リア充の妨げになっている元凶その2

「おねいちゃん、おにいちゃん、ただいま」


 噂をすればなんとやらで、姉に続いてのご帰還であらせるは、一部の性格を除けば食べてしまいたいほどカワイイ俺の妹。夢咲学園中等部二年、姫騎士ひめぎし美雨びうのご到着であった。


 髪型は性別を感じさせないウルフスタイル。童顔で、目端が垂れ下がった眠たげなまなこと、緩みきった口元はすごく愛嬌があり、ゆるキャラ的な可愛さを醸し出している。中等部では、人懐っこいと性格と飾らない喋り方で生徒教師問わず男女共に人気があり、一部の若い男性教師なんかは自分のことを「お兄ちゃん」と呼ばせていたらしく、PTA等の教育機関で査問会議にかけられたこともあったほどだ。その可愛さたるや誰もが認めるところなのである。


 しかし忘れてはならない事が一つ。


 こいつは、幼い顔をして言うことは三十路を過ぎたおっさんそのもので、辺りかまわず卑猥な発言を繰り出す盛りのついたエロ中坊なのであった。


 美雨は、いつものようにヘラヘラと笑いながら俺にこんなことを尋ねてきた。


「いぎぎ。おにいちゃん、ボクの触手たんにエサあげてくれたの?」


「は? ああ、あの可愛げのないミミズか。て、なんで俺があんな気持ち悪いのを世話しなきゃならん!」


 ちなみに妹が触手と称したミミズは、虫かごの中に入れて玄関で飼育されている。


 ――そういえば玄関通るときキィキィ鳴いてたな。ってキィキィッ!?


「触手たんはキモくないよ! 家族同然なのにそんなこと言わないで」


 家族同然のミミズをなじられ頬を膨らませて怒る美雨は、ハバタンとかその辺のゆるキャラに引けを取らぬ破壊力があった。


 それにしてもあのミミズ、下等生物の分際で人間様を完全にナメている節がある。美夜たちが声をかけると嬉しそうに体をクネクネさせながら愛嬌を振りまくのに、たまに俺がエサをやろうと声をかけると、プイっとそっぽむいて土の中に潜りやがるのだ。


 ……てかあいつ、本当にミミズなのか?


「美雨、そういえばあのミミズ誰からもらってきたんだ? てかぶちゃけそんな不気味なモノもらってくるなよ。いや、そもそもいい年した娘がミミズ飼うとか普通だったらあり得んぞ」


 美雨はあっさりとこう答える。


「いぎ、秘宝殿の店長からもらったんだ」


「クッ、薄々気づいていたがやっぱりあのハゲ店か、妹にヘンなモン押し付けやがって。美雨、あんなロクでもないヤツからもらったモノなんてさっさと捨ててきなさい!」


 昔から近所にあるアダルトショップ大人の秘宝殿。なぜこんな平穏な住宅街にあるのかは不明だが、美雨は何かのきっかけでそこの店長と知り合い、エロに目覚めてしまったのだ。そう全部あいつのせいなのである。


 美雨は、ミミズをぞんざいに扱われたことに腹を立て、


「やらよう! この触手たんは、店長が手塩をかけて育てたのをボクにくれたんだ。だからこれは店長との友情の証でもあるんだ、このおにいちゃんのおねショタでぃるど野郎!」


 と、つぶらな瞳に涙を浮かべたオコ顔で糾弾し、俺の気になっている急所を貫いてきた。


 友情……


 美雨はそう言ったけれど、友達がほぼいない俺にとって的外れもいいところであった。限りある数人のクラスメイトからも、そのような類の感情を受け取ったことなんてないし、こちらからあげたこともない。というかどうあげればいいのか見当もつかない。しかしその言葉に琴線を弾かれたのはたしかであり、いずれクラスメイトや知り合いといった繋がり以上のものを手に入れたいと思っている身としては聞き捨てならない言葉であった。


 友情とは一体……いや、今はそれどころではない。今にも泣き出してしまいそうな美雨の表情を見てると兄である俺まで辛くなってしまうではないか。とにかく謝らなければ。


「そ、そっか。兄ちゃんお前のことが心配でつい言いすぎたよ。友情とかよくわかんないけど、その、悪かったよ。ご、ごめ――」


「いぎ、実は店長に教えてもらったんだ」


「は?」


 すると美雨の表情が一転、今度は目元を上にあげ拍車のかかったアヘ顔でねっとりと笑い、緩みきった口元から垂れたヨダレをじゅるりと拭いつつ、ハァハァと甘い吐息を漏らしながら上擦ったダミ声で、


「あのね店長が言うに、触手たんにボクの愛液を混ぜたエサをあげて、丸々太らせてからえっちなビデオとかもたくさん見せると、即効性の媚薬粘液を出す淫獣になるんだって」


 淫獣……?


「いぎ、淫獣化したら何かを与えなくても自ら精気を摂取するようになって、夜な夜なボクを求めてくるようになるんだ。触手たんに自由を奪われ、媚薬まみれになったボクはどうすることもできず、恥ずかしいところ全部可愛がられところ構わずボルチオアグ――」


「うらあああのドスケベキモハゲオヤジイイイッ。俺の妹をこんなド変態に洗脳しやがってもう許せん今から行っから首を洗ってまっとれやああああ!!」


 押っ取り刀でアダルトショップに向かおうとしたところ美夜に捕らえられ、


「フ、休めみかど。少し落ち着くといい」


「落ちついてられっか! 俺の手で性犯罪の芽を摘み取ってやる離せアイツを殺させろおお!」


「ふむ。ではひとつ言わせてもらうが、股間に立派な天幕をおっ立てながらいきりたつのはいささか説得力に欠けるというものだが、いかに?」


「はッ、しまった!」


 すかさず両手で股間を押さえる。美雨の性欲をそそらせるような顔と淫言が俺の妄想力を掻き立て、知らず知らずのうちに立派な太刀を形成していたのであった。


「なぜ気をつけをするのだ息子よ! 妹の淫言の前に、お前は屈してしまったということなのか? ええい、休め、休まりたまえい! さぞかし名のある山の主と見受けたが、なぜそのように荒ぶるのか!」


 美夜は内股で動けなくなった俺を放し、腕を組んで嗜虐的な笑みを浮かべながらこう言った。


「フフ、妹を擁護する発言の裏に潜む矛盾。妄想に抗えず種の繁栄を誇示するかのようにそそり立つ立派なイチモツ、であるか。先ほど小官が放った淫らな唾液の混じる聖水も、其のほとばしる情欲の一助となったやもしれぬな。本当にエロイおねショタおにいちゃんだなぁ美雨」


「いぎぎ、ボクは強制くぱぁでサンドイッチはお手のもんだよ常考。イグときは一緒にイこうね、おねしょたキボンヌのみかどおにいちゃん。んほぅ」


「ショタショタいつまでもガキ扱いしてんじゃねー! しかもそれは姉貴にいう言葉だろっていい加減静まりやがれエロバカ息子おお!」


 いつかのおとなしくてカワイイ妹はどこへいってしまったのだろうか。


 この歯止めの利かない性癖がなければ間違いなく最高の妹として俺の中に君臨するはずなのに。


 だが、ようやく確信した。


 リア充の妨げになっている元凶は、絶対にこいつらなのである。

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