空色のコスモス

 ――真っ青だあ。


 台風明けの空を見上げ、三歳の爽良(そら)はおかっぱの髪を揺らして笑うと、ベビーカーを引く母親に振り向いた。


 ――そらの服とおんなじ。


 洗いざらして藍から青に近付いたワンピースを示す。

 赤ちゃんの頃はピンクを主に着せていたが、今や自我のついたこの子は青や水色の服でなければなかなか着ようともしない。

 視野の中で、小さな爽良の背中が遠ざかる。


 ――これ、なあに?


 堤防の斜面一面に咲いた秋桜(コスモス)の中のピンクの一輪を指す。


 ――それはコスモス。


 昨日の台風にもよく負けなかったものだ。

 一重の薄い花びらが強まる陽射しを透かしつつ揺れる。

 まるで花そのものが桃色の光を放っているようだ。


 ――これ、咲希(さき)ちゃんの色。


 おかっぱ頭がベビーカーで寝入る妹を寂しく振り返る。


 ――これは爽良ちゃんも着てた服だよ。


 少し褪めた分、より淡く優しいピンクになった、ベビー服。


 ――着てないもん。


 正確には「着たことを覚えてない」のだが。


 ――そらはそらのコスモス、見つける。


 嵐が去って雲一つない青空の下、秋桜の花がそれぞれの色を眩しく浮かび上がらせる。(了)

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