恋人を射ち落した日~Third
これは、私と『彼』と戦った後の辱められた物語。
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「ふあ~、アルトってそんなに強かったんだ。やっぱり…」
「えぇ、彼は、強かったわ。基本的に彼はうっかりさえしなければ最強だったもの……うゥっ!」
「?どうしたの?」
「いえ、その時の事を、そして…その後の事を思い出すと…こう、複雑な気持ちに、なるのよね…」
「?」
赤くなっているマリアージュをミュリアは不思議そうに首を傾げながら見ていた。
マリーはその時の事をミリーに語りだした。
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私が負けた。
その事実を受け入れるのに時間が掛かった。
私の実力は冒険者のランクで言うとA以上の実力を秘めていた。
なのに、負けた。しかも嫌いな人間の少年に。
私は茫然としていると流石に『血塊源界』『幽闇』、そして帝級の“闇魔法”を、しかも複数の効果の維持などで魔力を多く消費した事で疲れがどっと出たのか、立っている事も出来ずその場に座り込んでしまった。
眼の前の彼は急に座り込んだ私に少し驚いた様子だったが、右眼を見開くように私を見つめると何やら安堵した様子となった。
私は息を整えつつ目の前の彼を睨んでいた。
私と同い年くらい人間の少年なのに私以上の能力を持っている。
私は、じっとわたしを見つめている彼の眼を見た。綺麗な瞳、淀みのないクリアブルーの瞳。
(綺麗…まるで海の様…)
彼の瞳を見ていると引き込まれる様に感じていた。
そんな感想を抱いていると彼が座り込んでいる私に合わせ膝をついた。
何やら段々顔が近づいてるような気がしたが、
「はァ、ハア…あなたの勝ちよ。殺すなら今殺しなさい!私は人間に、隷属する気もない。殺すなら今-っ!?」
人間の中には勝負に勝った相手を奴隷のようにするものがいると聞いていた。
…そうね、今の帝国と呼ばれる国がその傾向を色濃く残っているのかな
私はそんなことになるなら自害する。そんな風に思い、今すぐ私を殺す様に目の前の人間に告げようとしたが最後まで言いきる事が出来なかった。
私の口が塞がったからだ。
彼の唇によって。
初めて彼にされたキス。今後もされるキス、その最初がこの時だった。
私はその初めてのキスに硬直していた。体も思考も全て。
(んっ、なに、なんで?んっ、なんで、私、嫌いな、それもさっきまで殺し合いをしていた相手に?人間なんかに、私の、初めてを!?)
私を包み込むように彼は抱きしめつつキスを続けた。
そして唇を、顔を離した彼は、突然の事態に惚けている私をのぞき込む様に呟いていた。
「…やはり、そうだった。君は俺の運命の相手だ。やっと、出逢えた…」
「はっ!?な、何を勝手なことを!し、しかも、わ、わたしの、初めてを!!」
私は怒った。当然よね。いきなり大事なファーストキスを、見ず知らずの人間に奪われたのだから。
そんな噴気していた私に彼は、
「安心しろ、俺も初めてだ!」
「ふざけるなァ!!」
そんな事をのたまった。
そして、その後、私はその場で殴ってやりたかったけど疲れと魔力不足で動く事が出来なかった。だから色々と彼に罵倒してやったわ。けど、彼は笑うだけだった。…うん、今思い返しても腹立たしい!
少し間が開いた頃には、いろいろ鬱憤を晴らすかのように罵倒した事で少しは回復でき落ち着く事が出来た私は取り敢えず立ち上がった。
私が立ちあがった後、彼も立ち上がった。
「………」
「…取り敢えず、自己紹介をしようか。俺の名前はアルゴノートって言うんだ。君は?」
無言で睨んでいると彼、アルゴノートが自己紹介して来た。そして、私の名を聞いてきた。
「ふんだ!」
「そんなに怒ることだった?よく解らないな……あの“バカ精霊王(アストレア)”の奴…」
そう言うと彼は何やら誰かに向かってブツブツと呟いていた。
「…まあいいか。そんなことより、教えてくれよ、君の名前を。…そうだね、教えてくれないと勝手な名前で呼ぶよ?」
「…………マリアージュ」
何度も教えて!と言ってくる彼に根負けした私は呟く様に、私の名を彼に告げた。
決して勝手に変な呼び名をされるのが嫌だったわけじゃないからね!
教えた後、彼は嬉しそうに笑みを浮かべると「マリアージュかぁ~うん、良い名前だね。でも長いし『マリー』って呼ばせてもらうね!」と言って来た。
私は「なにいきなり愛称で呼んでるの!」とか「どうせ何を言っても無駄か!」と思う傍ら、心の何処かで嬉しいと思っていたのかもしれないわね。
私の周囲には私の力を恐れるものしかいなく、こうしてフレンドリー?に接してくれる相手は姉さんだけだったから。
だからかな、私も彼を『アルト』と呼ぶことにしたの。私だけってなんか不満だと思ったから。
そう、この時に初めて私は彼の名を呼んだの。
恋人を射ち落した日~『英雄』の冒険譚外伝 光山都 @kouyamato
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