短編「思い出」


太宰治作品で、好きなものはなにかと、尋ねらるのならば、僕は人間失格と答えるだろう。

太宰治は暗くて、悲壮感溢れる作家と思われがちだが、沢山のユーモラスを含んでいる。けれども、僕は人間失格が好きだ。

僕は、誰かに怯え続け道化を演じている。道化を演じると誰が嘘つきなのかが分からなくなる。僕は、いつも笑っていた。おかしな奴だとも言われ続けた。

けれど、それがたった一つの逃げ道であった。何処までも弱く、怯えていた僕は、人間失格が好きだった。

人間失格の焼印を押されたかのように思えた。焼印を押されることによって、気分が楽になった。僕は最低だ。僕は弱い。だから、人間失格を好きになった。

そんなある日、昔のアルバムを眺めていた。小学生の時の写真だ。みんなが真面目そうにしているのに、僕だけが歪に笑っていた。

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短編小説集 四季 巡 @sikimeguru

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