それ以上の大義がどこにあると言うのか
手当てを受けはじめてから数分と経たない頃、こんな声が聞こえた。
「痛つつ……、クソッ、一体なにが起きたンだ」
大神だった。
周囲の状況を見回すと、大神をはじめとする数人の手下共が意識を取り戻し、ヨロヨロと体を動かし始めていた。
「アン、なんだこの丸っこいの? て、BB弾じゃねーかこりゃ。誰だこんなことやりやがったのは! オイ、オメーらいつまで寝てやがんだ。さっさと起きやがれ!」
大神の態度は、仲間のことを何とも思っていないような粗暴なものだった。
残りの手下共が彼の蹴りで意識を取り戻していく。
大神が腫らしたおデコをさすりながら前を見ると、そこには、偉丈夫の如く堂々と腕を組んだ美夜が立ちはだかっていた。
「アン? ンだテメーわ」
「弟を手にかけたのは貴様であるか?」
美夜が、怒りのオーラを全身に漲らせながら、身長差のある大神を下から突き上げるように
「は? 誰だか知らねーがグダグダ抜かしってっとイテー目に――」
「弟だけではなく、友に辱しめを与えたのは貴様であるかと訊いている」
「なンだありゃオメーの弟かヨ。まぁ、気にすンな、親切でしてあげたことだ」
美夜は、大神の胸倉をえぐり取るように掴み、
「キッ、サッ、マアアアアアアアアアアアアッ!」
「グアッ、ンだこの馬鹿力は……万力か、離せッ」
「天神地祇に
「ヒイッ、ま、待て、命令したのはたしかに俺だが、やったのはコイツらだ、早まンな」
あっさりと手のひらを返すようなこの態度。これまで俺にとってきた態度が嘘だったように思える。実はこれが彼の本質で、見るからに弱い者を虐げ、見るからに強い者には媚を売って、自分の立場を上げて権力を掴んでいく。そんな最低な人種ではないだろうか。
ところが、
「オオッ、やっと来やがったのかオメーラ! 遅せンだヨ、ここ、コッチだ!」
大神の顔面を捉えていた美夜の拳がピタリと止まる。
何かと思いエントランス側に目を向けると、今度は大神と同年代風の、様々な格好をした男たちがぞろぞろとホールに向かって歩いてきた。
大神はこの状況を優勢とみたのか、美夜の腕を乱暴に掴み、
「オイ、テメーいつまで胸倉掴ンでンだ、離せゴラアッ!」
情けない声で命乞いをしてたかと思いきや、援軍が到着したと同時に180度態度を変える。
そのことが、周りに仲間がいないと何も出来ないことを証明している。やはり、彼の強さは見せかけだったということだ。
新たに現れた者どもを含めた男たちが、一階フロア半分を埋め尽くすくらいの人数で、俺たちの周りを取り囲んでいく。
そして、五軒邸が頭をはっていたという、烈怒妖精の六畳旗が立てられる。
「とりま形勢逆転ってワケだなァ、えーオイ。俺に叩いた上等詫びンなら今のウチだ、でねえと血を見るのはオメーの方だぜぇ、ケケケ」
「ふむ、有象無象どもが寄ってたかり、か弱き婦女子を手籠めにする……か、ならばコレを使わせてもらおう」
美夜は大神の脅しに怯むそぶりもなく、腰に佩いた軍刀を見せびらかすようにマントを跳ね上げる。
「ポ、ポン刀? テメー卑怯だぞコノ野郎!」
「模造刀如きで大童とは里が知れるな。なに案ずるな、私一人でキサマら凡愚共を相手取ろうというのだ、これくらいのハンデは当然あって然るべきだと思うが、如何に」
大神は薄汚い笑みを浮かべ、
「ケケケ……たしかにオメーの言うとーりだ、この人数をたった一人で相手しようってンなら大いにハンデは必要だ。じゃー手始めにオメーの仲間に妙なモノぶっ放すなって命令しろ」
「元より、その覚悟あってのこと」
姉貴が無言で片手をあげると、二階で待機していた隊員たちが一斉に銃を下げる。
「言い出したのはそっちだぜ、今さらナシにしてくれって言っても聞く耳もたねえ、さーてどう料理してやるか」
「生きて虜囚の辱めなど受ぬ……死なば諸共」
自殺行為だ。
「な、なにヘンな事考えてンだ! 俺たちのためにそんな時代錯誤なマネするンじゃ――」
「それ以上の大義がどこにあるというのか! いみじくも、私はそれを証明する為にここにいる」
鯉口が切られ、磨き抜いた刀身をお披露目するかのようにゆっくりと柄頭を抜いていく。
一瞬本物と見紛うばかりの鋭さに、周りが一斉に固唾を飲んだ。
「身ハたとひ、白銀の野辺に朽ちぬとも、留め置かまし大和魂」
切っ先を大神の真正面に突き立て、霞に構え、
「我、特攻す」
「ぬァめェやがってえェッ。オメーラ、女だからって遠慮すンじゃねえ、ヤっちめええッ!」
――なんで俺はこんな時に役に立てないんだ。
「姉貴いいいいいいいいッ!」
大神の手下どもが美夜に向かって一斉に武器を振り上げる。
と、その時――、
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