あーいえばこーゆう性格が気に食わん
「初めまして、店長の
少し短めで跳ねっけのある栗色の髪。整えられた眉。優しげで髪と同じ色合いを持つ瞳。高くはないが形の整った鼻梁に、薄い唇。俺が女なら惚れてしまいそうなほど見た目パーフェクトなイケメンメガネ男子であった。
俺はその見た目の良さに圧倒されながらもぎこちない挨拶を返し、震える手でポケットから履歴書とバイト許可証を取り出し、彼に渡した。
彼は履歴書を手に取ると中身を取り出してバインダーにはさみ、胸ポケットからボールペンを取って吟味を開始した。
時間が止まってしまったかのような静けさに、この店に来たとき味わった緊張が蘇る。
汚い字で書かれた中身のない経歴に、彼は一体何を思うのだろうか。よれた字体から性格などを判断し、従業員として機能するのか、既存の従業員と協調性を保つことができるのか、店長の指示、方針についてこれるのか、果たして接客業にむいているのだろうか。そんな様々な想像を膨らませ、俺がバイトとしてやっていけるかどうかを、たった一枚の紙切れに書かれた情報を頼りに脳内でイメージしているのかもしれない。
こんなとりとめのない想像なんて無意味なことぐらい百も承知であったが、このような想像をかき立てられるのは、これが人生初のバイトの面接だからこそであろう。
履歴書を読み始めてから数分が経過した。彼はようやく目を離して俺を見て微笑む。緊張一瞬。質問がくる。カチコチに固まった顔面のエクリン線から緊張の糸が引いた。
彼が、面接のスタートを切る第一声を放つ、
「き、」
バタンッ!!
――ッ!?
突然何かが爆発したような音が真横から弾け、そのあまりにも強い衝撃波によって折角きめたヘアスタイルが台無しになってしまった。店長と二人して振り向くと、そこには、迷彩柄のフレンチメイド服に着替え直したあのサバゲー女が、茶菓子セットを両手に抱えて立っていた。
大きなリボンを腰裏でとめた白いエプロン以外、頭のカチューシャ、フリフリのついた短いスカートにローファーのすべてが迷彩仕様であった。先ほどまで無造作に扱われていた長い銀髪を両サイドに結わえられており、ぶっちゃけるとかなりカワイイと思うが、ツンとしてエラそうな雰囲気がすべてを台無しにしていた。そう、こいつに絶対的に欠けているものは笑顔だ。なぜこんな笑顔もろくにできないやつを雇っているのか。あきらかにこの店のマイナス要因になっているに違いない。
彼女は器用にローファーを脱ぎ捨て、裸足のままテクテクとやってきてテーブルの上に菓子セットを置いた。するといきなり何者かの気配を感じ取ったように目を尖らせ、腰裏に隠し持っていた拳銃を取り出し「そこか!」と叫んで床に転がり、L字型に設置されたテーブルの下やソファの下、カラオケの筐体周辺を探り始めた。
「あの……彼女一体何をしてるんですか?」
彼は、さも当然といったように、
「僕たちの脅威を取り除き安全を確保してくれているんだよ」
と、その光景を眺めながら微笑んでいる。この店は客を部屋に案内するときもこんなことをやらされるのであろうか。
「へ、へえ……そんなことするんですね、この店。でも……やるの遅くないですか?」
ジャカ!
ものすごい敵意を後頭部に押しつけられる。
「was it you,you scroungy little fuck,huh ?!」
俺の一言がよほど気に食わなかったのだろうか、なにを言っているのか理解できなかったが、好意的な英語でないことは明らかであった。
「ある情報筋から北の諜報員が紛れ込んだというタレコミが入ったのだがお前だったか!」
「違うし。頭グリグリせんといて、痛いから」
「ふひ、必死に抵抗するところが怪しいな……諜報員でないとすれば、さては脱北だな貴様」
「面接に決まってんだろ! 店長、この子どうにかしてください」
彼女は止められると、小さく悪態をついて銃を下ろし、
「ここは店長に免じて引き下がってやるが、お前のあーいえばこーゆう性格が気に食わん。よし、こうなればお前がアカのどん百姓かどうかこのミーが見極めてやる」
「は? なんで俺がアンタに認められなきゃならねんだよ」
「店長いいですか?」
「いいよ」
バコン。(前頭部がテーブルに突き刺さる音)
「イテテ……店長やめてくださいよそんな冗談。こんなやつほっといて面接しましょう!」
「それを決めるのはお前ではない……ミーだ!」
「店長だよッ!」
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