しかしま、あのチチデカ女がここまで食い下がってくるとは思ってもみなかったわ。認めたくないけど、嘘は言ってないと思う。あとはアータたち次第。口先と真実が釣り合っているところを見せて頂戴。自分たちの無実を、証明してみせなさい、プルヴェ・ラ・ヴェリーテ」
「自分たちを信じてくれたことに、心からの謝辞を~」
五軒邸が穏やかに笑う。髪は元に戻っていた。
権三郎は少し顔を赤らめてそっぽ向き、
「わ、わかってるとは思うけど、犯人の確保も含め店のことはアータ達だけでまかないなさい。何かあった時はアタシに連絡するといいわ。じゃあ白銀ッチ、さっさとお別れを済ませてここから引き上げるとするわよ。先に車で待ってるザマス」
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