ミーの命令を神の言葉として従え

 着替え終えカウンターに行くと、いつの間にか七花が戻っていた。俺の姿を見るやいなや、まるで幼児のようなはしゃぎっぷりで笑いだし、


「ふわははははっ孫にも衣装ぶわははははは!」


 くっそおおお、似たり寄ったりの服着てるくせしやがってえええ!


「七夏くん。初キスのお相手の姿はお気に召したかい?」


 七花はピタリと笑うのをやめ、


「店長ー! あの記憶はデリートしたばかりなので思い出させないでください。てゆーかほんとにこんなヤツ入れるんですかぁ? ミーは一人でもノープロブレムなのに」


 偉そうにふんぞり返る彼女の仕草にイラっときたがあえて堪えることにした。悔しいが、これからこの女にも色々と教えてもらわなくてはならないのだ。

 その感情が表に出ているのが分かり、隠すために下を向いていると、


「言っとくがミーは先輩でエライんだぞ? これから海兵隊マリーン方式でシゴきたおしてやるから覚悟するんだなジャップ」


「あんたも日本人じゃねえか」


 そこで店長が口下手な七花と代わり、


「七夏くんはねぇ、両親は日本人なんだけど、生まれも育ちもアメリカなんだ」


 なるほど、それで自称がmeなのか。どの学校にでもいる米国カブレのイタイ女子ではなかったということか。


「ミーの魂は星条旗と共にあり。卒業したらこの黄猿島からとっととおサラバしてやるのだ。ふひ」


「フン、そんなことはどうだっていい。それよりも海兵隊となんの関係がある!」


 すると七花が空き箱の上に乗って俺を指差し、


「Obey my orders as they would obey the word of GOD from today! 」


 ムカつくほどに流暢な英語だった。


「は? 意味がわからん。日本語でしゃべれっつーの」


「ふにににっ、今日からミーは、先輩で上司で上官で神だと言ったんだ!」


「な、なんでそうなる!」


 七花は、俺の狼狽えた反応を見るや、底意地の悪い笑みを浮かべ、


「ふひ、今日からこのミーがお前の指導教官だ。おしめが取れるまできっちりとミーが面倒みてやるから覚悟しろ。From now on, you will speak only when spoken to, and the first and last words out of your filthy sewers will be "Sir!" Do you maggot understand that?」


 そうか、こいつの意図が読めたぞ。俺の成長を恐るるあまり、早めに服従させることで反逆心を摘み取ろうとしているのだ。

 なんでも最初が肝心だ。この女にナメられないよう、ここでハッキリと態度で示さなければならない。


「いいか、俺にはでっかい夢がある。あんたみたいな暇人と一緒になって戦争ゴッコしてる場合じゃ、」


 パスン。


 目にも留まらぬ速さだった。眉間を撃ち抜かれ、痛みに顔面が広がっていく。


「痛っ……てめ顔面モロだろがッ!」


 パスパスン。


「ギィヤアアアア両眼モロはもっとアカンやろおおおおこのチビカス米軍ヲタがああああ!」


 床に転げてのたうち回る。店長の笑い声が聞こえる。笑ってる場合か!


「まだあーいえばこーゆうか。die you Son of a bitch」


 激痛が走る目をなんとか見開き、抗議をしようと試みる。が、いつの間にかどでかい機関銃を持ち構えており、


「お、おい落ち着け。そんな銃をつきつけられたらビビって弁解もできねえ。バカなまねやめてとにかく銃を下ろせ、な? オーケー?」


「OK!」


 タタタタタタタ――、


「ぎいゃああああああもう言いません許してくださいいいいいい」


 七花は全弾を撃ちきって銃を無造作に投げ捨て、


「今日からの訓練でお前は厳しいミーを嫌うだろう。だが憎めばそれだけ学ぶ。ミーは厳しいが平等だ。黒豚黄豚だろうとミーは見下さん。なぜなら、全て平等に価値がないぶわはは!」


「も、もうすでにマックスで嫌いなのですが……」


 店長が笑い転げている。止めないのですかあなた!


「ミーの使命は役立たずを刈り取ること。愛する海兵隊の害虫をな! 今日からミーの言うことは絶対だ。Do you maggot understand that?」


 害虫はお前だろうとは返せる状況ではなかった。

 俺は、本物の銃だったら全身穴だらけの体をピクつかせながら虫の息でこう言った。


「さ……さー、いえっ、さー……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る