生き人形の女

 ――今日は作者さんが来るらしいよ。


 ――そうなんだ。


 彼女の笑顔に僕も強いて笑って頷く。


 ゴスロリファッションの似合う不思議ちゃんに惹かれて付き合い出しはしたものの、正直、パンフ写真からして不気味な生き人形展にはさほど気が進まない。


 *****


 ――随分、その人形ばっかり見てるのね。


 彼女の呆れ声が背後で響く。


 紅い浴衣を纏い、艶やかな黒髪をおかっぱに切り揃えた少女。


 これは、確かに髪型にも衣裳にも贅を凝らした他の人形と比べると簡素な作りだ。


 狐じみた細い切れ長の目をしており、決して愛らしくもない。


 だが、限りなく生身の少女に似せつつ、何かが決定的に異なる眼差しに生身の人間にはない生々しい妖気が立ち上ってくるのだ。


 ――このたびは、展覧会にお越しいただきありがとうございます。


 低いが澄んだ声がした。


 声の方角を振り向くと、人形に良く似て、人形にはない光を宿した瞳にぶつかる。


 ――作者の尾野珠子です。


 小柄で華奢な身体に象牙色のワンピースを纏ったその人は、すぐ傍の少女人形がそのまま大人になったというか、中年女性に化けた女狐じみて見えた。


 一度瞳が合えば、もう逸らせない。(了)

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